第9話 ここどこ? 人里に潜入します①


これから夜になる。どうしようか。


 なにも持ってないから火は熾せないけど、妖精の羽衣のおかげで、凍死はないらしい。


 なにも持ってないから、腹を空かせた獣や悪意ある人から身を守る事が出来ない。けど、羽衣の効果で小物は寄って来ないらしい。


 なにも持ってないから、外敵となるものや神殿関係者から、身を隠すことが出来ない。けど、このまま森に潜んでいても、光るものを持ってるわけじゃないし、神殿関係者に見つかる心配は大丈夫かな?


 問題は、腹ぺこ獣や、強い瘴気に感化された魔獣や妖魔だよね……


 木の上にのぼって寝る? 本気で寝入ったら落ちるかな。

 この妖精の羽衣って、隠遁の術とか使えないのかな……


 取り敢えず、日も暮れるようだし、この神殿の見える繁みの中で今夜は過ごそう。

 もし腹ぺこ野獣に食べられそうになったら、一般信者のフリして神殿の入り口に飛び込む。神殿関係者全員が私の顔を知ってる訳ではないだろうから、偉い人に会わなければ大丈夫かな?


 一応、裏口の北側ではなく、一般向け正面玄関口が近い辺りの林の中で、切り株に座って、出入りする人を観察することにした。


 陽が完全に落ちて眠くなったら、このまま羽衣に包まった状態で、木の根元の落ち葉の布団の上に寝っ転がろう。

 公園や川沿いのうずたかく積み上がった落ち葉にたいてい野良猫が埋まってたから、きっと暖かいのだろう。


 ポケットの中身を再確認。


 丈の短い上着のポケットに、駅前で配られてた英会話教室の広告の入った薄めのポケットティッシュ3つ、ミニタオルハンカチ1つ、ガーゼのハンカチ1つ。

 電池87%のスマホ。

 蜂蜜レモン味ののど飴3つ。

 胸のポケットにシャーペン付き3色ボールペン。黒は半分ほど減ってる。もう一つ、スマホのタッチペンになるボールペンが1本。

 スカートのポケットに、父と母と3人で写った写真の入った二つ折りのお財布。残金は……ここでは使えないから関係ないかな。

 反対のポケットに、普通に売ってるポケットティッシュが2つ。綿の薄いハンカチ1つ。


 学生鞄は置いてきたから、今は、これしかない。

 しかも、スマホと現金は、ここでは役に立たないだろう。電池が勿体ないので、スマホの電源は落とした。



 *****



 結局、朝まで何事もなく、過ごせた。

 落ち葉の布団があったとは言え地べたに寝たせいで肩と腰が痛いけど、虫も来なかったし、心配した腹ぺこ野獣にも遭わなかった。


 神殿の方も、夜に訪ねてくる人はなく、帰って行く人ばかりで、朝、腕時計で見て7時頃(現地時間で六時頃?)人が少しづつやって来ていた。

 ここらの言い方では、二の刻(五時)と三の刻(七時半)の間になるのかな? 田舎の人(?)はみんな早いなぁ。

 遠く離れた王都は勿論、近い村でも徒歩で1時間ほどかかるみたい。それより早く起きてるんだよね? 空が薄明るくなった頃には起きて出て来てるのかな。


 神官さん達の刷り込んでくれた知識によると、一般人の移動手段は徒歩が殆ど、多少裕福な商人や地主さんだと、馬、馬車、エミューっぽい鳥ここではエロローンと呼ぶらしいだそうだから、健脚な一般人が多いのかな。


 * * * * *


 ティッシュはなにか役に立つ時があるかもしれないから、なるべく使わないようにして、洟をかむ、おトイレなどの時は、その辺の柔らかい葉っぱを使うことにした。

 なるべく泥や虫がついてなさそうな、穴の空いてない新しそうな葉っぱを選び、妖精の羽衣の端っこで撫でると、不思議とピンとするので、浄化してると信じて使う。



 北の裏口の側へ戻り、そこから西に伸びている細い道を進むことにした。


 時々、枝ぶりや切り株の年輪で方角を確認し、東には向かわないように気をつける。


 30分ほど歩くと、小さな集落が見えて来た。


 ぽつぽつ建つ、小屋のような板造りのお家の横から、煙が上がっている。


 お台所は建物の中ではなく、屋外の石を積み上げた竃っかまど ぽいものを使うらしい。雨の日はどうすんだろ……


 小さな小屋は全部でも20はないみたい。集落の真ん中を通る道の先には、畑が広がっている。


 * * * * *


 何も手荷物を持たない、だけど一部の特別な信者にしか貸与されないという羽衣を頭から被った子供が、1人で片田舎の集落を通り過ぎる……怪しさしかない。


 集落にたどり着いた頃から、人の目が集まる。


 小さな集落なので、知らない人はみなよそ者だ。

 そして監視するような目が幾つかあり、神殿にへ向かう不審番も兼ねているのだろう。


 ここでは、休んだり馴染む訳にはいかないな。


 どうせお金を持っている訳でもないし、なにか分けて貰えるとも思えないので、このまま通り過ぎることにした。


 * * * * *


 気味悪いくらいの視線から逃れると、ホッとする。

 ずっと一本道だし、畑仕事する人達も手を止めてジッと見ていたから、本当に、神殿の監視者を兼ねていたのだろう。



 しばらく緩い斜面に畑が続くが、どの人も、ただ私を見るだけで、挨拶もない。……怖っ

 もしかして、私のことが昨夜のうちに近隣の村にまわってるんじゃないかって思ってしまう。

 最初の内は考えすぎかなって思ったけど、羽衣と似た素材の白装束の旅人には挨拶をしていたから、私だけ無視されると言う事は、やはり昨夜神殿から帰っていった人達が通達したのだろう。


 神殿が見える範囲の村や町には、立ち寄らない方がいいのかも……


 別に、美弥子達に害意はないし、ただの誤回収だと言うのなら、私だけでも、日本に帰してくれないかな……



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次回 Ⅰ.納得がいきません


10.ここどこ? 人里に潜入します②

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