第20話 ……目立たないって難しい③


「神殿の目から匿うためだったんですか……」

 また、迷惑をかけてしまった。

 

「んん? また、迷惑かけたとかなんとか考えてないかい?」

 ドキッとした。カインハウザー様って心が読めるとか……


「ハハハ、大丈夫、頭の中が覗けたりする訳じゃないよ」

 やっぱり見えるんだ!?

 私の表情が変わる様子を見て、更にカインハウザー様が笑う。止まらない……


「顔に出てるわよ。困った顔や驚いた表情が、私にも丸わかりよ。嘘がつけないタイプね」

 リリティスさんも、手のかかる子を見守るお姉さんの顔で、微笑んでくれる。そんなに丸見えなの?


「まあ、正直なのは悪い事ではないさ。ただ、知らん顔が出来ないと困る場面もあるだろうから、無表情を通せる練習もした方がいいかもね」

 楽しそうに、肩を震わせながら食事を進めるカインハウザー様。

 まあ、笑いを提供したと思ってよう。


「はっ。もしかして、真実の精霊さん、まだいらっしゃるんですか?」

「ん? ……ああ、居るようだね。今は何もお願いしてないから、判定はしてないよ? シオリのそばが居心地がいいらしいね」

 一度箸を置き(スプーンでした)眼を眇めた後、微笑んで答えてくれた。

 後ろを振り返ったり、首を巡らせてみても、爽やかな白い壁や天井が見えるだけ。

「ハハハ、そう言えば、精霊を視る訓練をするんだったね。食事が終わったら、始めようか」


「お忙しいのでは……」

 パコッ


 頭で軽い音がした。木の小さな棒で頭を軽くはたかれたらしい。いったいどこから……


「無駄な遠慮はしない。子供らしく、もっと大人を頼りなさい。精霊を視る訓練をする事は、昨日約束したね?」

「はい。申し訳ありませんでした」

「もう、硬いなぁ。ごめんなさいで、いいんだよ。君は部下でも、弟子でもないんだから」

「教えを請うので、今日から弟子ですよね?」

「……なるほど。では、師匠からの最初の指導だ。

 もっと素直に子供らしくゆったりと構えなさい。精霊は、感情に影響される。力を抜いて楽にしてないとうまくいかないよ」

「はい」

 本当に教えて貰えるんだ。嬉しい。


 搔き込まない程度に急いで食べる。執事さんと奥さんのお茶とデザートはちゃんと出て来て、レモンバームっぽい爽やかなお香茶と、柑橘系のムース状のものでした。


 *****


 口の中も気持ちも爽やかになった所で、昨日出会った時と同じような農民姿のカインハウザー様とリリティスさんの後に続いて、町を出る。

 門番さんは、昨日の人ともう1人立っていた。


「巫女様、おはようございます。今日もよい風と光に恵まれますように」

 しまった。昨日、巫女様と勘違いされままにしてたんだった。


「ロイス。(神殿の)眼があるかもしれない。挨拶だけで」

「はっ。申し訳ありません」

 肩を縮めて頭を下げる。ロイスさんは生真面目でいちいち大袈裟なのかな。昨日も、もの凄く感激してたし。


「おはようございます。私の事は名前で呼んで下さい。シオ……」

「この子はフィオリーナ。フィオと呼んでくれ。しばらくわたしの館に滞在する客人だが、可愛らしい預かり物の子供ヽヽヽヽヽヽヽだ」

 カインハウザー様は私の頭を軽く抱き寄せるようにして手元に引き寄せ、背後から肩を摑んで紹介する。


「はい。フィオちゃんですね。よろしく」

 畏まった態度から一転、ウインクして親しげに挨拶してきた。

 その変わりように口をポカンと開けて見てたら、リリティスさんに口を押さえられる。

「ロイス。急に砕けすぎよ。でも、そんな感じでお願いね」

 笑ってる。言葉は窘めるものでも、声音と表情は親しげなものだった。


「自分はナイゲルです。よろしくお願いしますよ、領主様の可愛いお客人」

 みんな、順応力あるなぁ。


 ロイスさんとナイゲルさんに頭を下げ、山の方の畑を目指して歩き出したカインハウザー様達を追いかける。

「フィオ、ですか?」

「意地悪な神殿の人の耳に入りたくないだろう? 屋敷の外に出たときは、フィオって名乗りなさい。後でちゃんと色々決めよう」

「はい。色々ご配慮ありがとうございます」


 緩い坂を上り、カインハウザー様は、早朝から一仕事終えて休憩している農民達に片手で応えながら進んでいく。慕われてる領主様なんだな。


 

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次回、Ⅰ.納得がいきません


21.ここはどこ? 目立たないって難しい④

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