第7話 ここはどこ? どっちへ行けばいいの?
「……詩桜里、あんた、本当に人間?」
「え?」
「さっきも、妖精の羽衣が消滅したのって、あんたが【穢れ】だからじゃないの?」
「美弥ちゃん? 怖いこと言わないでぇ。……親戚の子なんでしょ?」
「美弥子さん、そんな事、思っても口に出すなんてらしくないわよ。どうしちゃったの?」
さくらさんもあやめさんも、不安げに美弥子を見つめる。
「だいたい、私が聖女で、2人が巫女なのは仕方ないとして、関係ないあなたが、どうして一緒に居るの?」
「親戚だから、誤回収だって……」
「父親同士が又従兄弟程度の血の薄さで、影響されるのかしら? そもそも、あなた、本物の詩桜里なの? 会ったばかりで、本人がどうかは私には判らないわ」
「そ、そんな……」
どうして、美弥子は、初めて会った時から攻撃的なんだろう? 過去に会った事もないのに。
「こ、これはどうですかな? 真実の水鏡で、嘘を言ってるかどうか調べてみなされ」
大賢者のお爺ちゃんが水を張った、金ピカの平たい皿……水盤?を指さす。
「この神気に満ちた神殿の中では、嘘を言うことは出来ませぬ。この水鏡に葉でも羽根でもいいから浮かばして、話してみてくだされ。
嘘がありましたら沈み、深く動揺していたら波紋を広げ揺れまする」
原理は解らないけど、これも魔法なんだろう。
私は、一滴血を採られ、祭壇の花瓶に生けられた花の葉を千切って塗りつける。水鏡にそれを浮かべて、前に立たされた。
「詩桜里、あなたは本物?」
「勿論よ。どこで何と変わるって言うの?」
葉は揺れず、ジッとしている。
「じゃ、あなたは何処かで【穢れ】を受けたり、悪魔に乗っ取られたりした?」
「まさかっ」
さっき神官にも穢れだと言われたような気がしたことを思い出し、胸が締めつけられるような気がした。その動揺が浮葉に出て、迷子の小舟のようにゆらゆら揺れ水面で震える。
「動揺はされてるけど、嘘はないようですな」
そりゃ、全員(巫女の2人は除く)に詰問されれば、動揺もするって!
「私達につきまとって、なんの目的があるの?」
「何にもないよ! 巻き添えで強制的に連れてこられただけで、こっちだって何が何だか……!」
「それはそうよね、私達だってそうだわ。美弥子さん、あなた少しヘンよ?」
私の恐怖や不安、動揺が、浮葉に表れ、激しく揺さぶられる。
「目的も何もないわ! 今はただ、日本に、元いた場所へ帰りたいだけよ!」
「勝手に帰れば? 悪いけど、私は、あなたを信用できない!!」
「そんな、酷い言い方……! 私だって、好きで来たんじゃないわよ」
美弥子の叫びに、ついに葉の小舟が私の動揺に耐えられなくなって、くるくる
「ほら! 嘘をついてるのよ! 出て行って! 二度と顔を見せないで!」
美弥子が頭を抱え
──これはヤバいかもしれない。
ここの人達は、美弥子とおともの神通力で魔を祓う事が大切なんだから、美弥子の機嫌を損ねるわけにはいかないだろう。美弥子が不安定だと、祓魔能力に不安が出る。美弥子にはいつも安定していて貰わなければならないのだ。
その美弥子が、私に出て行けと言う。二度と顔をみせるなど言う。
この時、私に何が出来ただろうか。
*****
あいつら、本当になんにもなしで放り出した!
信じらんない!
中学生の女の子1人、なにも持たせずに放り出すなんて、なんて常識がないの?
……膝が痛い。
あの後、半狂乱になりかけた美弥子を、さくらさんが宥め、女性神官に伴われて寝所へ案内されていった。
私はと言うと、その場に残された神官達の頭くっつけて相談会の後、結局美弥子の希望通り、二度と神殿に入れない事になった。
「シオリ様のお言葉に嘘がない事、ミヤコ様のお血筋であられる事、まだ未知の状態である事などから、処刑は出来ないが、ミヤコ様のためにお側に置くことは出来ない、という事になった」
──処刑
サラッと怖い単語が出て来たな。やはりそういう所は異世界なのかなと思う。現代社会で、普通そんな単語は使わない。
「広い神殿、その一角にあなたを置けない事もないが、ミヤコ様のおためと、あなたの何かが穢れている可能性が否定出来ない以上、神殿に置くわけにもいかない」
「勿論、正体も解らぬ者を、王宮にあげることも出来ぬ。悪いが……」
「そんなっ」
本当に悪いと思ってるのか解らない感じで、神官や大臣が言い放ち、神殿兵士によって、投げ出すように、神殿の外に、文字通り放り出された。
身を地面に投げ出すように倒れ込む。肘や膝が擦り剥け、少し血が滲む。
「女の子なのに、乱暴にしないで!」
神殿の裏口の外までついてきてくれたあやめさんがかばってくれる。
「大丈夫?」
私の横にしゃがみ込み、顔を覗き込んで心配してくれる。
「……たぶん、こう? 「手当」って言うものね?」
頭の中にすり込んだって言う魔法が、識りもしない魔法を使うのを手助けするのだろう。
あやめさんが私の腕を取り、肘から先の擦りむいた所を撫でるように
「知識を刷り込むって便利なものね。意識しなければ思い出すこともないのに、こうやって必要に応じて必要な知識が涌いてくるの」
にっこり笑うと、美人度が上がる。美弥子とは違った美少女だ。
「さあ、シオリ様が傷つけられる事なく無事に出て行く所を確認されましたら気も済みましたでしょう。この後も傷つける事などありませぬ。
一刻もはよう、ミヤコ様の様子を看てくだされ」
男女複数の神官に背中を押され、あやめさんが神殿の中へ連れ戻される。
「あやめさん、ありがとう。えっと、西花屋敷……あやめさん?」
「
「解った。彩り美しい愛だね。ありがとう」
何度も肩越しに振り返る彩愛さんに手を振って応える。
立ち上がって、スカートと足についた砂埃を払い、深呼吸したら、まわりを見てみる。
森?
ありがちだけど、神殿のまわりはグルッと森林に囲まれていた。
「さて、どっちに行こうかな?」
私は聖女様でも巫女さんでもなかったんだから、日本に帰してくれないのかなぁ……
🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯
次回 Ⅰ.納得がいきません
8.ここはどこ? 人にはどこに行けば会えるのかな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます