第17話 ここどこ? 人里に潜入します⑨

「そりゃ、私が素っ裸だったら大変ですけど、羽衣が濡れたらなんだか逆に透けなくなってるし、私はまだ子供ですよ? 大人のカインハウザー様が見ても楽しめるほどのものじゃないですし、まさか、リリティスさんやメイドさんがいる前で、紳士じゃなくなるなんて事、ないでしょう?」


「Oh! なんてことだ!! シオリ、確かに君は【こども】だね。うん、お子様だよ。確かにリリティスもメイドも居るさ。わたしがこの場で【紳士】をやめる事もないだろうね。

 だが、しかし、それでもどうぞなんて言っちゃダメだよ。危なっかしいなぁ、この先、一人で旅をするなんて、恐ろしくて送り出せないよ」

 とは言いつつも、大岩の裏から姿を現す。


「だって、私の国の温泉には混浴ありますよ? 勿論、他の国にも。ただし、外国では、水着や湯着を着衣の上でってルールがありますけど」

「混浴!? 外国は・・・着衣の上でって、君の国は?」

「基本、裸です。手拭いを湯につけるのはタブーですし、水着や湯着もナシです」

「おぅふ! そ、それは、なかなかアグレッシブなお国柄だね。行ってみた……」

 リリティスさんの眼が笑ってない笑顔が怖かったのか、口を噤むカインハウザー様。


 カインハウザー様が姿を見せたからか、リリティスさんの湯着は乾いてて、透けなくなっていた。う~ん、魔法って便利だなぁ。


「ベ、別に、開放感や裸の付き合いって意味もないでもないですけど、大元の理由は、衛生面です。

 手拭いや湯着に残った石鹸や皮脂、髪などが湯に溶けたり浮いたりして、湯を汚さないように、一緒に入る人への配慮から、手拭いを浸けない、湯着や水着を着ないって決まりなんです」

「なるほど。では、浄化の効果のある妖精の羽衣はともかく、リリティスの湯着は、君の国では違反行為なんだね?」

「まあ、でも、公衆倫理観から湯着を着衣の上でって場所も僅かにはあるようですよ? 医療用温泉とか。報道時は特別にとか」

「ハハハ。いつか君が大人になったら、一緒に君の国に行って、混浴をお伴してみたいね」

「大人になったら、ですか?」

 知らず、羽衣を抑える手に力が入る。

 でも、カラッと笑うカインハウザー様の様子を見るに、冗談だったようだ。

「主、このタイミングでは冗談に聞こえません」

 リリティスさんのため息が大きい。

 カインハウザー様は、肩をすくめるだけで、何も答えなかった。


「ふ、ふふふ。本当に仲がいいんですね、お二人とも。ふふ」

「主がヨチヨチ歩きの頃から知ってますからね、手のかかる弟みたいなものです」


「おお、本当だ、シオリ、いつもそうやって笑っている方がいい。とてもチャーミングだよ。リリティスの麻痺霧弾パラライズウェブを受けた甲斐があったね」

 カインハウザー様が太陽のような笑顔で、両手を広げて大袈裟なほど、私の笑顔を誉めて?くれた。


 日本人で、コミュニケーションが苦手なほぼ鍵っ子一人っ子の私には、西洋人のように大袈裟に他人を誉める風習は慣れなくて、恥ずかしいし、こそばゆいというか、居たたまれないというか、どうしていいか解らなくてもじもじしてしまう。


「おやおや、シオリは恥ずかしがり屋なのかい? 真っ赤だ。浴場なのに男にどうぞと言った大胆さと真逆で、可愛いね」

「主、それは思っても口にしてはいけません。せめて本人には聞かせてはなりませんよ。第一、オヤジ発言スケベ発言です」

「あれ? また、オジサン扱いだな。う~ん、わたしも老けたもんだ……」

「ふふふ。本当に、仲がよくておかしい。主従関係とは思えない。ンふふ」


 だいぶ遅くなって来たし、カインハウザー様の言葉に火照ったり、温泉で血の巡りもよくなってのぼせそうなので、お湯から上がろうと、立ち上がる。


 が、お湯に浸かって緊張をほぐした体は、疲れを思い出したようで、ぐらっと傾き、カインハウザー様がいらっしゃるので、羽衣を抑えた手を出すのが遅れ、そのまま転び……

「おっと、やっぱり、疲れが出てるようだ。普段からたくさん歩く事に慣れていなかったのなら尚のこと、子供の足で1日かけて、食事も摂らずに下山は大変だったろうに」

 軽く一足飛びに近寄り、私の肩と腰を支えてくれる。


「ああ、リリティス、これはね、スケベ心じゃないよ? 不可抗力だ。こんな岩場で、素肌で転んだら大怪我をする可能性が高いだろう、助けるのは当然だよ?」

 だから、怒らないでくれ?

 カインハウザー様は笑っている。私の方は見ないで、リリティスさんの方を向いている。


 そんなにガッシリしてなさそうだったのに意外にきっちりついた筋肉。私を支えるのに少し盛り上がった腕の筋肉は、ガチガチではないものの硬めで、やっぱり、男の人なんだなぁと思った。

 昨年まで、馬に乗ったり剣を振り回すお仕事だって仰ってたし。鍛えてるんだな。畑仕事も力が居るだろうし。


 お父さんと全然違うな……


「主、怪我から助けるのは当たり前です。が、いつまで触れているのですか。ほら、真っ赤じゃありませんか、シオリが可哀想ですよ」

「いや、体も熱いし、湯で火照ってるのと、或いは疲労から熱が上がってるんじゃ……」

 ああ、やっぱり疲れてるのね、と納得して受け入れたら、なんだか眠くなって、こんな状況なのに、気が遠くなって……



 私は、いつか日本に帰れるのかな……ずっと、このままなのかな……



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次回、Ⅰ.納得がいきません


18.ここどこ? 目立たないって難しい①

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