第35話 ……目立たないって難しい⑱
「その葉はとっておきなさい。怪我をした時に使えるよ。
こう、揉み合わせて、汁が出て来たら傷口に塗るんだ」
「この木の葉は、傷薬になるのですね。咄嗟にお役立ちですね。覚えておきます」
3枚ハンカチに包んで、ポケットにしまう。
「それは、どうかな」
「え?」
「ただ、この木の葉をちぎってもダメなんだよ。……不思議なんだけど、この木が、いや、この木に宿る
「ある種の自衛能力なんでしょうか。むやみに乱獲されないための。木霊さんが傷を塞ぐ薬効成分を含めて落とさないと効果が出ないように……」
「そうかもしれないね。人は欲を抑えられないヤツが多いから。必要に応じた量だけとれば問題はないのだろうけど、予備が欲しい、身近な人に分けたいから、いろんな人に広めたい、次第にはこれで儲けたい……」
「さっき浮かんできた名前、エルバレオって、この木の木霊さんの名前なのかな?」
「たぶん、両方だろう。木の個体と木霊とセットでエルバレオなんじゃないかな」
「エルバレオ、時々、様子を見に来るから。他にも困ってる人がいたら、1~2枚でいいから分けてあげてね」
風もないのに葉ずれの音がする。お返事なのかな。
「さ、リリティスの仕事も一通り終わったようだ。食事にしよう。
グレイスの美味しいお弁当だよ」
昨日天幕を張った場所に、今日も日陰を作って絨毯のようなものが敷かれている。
リリティスさんのバスケットから、たくさんのみじん切り野菜と燻製肉の入ったマッシュポテトと、茹で腸詰め肉が取り出される。
そろそろ、白いお米が食べたい頃……
「お米?」
私の独り言を聞き逃さなかったらしい。
「私の住んでた土地では、主食はお米と言って、麦よりももっちりとした白い蛋白質と澱粉のちっさな粒で、麦のように穂に実ります」
カインハウザー様が頷いて、答えてくれる。
「飼料として
「あるんですか?」
「いや、だから、取り寄せないとないよ」
「でも、この世界にも、お米はあるんですね」
お芋やパンばかりなので、てっきりないものと思ってた。
「そんなに、好きなのかい?」
「ええ。パンやお芋も好きだけれど、やはり私達は、甘くてもっちりしたお米のご飯が好きです」
「口当たりはいいのかい?」
興味津々のカインハウザー様。
食事が済むまですっかり、お米のいいところ、噛むほどに甘くてもっちりした食感や、炒め物や煮込みなど料理に幅のある事、お餅やお煎餅アラレなどお菓子にもなる事、食べ過ぎると起こる現象、糖質の摂り過ぎ、インスリン消費から炭水化物依存症など、いっぱい話した。話させられた。
「なるほど、シオリがそんなに熱意を持って語るほど美味しい、お菓子にもなる主食なんだね」
「熱意って……」
カインハウザー様が聞き出すのが上手いって言うか、言わせたんだと思いますけど。
「食べる為の精米ではなく籾種だと、仕入れ値も違うかな……」
カインハウザー様は前向きにお考えの様子。
「いいんですか? 畑……陸稲でも出来ますが基本水田ですよ? ノウハウとか管理とか違いませんか?」
「スイデン? 周りは作ってないんだ、うちの独占…特産品にするのもいいだろう?
勿論、生産が上手くいくまでは、シオリも手伝ってくれるよね? それだけの価値のある食物なんだろう?」
カインハウザー様はにっこりと爽やかスマイルで、否やと言わせなかった。
* * * * *
今日は朝早く出て来て、畑仕事のあとに朝食をとったので、時間があるので、じっくりと自然に馴染んで精霊を感じる日になった。
いろんな人の畑の間を抜けて、開拓してない林の中に入る。
「例の狼犬や魔獣は多少居るだろうが、わたしとリリティスが居れば、大丈夫だろう」
リリティスさんは、一部の攻撃に転用できる魔術と、お風呂場で見た
カインハウザー様は、農具やちょっとした道具を使って、獣を撃退するくらいは簡単だという。さすが、元騎士の鬼将軍さま。
「あそこの花畑は、風霊や地霊、光や闇は勿論、妖精もたくさん居る。
昨日みたいに感度全開にしないで、リラックスして自然に、ただ景色に馴染むようにしてごらん?」
カインハウザー様に言われたとおり、わざわざ精霊に視よう触れようとせず、ただ、居るだけにしようと、普通に、花畑の綺麗さを楽しむことにした。
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次回、Ⅰ.納得がいきません
36.ここはどこ? 目立たないって難しい⑲
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