第5話 食事はいいけど、どこまで行くのよ?
石壁に囲まれた、大人がすれ違うのに苦労しそうな廊下を通って、突き当たりを角を曲がるように伸びた階段を上る。神殿の外周をまわるように、壁の内側を歩いていたのかもしれない。
神気を逃がさないためとか言って、壁で囲って窓がないから、陰気で暗い通路が、気が滅入る。
この先、何を聴かされるのか、どんな事が待っているのか、不安が増してくる。
だいたい、美弥子達はこの人達の話を信じて、聖女様と巫女になるのを受け入れてるんだろうか? 騙されてるとか思わないのかな?
長い通路を歩いて角で階段をあがる、を繰り返して、いよいよ美弥子が「ねぇ、まだあ?」と不機嫌になってきた頃、
「お待たせしました、こちらです」
と、壁の一部がスーッと開いて、篝火で明るくなった広い部屋が見える。
「凄~い、扉もない壁が、すーと開いてお部屋後出て来たよ?」
「今の、魔法?」
「不穏なものが入れぬよう、普段は壁となっております」
やっぱり、会話は通じてるようでなんか変。
案内の神官、美弥子達に続いて入ってみると、思ったより広く、長いテーブルが幾つもあって、テレビで見たノーベル賞受賞者晩餐会や有名人の会食風景とかみたいだった。
『神殿』なのに、金の燭台や杯、新鮮な果物やドライフルーツ、パンなどが盛られた大皿も金ピカだった。……趣味悪。
入り口からみて上座だろう位置に、キンキラ宝石が埋め込まれた、肘置き付きの椅子が三脚用意されていて、その左右に、大神官、大賢者と呼ばれてたお爺ちゃん達が座って待ってた。
大賢者お爺ちゃんの隣に、さっきはいなかった、ちょっと偉そうなオジサンが、ワイングラスを傾けながら、談笑していた。
「おお~これはこれは、なんとも可愛らしい聖女様ではないか。おともの2人もタイプは違うが可愛らしいのぉ」
うわ、偉そうなのにいかにもその辺のオジサンみたいな褒め方だなあ。そして、やはり私は数に入ってないらしい。
*****
ゆっくり食事会が始まり、食事の合間に少しづつお爺ちゃん達が説明を始めた。
「まずは紹介しますぢゃ、こちら、この国の軍務大臣で、文官でありながら王立軍の副長官も兼ねて居る御仁ぢゃ」
「どうも」
「こんにちは~」
「初めまして」
3人がそれぞれ挨拶する。
お爺ちゃん達が代わる代わる、この世界の事を教えてくれた。
だいたい100~200年に一度くらい、世界の玉子の殻を通り抜けて悪い物が蔓延る事があるんだって。普段は人を襲わない魔獣達が、この悪意に感化されると、人や家畜を襲うようになるらしい。
早い時期だと、騎士団や魔法使い達で、魔物や凶暴化した魔獣達を駆逐出来るけど、瘴気が溜まりすぎると、激化して、魔獣の
殻にヒビが入ると、世界を憂える神様が、信心深く清らかな乙女を選出して、神様の邪気を祓う力を呼び出す能力を与えるので、巫女と呼んで皆で大切に護る。のだが、昨年は騎士団や魔法使い達の魔獣狩りが追いつかず、ついにあちこちで
この国の巫女様が、居なくなった……それは、人々が魔に怯える日々と最終的には国の壊滅を意味する。
他国の巫女を借りる事も出来ない。その国々だってカツカツなのだ。
魔物を追い払う力が足りない魔法使い達は、古い文献を研究し、二千年前に行われたという【聖女召喚】なる手段を見つけた。
文献には、異世界からやって来た聖女様は、2つのおともを連れていたらしい。
「2つ? 2人じゃなくて?」
「書き写した者が間違えたんですかのぅ? 女神信仰の異国の話なんですぢゃ。そこは勇者召喚や聖女召喚など、神の
我が国はそのような大掛かりな魔法は絶えて久しくてのぅ。
そういった訳で、4人目は想定外でしたのぢゃよ、申し訳ないのう」
所在なげに謝るお爺ちゃん。魔獣の駆逐が追いつかなくて
とにかく、聖女召喚に希望を見いだし、さっそく聖女様の召喚魔法の研究に取りかかる。
最初から上手く行くはずもなく、二千年前の様子を識る人が生きているわけもなく、まずは妖魔や妖精を召喚して従属させる魔法を、異世界の物体を取り出す魔法に改良する所から始め、1年がかりで、物体を生き物に進化させついに人を召喚するまで漕ぎつけた。技術の進歩としてはかなり早いのでは無いだろうか。
次にどの世界から、誰を喚ぶか、が鍵になる。
適当に選んでみても、全く聖なる力を持たない人物が喚び出されてしまったり、強力な攻撃力を持った悪人が来ないとも限らない。
術に改良を加え、この神殿の奥に眠っていた、二千年前の聖女様の聖遺物を触媒に、神気に反応した人物が取り出される(取り出すってなんだよと思ったけど、話の腰を折るのも躊躇われ)ように調整して、しばらくは何度試しても反応が薄く誰も喚び出せなかったが、ついに美弥子が現れたという事だった。(さすが年寄り、話長っ)
「という訳で、聖女様。我々が全力で御身お守り致しますので、どうか、この国を、世界を、救ってくだされ」
大神官と大賢者のお爺ちゃんsが、揃って両手をテーブルに突き、おでこをこれでもかと擦り付ける。
「全力で守るって、去年、巫女様は守り切れなかったんでしょ?」
「美弥ちゃんは守ってもらえても私達は?」
「私達にそんな力、本当にあるの? 使った事ないけど」
美弥子達も、信じていたって訳じゃないのかな?
