第3話 親切なようでいて強引だよね?
聖女と崇められ、ちやほやされて、美弥子達はすっかりその気になって話を聞いていた。
ぐぐ~っ
ここで、美弥子のお腹が鳴った。
私と顔を合わさずに先に家を出るためだろう、トースト一枚とコーヒーだけで朝食を済ませたと聞いている。緊張感がなくなっても、鳴ってしまうのは仕方ないだろう。
「も、もお~」
顔を赤くして、隣の子の肩をたたく。誤魔化せたとは思わないが……
「おお、お連れ様もお疲れの様子、気が利きませなんだ、どうぞこちらへ。温かい食事など用意させましょう」
なぜか、神官達は、美弥子ではなく、2人のどちらかが鳴らしたと思い込んだらしい。
2人は一瞬不服そうにしたが、淡い色の羽衣みたいなのを肩からかけられると、頰を染めて手触りを楽しむ。
「わあ、綺麗な布! ……シルク?」
「オーガンシーみたいに透けてるのに、柔らかくて滑らかで、暖かい」
「この祭壇の外は、冷たい石造りの廊下ですからな、冷えるので、しっかりと巻いてくだされ」
にこやかに、しかし逆らえない迫力で、3人を祭壇の右手の扉の奥、確かに寒そうな、石造りの廊下に導いていく。
「あの、私も一緒に行っていいですか?」
胡散臭さ爆裂級だけど、1人で置いて行かれるのも厭だ。
「
美弥子が、困惑した顔でこちらを見る。
どうやら今初めて、私も巻き添えを喰った事を知ったようだ。
「美弥子さん、お知り合い?」
「……殆ど他人みたいな親戚の子。今日、転校してきたでしょ」
「ああ、そう言えば。……自己紹介をしていただく所で、こちらへ呼び出されたんでしたかしら?」
濃い栗色のストレートヘアのセミロングの子は、ややおっとりめで物言いも穏やかでお上品な感じ。上の下くらいのいいとこの子なんかな。
短めのふわふわの茶髪を揺らして、もう1人の美弥子の友人が振り返る。可愛い。可愛い系の正統派美少女って感じ? やや垂れ目なのがまた愛らしさを強調しているようにも見える。
この二人が着てると、同じ制服も高級なブランドのブレザーに見えてくるね?
「美弥ちゃんの親戚なら、あの子も巫女さんとか聖女様とかなの?」
「まさかっ!」
──まさかって何?
まさか、そんなはずが無い? それとも、まさかあの子まで? どちらにせよ、好意的な色は皆無みたいだね。
私は、ため息を吐いて、美弥子を見つめた。
「おやおや、聖女様のご親戚でしたか。血が近いと誤回収してしまうこともありましてな、たいへん申し訳ないですが、これもご縁、こちらへどうぞご一緒くだされ」
誤回収って……私は手荷物レベルなんかい。美弥子以外に対しては失礼な人達だな。
お爺ちゃんはそそくさと近寄って来て、今の今まで無視してたクセに、目を細めて笑いかけ、廊下の方へ促してくる。
女性神官の1人がにこやかに、私にも羽衣みたいなのを肩からかけて、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「あ、どうも……」
廊下はあまり広くなく、壁に囲まれて窓も無く、神官達の持つ小さい松明がなければ真っ暗闇になりそうな寒い空間だった。
「神殿に満ちております神気を逃がさないよう、扉や通路は狭く出来ております。足元に気をつけてくだされ」
「どこに行くの?」
周りをキョロキョロ見まわしながらついて歩く美少女達も狭そうに肩を寄せ合っている。
不安そうな2人と違い、「聖女様」の美弥子は堂々としていた。
「まずは、禊ぎを行っていただき、温かい食事を召し上がって戴きながら話の続きをいたしましょう」
禊ぎってアレよね?
ようは水浴びやん。やっぱりお水なんかな。この寒さだと風邪ひきそうなんだけど……
*****
「あんた達、覗かないでしょうね?」
地下にある泉に案内され、制服の上着を脱ぎながら、出口付近で立っている神官達に、美弥子が訊ねた。
「聖女様と巫女達が禊ぎを行っている間は、ここに衝立を立てて目隠しをしておきますぢゃ。急な不審者の乱入や下級妖魔の侵入に備えて警護に2人は残しておきますのでな」
そう言い置いて、大神官と大賢者とお付きの人達は泉の間を立ち去っていった。
美弥子達は安心して、用意された籠に制服を脱いでいき、先程かけて貰った羽衣を纏って泉に足をつけた。
側に控えてる女性達の話だと、この羽衣は聖なる力を持っていて、水の中に入っても身に纏いついたりしないし、動いても水圧の抵抗もなく、水の冷たさに身が凍えるのも守ってくれて、水から出たらすぐに乾くらしい。
私は、護衛の神官2人が気になって中々脱げないでいる。
護衛とは言うけれど、まだこの人達を信用しきれない私には、美弥子達を逃がさないための見張りにしか思えなかった。
私は聖女様じゃないんだったらもういいよね? 先に日本に帰してくれないかな……
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次回
4.神殿の中って閉鎖空間なの?
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