第28話 ……目立たないって難しい⑪

「え? カインハウザー様、フィオちゃん、どうしちゃったんですか?」

「まさか、さっき伝令が来た山犬に……」

 街の城門まで来ると、門番のロイスさん達が駆け寄ってくる。


「ああ、いや、心配ないよ、たいした事じゃないんだ」

 カインハウザー様はにっこりとロイスさん達を落ち着かせるよう微笑みかける。


「でも、行きはあんなに元気だったのに、今、抱えられて……」

「ああ、これはね、お姫様抱っこって言って、女の子の大好きな運ばれ方なんだそうだよ?」

「それは知ってますが、いや、呼び方までは知りませんでしたが、そうじゃなくて、抱えられるような事態が……?」

「ただの疲労だよ。畑仕事を一通り手伝ってもらった後に、精霊や妖精達との交流を少しね。魔力が空っ穴になるまで交信してたようだ。一晩、ゆっくり眠れば大丈夫だよ」

「それは……明日が大変ですね」

 精霊を視る眼を持っているロイスさんが苦笑しながら、私の明日の様子を心配してくれる。


「こんなに愛されてるのに、彼らとの付き合い方を知らなかったらしくてね。ま、初日はこんなものだろう。

 ロイス、何か、変わった事はなかったかい?」

「はい。ご心配の『お山』も今の所姿を見せませんし、報せのあった山犬の姿も見てません」

「そうか。だが、山犬は昨夜から今朝の間に、すぐそこの畑まで来たようだから、気を緩めないように。一匹だけで、危険なものでなければいいのだけどね」

「「はい」」


 ロイスさんとナイゲルさんに視線を送って頭を下げるだけで挨拶する。

「ふふふ。真っ赤で初々しくて可愛いなぁ。カインハウザー様役得ですね!」

「おい……」

 ナイゲルさんが、ニヤニヤに近い笑顔でカインハウザー様に声をかける。恥ずかしすぎて死ねる案件になりそうなんですけど……


「あ、あの、自分で歩きますから……」

 降ろしてとは言えなかった。

「フィオちゃん、ムリしちゃダメだよ。

 僕もね、子供の頃、精霊が見えて嬉しくて一日彼らの声を聴いてたら、ぶっ倒れちゃってね、程よく力を抜くのに慣れるまで、毎日気を失ったりしてたよ。しかも、翌日ヘロヘロで食事も出来なかったりね。だから、今はカインハウザー様に甘えておいた方がいいよ。コイツの言う事は気にしなくていいから。オジサンは可愛い女の子のちょっとした事でも喜んじゃうけど、悪気はないから、ね?」

「いやあ、可愛いよね、赤面する女の子って」

 ロイスさんがナイゲルさんの頭を軽くはたきながら謝ってくれるけど、全然気にしてない風でナイゲルさんに更に楽しげに言われちゃって、益々顔に熱が集まるのを感じる。

 オジサンはとか、可愛い子とか、この二人は私のこと幾つだと思ってるんだろう……


「ナイゲル、来月の三日休暇の間、毎日わたしの畑の見張り番をさせてあげよう」

「えっ!? なんでですかっ? 可愛いって言っただけですよ?」

「わたしも先程リリティスに叱られたのだよ。空気を読めず、可愛い子に恥ずかしい思いをさせるのはオヤジ発言と言って、嫌われるらしい」

 嫌う程ではないけど、恥ずかしくて悶えるよね。やっぱり。


 この後も、街の中を通る間、誰もが生温かい眼で見守っている気がして、生きた心地がしなかったというか、恥ずかしくて色々持て余すというか……


 中には、「カインハウザー様、いつの間に可愛い嫁ッコもらったんですかぁ」なんて声をかける強者まで。カインハウザー様が領民に溶け込んで、愛されてるっていうのはよく解ったけども。


「領民達がすまないね? 彼らも悪気はないから、気にしないでくれるとありがたいんだが」

「……はい。領地の方々にとても慕われているんですね」

「彼らは皆、砦をわたしが任されて、駐屯するに当たってついでだからと街を開拓した当初からの、気心の知れた仲間とその家族だよ」

 温かい気持ちが、カインハウザー様の声音から、胸の笑う振動から、直に伝わってくる。

 精霊の声を聴いていた余韻かな、いつもよりカインハウザー様の気持ちが、シンクロするかのように感じられる。


 そして、恥ずかしくて顔を隠すのに、最初は自分の両手で隠していたけど、次第に手が怠くて力が入らなくなって来ると、恥ずかしついでに、顔をカインハウザー様の上着に押しつけるようにして、真っ赤な顔を誰にも見られないようにしていたのが余計に、傍から見ると、子供が甘えてるように見えたのかもしれない。



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次回、Ⅰ.納得がいきません


28.ここはどこ? 目立たないって難しい⑫

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