お爺ちゃん達も、神官達も、慌てる。軍務大臣のオジサンが、笑いながら答えた。
「ははは。巫女よりも聖女様の方が断然力は強いのですからご安心を。ひとたび魔を祓えばただの魔獣。我が軍が駆逐致しますぞ」
「国王の近衛騎士からも、選りすぐりの剛の者をおつけしましょう」
「騎士? 白馬に乗ってるの?」
「勿論、近衛の軍馬は皆白馬じゃよ。衣装も純白、装備も
夢見る乙女とまではいかなくても、やはり女の子、3人は頰を染めて盛り上がる。
「金髪碧眼かしら?」
「プラチナブロンドや
ふわふわの髪の彼女は少女漫画やラノベを読んでる
「守り切れるの? 本当に?」
「聖女様のお力で魔を祓われるならお任せくだされ」
大仰に、口髭を摘まんで引っ張ったりしながら、胸を張って請け負う大臣。でもそれって……
「でも、それって、美弥子さんが魔を祓う事が前提ですよね? 本当に、確実に祓えるの?」
「
美弥子が細めの綺麗な眉を顰めて、こちらを見る。
大臣は、今、私が居たことに気づいた感じだ。居ない者として扱われるのにももう慣れたよ。
「どういう意味ですかな?」
「今の話だと、瘴気や悪魔に感化された魔獣を倒すのは、普通の人では無理で「そうだ」それを倒すのは、美弥子が聖女の力を使って魔を祓う事が前提ですよね?「そうぢゃ」
聖遺物を触媒に使った術で喚び出したからにはその力があると仮定して……「仮定?」」
いちいち大臣やお爺ちゃん達が不満げに反応するし、美弥子に至っては、不満というより嫌悪感を露わに聞き返してきた。怖い。
「今すぐその力が顕現するとは限らないし、最大限有効に使えるとも限らない。祓えると思って現場に立って、いざ祓えな……祓い切れなかったってなったら、美弥子さんもあなた達も危ないんじゃないの?」
だいたい、どうしてみんな当たり前のように、美弥子が手助けすると思ってるの?
私達がこの国やこの世界を命懸けで救って、それって私達のメリットは?
「勿論、最初は力の使い方を練習して、近場で、弱い魔物相手に実地訓練ぢゃの」
「魔物退治に出ぬ時は、この神殿で聖なる力に触れながら、日々お姫様のような暮らしぶりを約束致しますぞ」
確かに、装飾品の殆どが金ピカだ。どんだけ信者が居るのかしらないけど、お金はあるのかも。
それにしても、お姫様のような暮らしで釣るなんて、子供だと思って馬鹿にしてない?
「お姫様かぁ。騎士の人に誓われちゃったり」
やっぱりふわふわちゃんは仲良くなれそう。
「……そうね、美弥子が本当に聖女の力を使えるのか、試してみるのもいいかもね?」
ストレートセミロング美人さんが提案する。
「それもそうぢゃな、一度、神通力を見せていただくのもよいの」
美弥子が座っている椅子の後ろの祭壇、美弥子達と篝火との間に、ボーリングの球くらいの水晶玉が置かれてある。
子供が最初の洗礼を受けるときに、この球に触れると、どんな力があるのか看られるらしい。
この世界の人は、強い弱い、各種適性はあれど、誰でも、魔法や特殊能力を持っているそうで。
それは、神の奇跡の力を借りる
ラノベ感覚から、電子ゲームっぽくなってきたな?
美弥子達と私が、この
そもそもだ。本当に、私達にそんな力があるのだろうか……
「誰から行く?」
「そりゃ、聖女様の美弥ちゃんからでしょ?」
「いきなり外れだったら?」
「やめてよ」
3人は元々仲の良い友人なのだろうか? 余裕あるようにも見える。私なんか、緊張しすぎて、声も出ないのに……
私は聖女様じゃないんだったら、属性や技能とかどうでもいいしやる必要ないと思うし、私だけでも日本に帰してくれないかなぁ……
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次回
6.それじゃ私はどうすればいいの?
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