閑話②-4➂ 契約   

《精霊に力を借りたければ、嘘はダメ。嘘つきと交流する精霊は、ひとりも居ないから覚えておいて。『聖女』サン?》


 自称? 神官達は、私を聖女と呼ぶのに、この精霊は、それを自称と冠した。この精霊は、私は聖女じゃないと言うの?


 こんがらがりそうだったけど、そもそも、人が使う称号など、精霊には意味のないものなのかもしれない。


 気を取り直し、精霊の忠告──嘘をつくものとは交流しない、力を借りたければ嘘はつくな という点に気をつけて、話さねば。


《ンふふ。賢い子は嫌いじゃナイワ》


 窓の縁に腰をかけて、微笑む精霊。


「私は、ここの神官達に、瘴気を浄化して、穢れを祓い、悪魔や魔獣を弱体化させる『聖女』として望まれて召喚されたの」

《嘘はないようネ。納得はしてないみたいダケド》


 やはり、口に出してない感情や考えを、読むのかもしれない。


《感情や精神状態は、匂いとして舐めとる事が出来るノヨ、精霊は。女神の世界をまわす力として生み出され、それゆえにすべての精霊は、嘘を見抜き、真実を見抜く。そこに矛盾がある物は、受け入れられないの。世界をまわす力と交わらないから。忘れナイデ》


 なんだろう、窓に座って微笑んで会話してるだけなのに、凄い圧 力 をプレッシャー  感じる。


《その、アナタが今感じている圧力。それが、ワタシの霊気と魔力。存在値ヨ》


 この威圧感のような存在値とやらは、さくらの契約した精霊とは、格段に違ってかなり大きい。


《アナタのお友達が契約した、ステラと名付けられた子は、まあ、精霊としては弱くはないけれど、せいぜい千年は経ってない若い精霊よね》


 ふふふ。精霊は、笑って、窓枠から飛び降り、瞬きの間に詰め寄って、私の顔と僅かに数㎝しか隙間なく、目をのぞき込んてきた。


《イイワネ。その、精霊に対する尊敬の念も殆どない異界びとらしさ。なのにワタシの力は欲しいとか、矛盾してるようで両立してるノネ。面白いワ》


 確かに、この世界のルールに馴染んでいない、無神論者も少なくない現代日本から来た私は、ここの神官達のように神や精霊をさほど崇めてる訳ではないし、有難みが解っていない。

 今この時まで、精霊は、さくらのステラしか見た事はないし、ステラを見るまで信じても居なかったように思う。

 だけど、この、さくらのステラを弱くはないが千年も経っていない若い精霊だと言う、存在感の強い、恐らく力も強い精霊を見て、この精霊と契約出来れば、私はみんなに『聖女』の面目も立つしここでの役目を果たせるし必要とされる、と考えているのも本当だ。


 契約とは、どうすればいいのだろう。

 さくらのように、名前をつければいいの? でも、ステラを子供扱いし、目の前に居るだけで圧力を感じる大きな精霊に、まるで従属させるような事が出来るだろうか? それに、もうすでに名はあるのかもしれない。


《アルワヨ。名前。アナタ達のように親がつける訳じゃないケドネ。二千年ほど前に与えられた契約の証と、自我を持って存在するようになった頃、自分で名乗っていた名前。一度だけ、女神アルファに呼ばれた真名まな。3つ持っているわ。こんなに力を持っている精霊はそうそう居ないんじゃないかしら?》


 精霊も自己顕示欲があるのか、単に名がある事は自慢するような事なのか、或いはその両方?


 承認欲求が強い精霊……なんて事は

《ないワヨ。精霊は、女神に与えられた世界を平穏に永劫まわす事が存在意義で、アナタ達人間や動植物に存在を認められる必要はナイワ》


 精霊にとって、人間も、他の動物や植物と同じ、世界の一員で、特に関係性に上下はないらしい。


《ソウネ、この国の「魔法」を司る者としては、巫女が居なくてどこもかしこも穢れだらけで、瘴気も放置のこの状態はいただけないわ。気分も悪いし、見た目も美しくないし。

 何より、ワタシが無能でサボってるみたいヨネ。あり得ないわ》


 殆どキスしそうなほど近くに寄って、お互いの眼しか見えないほぼゼロ距離で、目に見える質量の何倍もの魔力の塊が彼女の背後にあるかのように感じられて、冷や汗と細かい震えが来る。

 でも、緊張や恐怖を悟られまいと、必死に耐え、睨み合うように、足と手に力を込めて立つ。


《フフフ。やっぱり、アナタ面白いワ。ワタシに──ワタシの見た目よりも大きい魔力と霊気を浴びて、恐怖を感じてるのに、自分が「聖女」として認められるために、ワタシに認められようとしている。やせ我慢か、震えてるケドネ》


「わ、私は、聖女として、瘴気を浄化したり穢れを祓うのに、あなたのような、大きな力を持った光の精霊の力が必要なの」

《ソウネ。女神の祝福を受けても、力を行使するには、ワタシを含め光の精霊との契約が必要ね》

「あなたは、自分の受け持ちの土地に、穢れや瘴気があるのが許せない」

《勿論よ。でも、この国の唯一の巫女は、去年魔獣に跳ね飛ばされて死んじゃったわ》

 は、跳ね飛ばされたのか……それは……


《ふふ、怖じ気ついた?》

「いっ、いいえ、驚いただけよ! 私は、聖女として喚ばれたんだから、世界を清め、魔獣退治を手伝わなくてはならないもの。怯えてるヒマはないわ」


 本当は、獣に、交通事故のように跳ね飛ばされたと聞かされれば多少は怖いし、なんで私がそんな事しなくちゃならないのとも思う。


 でも、夢を持って自分の希望の職につける人は稀だし、与えられた役目を放り出す、怠けた人間にはなりたくない。

 さくらだって彩愛あやめだって、もう役目を果たせるようになってるのだ。負けられない。


《じゃあ、イイワ。これは契約よ。アナタを世界とともに愛して守護するのとは違う。

 アナタは私が必要。ワタシは、アナタの持つ女神の代行能力プロキシスキルが必要。加護は与えるけど守護とは違うのを間違えないデネ。

 アナタとの契約の証、名前を頂戴チョウダイ?》

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