第24話 ……目立たないって難しい⑦



 リリティスさんが持っていたバスケットから、革袋が出て来る。紐で口を縛っているのではなくて、コルク栓がついてる。

 手渡されて口をつけると、中身はアルコールを飛ばした葡萄酒のようなものだった。

「生水は持ち歩けないから、こんなものでごめんなさいね」

 首を振り、感謝して飲ませていただいた。



「……さくらさんの力は見てませんが、もう1人、若葉色に輝いた人は、植物と風の、癒しの力を貸与される回復士ヒーラーだとか治癒士サージャンだとか言って喜ばれてました。

 神殿から放り出された時に擦りむいた私の腕、見ても全く傷があったのが判りませんよね。

 彩愛あやめさんがいたわってくれたら傷が消えたんです。凄いですよね」

「腕や足が擦りむくほど乱暴に放り出されたですって? 女の子になんて事!」

「彩愛さんも同じ事を言って助けおこしてくれました」

 今まで黙って聞いていたリリティスさんが、急に怒り出す。

「昨夜見た、膝が擦り剥けてたのもあいつらのせいなのね!?」

 リリティスさん、眼が怖いです。


 言われて、木綿のワンピースを少しめくってみると、膝の傷はなくなってた。

「女の子の柔肌に痛々しいから、治しておいたわ」

 リリティスさんは攻撃魔法だけじゃなくて、治癒魔法も使えるの? 凄い。

「うふふ、そんなにキラキラした目で見られると恥ずかしくなっちゃうわね」

「だって、昨日、カインハウザー様に痺れる水蒸気の弾を投げてたじゃないですか」

 カインハウザー様がチラッとリリティスさんを見る。

「だから、てっきり攻撃魔法が得意な人なのかと思ってました。なのに、怪我の治療も出来るなんて凄いです」

「ふふふ。主、これです。こーゆー眼が、やる気と自尊心を守るのです。私が一歩リードしてますね」

 主は怖がらせてますから。そう言って、リリティスさんが得意げに胸を張った。


「むう、見てろ? その内、ああん、セルティックさま素敵♡ シオリ、セルティックさまのお嫁さんになるぅって言わせて見せよう」

「言いません」キッパリ

 ここは強く否定しておこう。

「ふふふ、ふふ、オホホホホ! 主は『オジサン』ですものねぇ、若い娘さんの守備範囲からハズレますわよね、ホホホホホ」

「私より7つ年上のくせに……」


 ビキッ


 周りの空気が凍って壊れるような音が聞こえたような気がした。

「あ、あの、言わないって言うのは、そんな恥ずかしい言い方はしないって意味で、対象外だとかオジサンだとか思ってる訳では……」

「「シオリは優しいねぇ」」

「いえ、だから、優しいとか気を遣ったとかじゃなくて、元騎士の領主さまのお嫁さんなんて、恐れ多いと言うか、恥ずかしいと言うか……」


 バッと、音がするくらい2人がこちらを見る。

 リリティスさんは純粋に驚いた顔で、カインハウザー様は驚きの中に何か難しい物が混じっているようにも見えた。

「なぜ、わたしが元騎士だと?」


「? だって、去年まで、軍属で、馬に乗って剣を振り回すお仕事だったって……

 馬に騎乗して帯剣してるって言ったら、思いついたのが騎士様かなって。

 さくらさんとか、ここには白馬の騎士様がいるらしいから、恋に落ちるとどうとか、みんなで大喜びで話してて……ごめんなさい、短絡的でしたか?」

「聞いたか? リリティス。14~5歳の娘には、騎士はモテるらしいぞ?」

「主は、白馬の騎士様ではなく、黒馬の鬼将軍でしたから、アウトですね」

「あ、あの、十分、カインハウザー様は格好いいと思いますよ。鬼将軍って呼ばれてたのが信じられないくらい誠実で優しいですし」

「リリティス、これは、案外いけるかも?」

「いきたいんですか?」

「いや、さすがに最初10歳と思ってた、未成年の少女とは……なぁ?」

「なあと言われましても」

 やっぱり、お二人は仲がとてもいいんだな。


「ん、む、まあ、だな。確かに、わたしは昨年まで軍属で、一個大隊を任される上級騎士だったが、白馬の近衛騎士ではなく、黒い軍馬に跨がった黒い騎士だったよ。残念ながら」

「黒って格好いいですよ? それに、馬も衣装も鎧も白いと、返り血を浴びたときの姿が、より怖いかも……黒がそういう生臭さが見えなくていいんじゃないでしょうか?」

「返り血で黒いって噂もありましたけどね」

「リリティス、怖がらせるな、それともわたしを貶めたいのか?」

「どうせ、いずれバレますよ」

「噂は噂。私はこの目で見て、会って、話して、助けてくださるカインハウザー様を立派な方だと思いますから、誰がなんて言っても大丈夫です」

「やはり、シオリは可愛い。面白い。いやあ、本当に拾ってよかった」



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次回、Ⅰ.納得がいきません


25.ここはどこ? 目立たないって難しい⑧

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