第三話 食の散歩道

 さて、この難局を私はどう切り抜けばよいのやら?


 状況を整理しよう。私がレストランから出ようとしたら勇者三人組がナンパしてきた。今は女性になっているから相手もおっさんだとは努々ゆめゆめ思いなどしない事だろう。これでは非常に困る。何故なら中身は混じり気の無い一〇〇%無垢なおっさんだからだ。ここは営業畑で鍛えた極上の営業スマイルで……。いやいや、駄目だ駄目だ。営業スマイルなんかしたら気があるかと思われてしまう。ここは氷のように氷点下の絶対零度な冷めた目で睨め付けながら……。


「仕事があるので失礼します」


 それだけ言うと何か言われる前にそのまま立ち去った。勇者三人組は暫くボケっと突っ立っていたが……。


「あのお姉さんイカスぜ」

「ああ言うのがクールビューティーて言うんじゃね?」

「踏まれてみたい……」

「「それな!」」


 なっ、何を言うのかね君達……。三人とも何か変なことを言っていたが気にしたら駄目駄目。三人組は気を取り直すと誰でも良かったようで次のターゲットを見つけると再度ナンパを始めたようだ。さすがウェー系、一つ目の矢が駄目でも、その目標に固執しないで次の目標に向かうのは物凄く営業向きだよ。それはさておきナンパされる経験なんて人生で初めてだったから焦ったぞ。しつこい奴でなくて良かったよ。


 今晩は街なかで宿泊するか艦に戻るか……。艦に居たほうが安心して眠れるというのはある。文字通り鉄壁だし。街なかなら夜に居酒屋などで情報収集しても良いけれど男に言い寄られるのが面倒なんだよな。よし、切り上げて郊外に向かうとしよう。


 その前に晩飯になるような物も買って行こうかと市場に向かってみる。船乗り猫に亜空間からナビゲートしてもらいながら市場へと向かう。市場も王都中心からは少し離れた場所で庶民の台所という場所なんだが、王都と言う事もあって屋根付きの大きな立派な市場だ。日本的には商店街のアーケード街を想像しても良いかもしれないが青空市場に大きな屋根で覆われている状態をイメージして欲しい。日本国内だと青果市場とか魚市場ぽいイメージかも知れない。


 市場の中に入ると大きな屋根を支えるための柱がズラッと並んでいるのがみえる。イメージ的にはギリシャの神殿ぽい感じだけれど柱の太さは標準的な大人一人分ぐらいの太さだ。そんななか場内の出店が整然と並んでいる。ドイツェット人は几帳面な性格なのかもしれない。


 目立つのは肉屋関係の店。ハムやソーセージなどの加工食品から、ブロック肉やミンチ肉など多彩な肉の食材が売られている。とりあえず美味しそうなハムやソーセージを大量に買っていく。豚の脚をそのままハムにした物とかも売っているので即座に購入。稼いだ金は普段は使わないので余っているんだよね。衣食住は駆逐艦で足りるからね。


 次の店は丸くて厚みのある平らな物を売っている。あっ、これはチーズだ。色んな色のチーズがカットされていない状態で売られている。匂いを嗅いで良さそうなチーズを数種類購入。チーズ丸ごと炙って溶かして食べるやつはラクレットチーズて言ったよな。温野菜とかに溶けたチーズをかけて食べると美味しいのだ。


 次に行ったのは青果売り場。ここでもキャベツやジャガイモやニンジンなどを購入して行く。ちなみに大量に購入したものは亜空間に放り込んでいるので常に手ぶらだ。


 ショッピングを楽しみながら歩いていくと樽が沢山並んでいる店に辿り着いた。店の前で樽からカップに注いでもらって飲んでいる人がいるね。手持ちの瓶とかに入れてもらっているのを見ると酒の量り売りのようだ。そう言えば日本でも江戸時代とかは酒を量り売りしていたんだったかな?酒蔵からは酒店には樽で届いて、それを量り売りしていたと落語で聞いた覚えがある。


 ちょっと買って行きたいが問題がある。現在の軍艦内は基本的に禁酒なんだよね。なので米海軍と海自の艦船には酒を提供する場所も飲む場所もない。これが英海軍だと事情が違って艦内にパブがあるらしいのだが……。


「おっちゃん、ここの酒は樽でも売ってくれるの?」

「嬢ちゃん、樽で買うのかい?持って帰れるなら樽でも売れるよ」

「じゃ、このビールを一樽下さい」

「まいどあり!」


 代金を支払って樽を受け取ると亜空間へポイ!さてとこれで買い物は済んだかな〜。ショッピング楽しかったなー。


 はっ!?今更だが買い物好きな女子ぽい思考になっていなかったか?いやいや、女子なら服や宝飾品のウィンドウショッピングが基本だろう。まだまだおっさん節は全開だよ!


 街なかでの用事は大体済んだので駆逐艦を出しても良い場所まで戦略的後退をする。つまり王都の郊外へと向かうべく市場を出る。


 暫く歩いているとオスカー副長から連絡が入る。


(提督。尾行されています)

「もしかして勇者三人組?」

(勇者三人組は今もあの場所周辺でナンパに励んでいるようです。どうやら別口のようです)

「となると心当たりはあるようでないな」


 勇者三人組には念の為に艦隊から抽出した偵察分隊を組織した上で張り付けてある。亜空間からの監視なので通常では気が付かれないはずだ。


 しかし困ったな。現在は艦隊を建て直すために新艦を建造中だ。建造中は変身を解くことが出来ない。おっさんに戻って行方をくらます手が使えない。駆逐艦装備を出しても問題ない場所まで誘導するしか無いな。


「よし、そのままおびき寄せて敵だったら殲滅する。戦闘区域まで誘導を頼む」

(アイアイ、マム!)


 さてさて丁と出るか半と出るか……。


参考文献

酒の文化を知る-酒器の周辺 酒樽と量り売り もともとは箱型だった酒樽【月桂冠】

https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/culture/vessel/vessel03.html

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