第7話 山中でひと休み   

 山の中を歩くこと数時間。太陽もだいぶ高いところに来て、一旦休憩をとる事になった。


 少々こけしてはいるがお陽さまの当たる場所で、カラッと乾いているし、守人や木こり、猟師の休憩場所でもあるとかで、切り株がいい感じに円座するようにあった。


「はい、お昼よ。飲み水はアルコールを飛ばした葡萄酒でも大丈夫かしら?」

「飲んだことないですけど、アルコールを飛ばしたのなら大丈夫かな? ありがとうございます」


《心配なら、毒を抜くのと同じ要領で、お酒の主成分を抜いてあげるワヨ?》


 ──美味しくないかもしれないケドネ


 そう言って笑うサヴィアンヌ。


『俺はそのまま貰う』


 狼族の姿になって、木製のコップを受け取るために手を伸ばすシーグ。


 メイベルさんもコールスロウズさんも、目を見開いて驚いたようだったけど、それも一瞬の事で、そもそも言葉を交わせた時点で普通の狼だとは思ってなかったみたいで、ニッコリ微笑んで手渡す。


「シーグさんはひとおおかみなの? 一般的な獣人さんは、完全な狼にはなれないわよね。山神様の一種なのかしら?」


 目を輝かせてシーグを見つめるメイベルさん。


 人や人狼の姿になると服が必要になるから、メイベルさんの前で裸になる訳にもいかず、二足歩行の出来る狼のような姿で、妖精の羽衣を腰巻きのようにしている。


「先祖は、神の眷族として崇められてたようだが、我らの国の神は大昔に山の向こうにお隠れになったので、今では精霊と仲がいいだけの、ただのけものびとだな。まあ、獣人族の中では上位の、もっとも神に近いと言われる一族ではあるが……」


 あ、シーグ、ちょっと誇らしげ。

 シーグが自分の事を語るのは珍しい。


≪シオ、お水要る? アリアン、作る≫

 アリアンロッドが、楽しげに、両手をあげる。


「あ、アリアン、コップ一杯でいいのよ?」

ワカた! 任せる・いい≫


 頭上に掲げた両手の間にふよふよと、霧が溜まって水滴ができ、更に集まってだいたいコップ一杯分くらいになると、近寄ってきて、私の持つカップにパシャンと注がれた。

 少し溢れたのはご愛嬌。


「アリアン、上手になったわね」

≪アリアン、シオの役に立つ。セルとの約束≫

「ふふふ、本当に、アリアンは、カインハウザー様が大好きね」

≪セル、いい匂い。魔力、霊気とても美味しい。心きらきら・精神強い。魂そのもの、セルのすべて心地いい、大好き!≫


 今アリアンロッドが挙げたもの、魔力、霊気、意思の力・精神力とを合わせた霊的な概算値。魂を測る概念を存在値と言うらしい。

 もっと細かく、名前や血筋、生まれた土地の座標や風土、星の配列、暦やえにしも計算に入れたりする専門家もいるそうだ。

 よく解らないけど、東洋の風水や暦、姓名判断や占いに近いのかしら?


 その相性がよいと、回復や補助魔術のかけ具合がよかったり、共に居ると心地よかったり。精霊や妖精が守護してくれたり。


 カインハウザー様は、とても精霊に好かれる。


 私も、記憶も実感もないけれど、世界の殻の裂け目からこちらへやって来る時に、女神の祝福を受けたとされている。(確認はとれないけど、この世界で生まれた訳じゃないから、祝福を受けたのだとしたらそのタイミングだろう)

 その祝福が私の存在値を高め、私の放つ魔力や霊気に神気が混じり、よい匂いとなって精霊が惹かれるのだそうだ。


 以前、カインハウザー様に魔力操作や精霊眼の発動、精霊達との交信のお勉強をした時に受けた説明の総まとめだけど、合ってるよね?


「そうですね。一般的な知識としては概ね合ってると思います。ただ、魔力が強く、緻密な魔力操作が得意で頭の回転の早い人でなければ、たいていは魔力の大きさと質、霊気の内包力と相手からなんとなく感じる存在感くらいしか視れないと思いますよ」


 私もそのクチだな。なんとなく強そう、なんとなく魔力たくさんありそう、程度だ。

 魔力を感じれるようになってまだ間がなく、威圧感とか気配とか、だいたいの感じしか解らない。

 ゲームみたいに、数値データとして視れれば違うのだろうけど。



 * * * * * * *



 ちょっと早いお昼を終え、再び、山の見まわりに戻る。

 足元の、張った木の根などに気をつけて、斜面を横に進んでいく。


フィオ(シオリ)。ソッチには行かない方がいいワヨ》

「え? どうして? 細いけどちゃんと道はあるよ? 獣道っぽいけど」

《足元が危なっかしいよりも……》

『この先、良くないものがある』


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