第20話 巫女への貢ぎ物と領主の望み
「ロイス?」
「は……ぃ。すみま……申し訳ありません」
わたしが名を呼ぶと、跳び上がらんばかりに畏まり、姿勢を正す。
「そちらの方は、精霊が見えてらっしゃるの?」
アヤメが、視線でロイスを指す。
「ロイス? 発言してもいいよ?」
「は。失礼します。自分は、生活魔道や補助魔術は苦手ですが、攻撃にも使える属性魔術が多少使えまして。両親が
そこまで詳しく答えろとは言ってないのだが……
まぁいいか。しかし、生死と安寧の男神クロノの総本山神殿で、
「精霊術は使えないのかね?」
ロイスを測っているのか、睨むように目を眇め、訊ねる
「残念ながら、加護を受けた属性魔術だけです」
例え精霊術が使えても、イエスとは言わないだろうが、ロイスは正直だからな。だからこそ、精霊に好かれるのだろう。
「そうですか……」
四大精霊の加護を持ち精霊術が使える騎士なら、討伐隊に使いたかったのだろう。
目に見えて肩を落とす大司教。
「話を戻そうか。米の扱い方は知ってるね?」
「え……と、籾殻をとって、精米すればいいんですよね。ここには脱穀機とか精米機なんてないよね」
「ないでしょうね。……領主様は、どのようにしてお食べになられるのですか?」
脱穀キ、精米キ、とは、シオリの言う、微量の雷の力で誰でも同じ効果を出せる便利な器具の事なんだろうな。
「うちの台所には、妖精と仲のいい子がいてね、ブラウニーに手伝ってもらうんだ」
瓶の中に入れて、棒で搗く方法を手振りで教えると、サクラは面倒臭そうにしたがアヤメが頷いた。
「ここには、電気で動く機械はないんだから仕方ないでしょう? 戦前だと思えばいいのよ」
「絶対、白米になる前に腕が疲れて、お腹空いて倒れちゃうよ~」
「下働きの者にさせましょう」
「ほんと~? ちゃんと出来る?」
大神官の言葉に喜ぶサクラ。
こうやって、彼女達を扱ってきてるんだな。
「炊いたり蒸したりするのですが、道具などは大丈夫ですか? 一応、館で竈にセットして使った土釜と鉄鍋を用意してありますが」
「それはありがたい。神殿にも幾つか調理道具はありますが、コメに適したモノかどうかわからないものでな、何から何まですみませんな」
部屋の隅に控えていた下級神官に預け、改めて話に戻る。いつまでもここには居たくないから、早めに済ませてしまおう。
コメと釜で、義理は果たしただろう。
「先日の巫女様方の手際は見事なものでした。前任の巫女とは違って、効果範囲も広く、精霊力も格段に高くていらっしゃる」
やや大袈裟に誉めると、サクラではなく、大神官が自慢げに頷く。
王都で見つかったという前任の巫女より精霊力も高く効果範囲が広いのも嘘ではない。
要は言い方と、演出だ。
「こちらの巫女様は、我が国の歴代の巫女達と比べても、かなり力のあるお方でな。頼りになりますわい」
「うむ。そこで相談なのですが、巫女様方は、軍の討伐には参加なさらないのですか?」
本来、討伐隊に巫女がいないなどあり得ない。巫女の力がなければ、瘴気は浄化できず、闇落ちの穢れを祓えないのだから。
現在の討伐隊は、兵士に犠牲を出しながら、人の住む地から魔獣や
「いえ、まだ能力に目覚められたばかりで、馴れておりませんのでな、今は訓練中なのですぢゃ。いずれは合流させますがの」
「え~まだ怖い~」
くねくねと悶えながら、まだ討伐隊に同行したくないとごねるサクラ。
「いつまでも甘えてられないでしょう。私達はそのためにここに居るのよ」
と宥めるアヤメにも、口を尖らせて身を竦めるだけだ。素直と言えば聞こえはいいが、年齢に対してまだ内面は子供なのだろう。
そもそも、異界から強制的に召喚されて、触れるだけで命を落とす脅威と戦うことに、素直に納得しているのだろうか……
「訓練ですか。それはちょうどいい。実は、巫女様方に、少々お願いがありまして……」
ここぞと本題に持っていく。
大神官や大賢者は迷惑そうに目を顰め、サクラはキョトンとこちらを見るが、想定内の反応だ。
アヤメは、警戒心を押し隠しながら、わたしを測ろうとする。
「実はですね。この、秋の収穫祭を前に、各国各地の巡礼者達が我が砦を通ってこちらへも詣るのですが……」
「魔の大侵攻期ですから、皆不安なのでしょうな、例年より多く詣られますの」
大神官も頷く。
「その巡礼者の事で、北の隣国と問題が起こっていまして、このままでは国王陛下にご相談にあがらなければならなくなるのですよ」
さて、彼らはどう出るかな?
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