第四話 私たちはまだ生きている!

 尾行者を常に確認しながら郊外へ進む。この世界に来たばかりのフランチェスカでも同じような事があって、その時は人身売買の悪党だった。今回はどんな奴だろうか?


 郊外の廃墟のような場所に出た。昔は村だったのか、今は誰もいない。石積みの建物も屋根は全て崩れ落ちて壁のみだが、壁も所々崩れていて室内の床板は既に崩れ落ち草が生えている。この場所を放棄してからだいぶ時間が経っているように見える。


 そんな廃墟を歩いていると囲むように不審者に取り囲まれている様子が電探によって知らされている。場所的には通りの左右に廃墟の建物があり通りの前と後ろを塞がれているような感じである。


「兄さん方、そろそろ出て来たらどうかな?」


 私が問いかけると尾行者達は廃墟の陰から姿を現し始めた。見かけはどこにでもいそうな町人のようだ。いや、それだけではない。豚のような怪人と鬼のような小人もいるぞ。こいつらフランチェスカで見かけた奴らじゃないか?とするとやばいな……。

(提督、どうやらシンシナーン魔国とコリアーナ魔国の手勢のようです)

 やっぱりそっち系かー。どうする私!?


 豚怪人が一歩前に出ると喋り始めた。高そうな鎧とか着ていて他の怪人より偉そうである。見た目はインテリヤクザだ。豚顔だけれど。


「ぐふぇぇ、お前が我が国の第八歩兵師団を壊滅させたのは調べがついているぞ。大人しく我々に付いてきてもらおうではないか」

「国?ですか?私の記憶にございません!」

 いや、ほんと色々と戦った記憶はあるけれど何とか師団とか気にして戦ってないから記憶にはないのだ。間違ってはいない。

「白を切っても無駄だ。力ずくでも連れていくぞ。お前達やれ!」

「おぅ!」


 町人だと思っていた連中は魔獣に変身し始める。フランチェスカでも大暴れしていた魔獣化兵士だったようだ。そして異様に盛り上がった両肩がパックリと開くと中には水晶のようなものが見える。その水晶に魔法陣が浮かび淡く輝き始める。


(提督、敵から高濃度の魔力の収束と温度上昇を感知。危険です)

 うぇぇ。どうしようか。ひとまず。


「CIWS攻撃用意!」

(CIWS攻撃用意!)


 私の両サイドにMk.一五 Mod二 高性能二〇ミリ機関砲ファランクスが地面から二基飛び出してくる。


「CIWS攻撃始め!」

(CIWS撃ち方初め!)


 そして私は真横にダッシュで逃げて廃墟の中に飛び込む。その瞬間に私が居たところを高熱の奔流が吹き荒れる。地面は真っ黒焦げだ。


「魔法ビーム兵器かよ!?」


 しかしこちらも一方的にやられたわけではない。ファランクスで敵魔獣化兵士を撃ち抜き無力化に成功するが、相打ちでファランクス二基とも爆散して喪失する。


「くそっ!!主砲攻撃始め!」

(主砲撃ち方始め!)


 〈こんごう〉型の主砲である五四口径一二七ミリ単装速射砲(オート・メラーラ一二七ミリ砲)が亜空間から砲身だけが飛び出して前方の邪魔になっている壁を撃ち抜く。砲塔全部はこの狭い廃墟内には出せなかったのだ。そして退路を確保して破壊した壁に転がるように飛び込む。またもや高熱の奔流が退いたあとに放たれる。魔獣化兵士はまだまだいるようだ。


 壁を破って隣の路地に出たが路地の奥から敵による砲撃が着弾する寸前に斜向かいの廃墟に飛び込んで直ぐに壁を破壊して今度は隣の住居に飛び込む。さらに砲撃で血路を開きながら急いで移動する。


 そして廃墟から脱出すると同時に命令を出す。


「全艦対艦ミサイル攻撃開始!」

(全艦対艦ミサイル発射始め!)


 旗艦〈こんごう〉隷下の第一艦隊と第二艦隊のハープーン艦隊艦ミサイルと九〇式艦隊艦誘導弾と一七式艦隊艦誘導弾が号令とともに発射されて敵に向かって噴煙を曳きながら轟音とともに飛翔していく。


 その間に私は亜空間から浮上してきた〈こんごう〉に急いで乗り込む。浮上タイミングを合わせたようでタラップを使わないで甲板に転がり込んだ。船乗り猫達が銃座について一二.七ミリ重機関銃M二にて支援射撃してくれていて心強い。


「ふぅ。助かったー」

 私は戦闘指揮所CICに急いで戻ると司令官席に座って一息をつく。廃墟内を走り回ったので大量の汗をかいた。制服が汗に濡れて肌に貼り付いて気持ち悪いが今はそれを気にしている暇はない。


「戦況はどうなっている?」

 オスカー副官からタオルを受け取りながら状況を尋ねた。


「提督を回収できたので現在は敵勢力を掃討中です。本艦は前線から退避中です」


 廃墟を更地にする勢いでミサイルによる飽和攻撃をしているので敵の反撃も散発としている。逃げ出す敵兵は艦砲による砲撃で排除しているようだ。


 今回の作戦内容は敵を廃墟内に誘き寄せた後に艦隊にて半包囲。私が廃墟から抜け出した所でミサイルによる飽和攻撃で包囲殲滅。包囲網から逃げ出した敵兵力を待ち伏せした別働隊が各個撃破する作戦だった。敵に魔法ビーム攻撃をするような兵がいるとは想定外だったのが誤算だったが勝てば官軍である。


 落ち着いた所でコーヒーを飲みながら戦闘指揮所内のメインスクリーン映し出されている戦況分析を眺めているうちに戦闘が終わったようだ。


「今回は危ないところもあったが何とかなったな」

「提督、あまり危ない真似はやめてくださいね」

 オスカー副官が氷のような猫目で睨んでいるぞ。男性のままだったら股間が縮み上がっているところだったよ。


「……善処します」


 私の答えを聞いたオスカー副官は盛大な溜息を付いて眉間に手を当てて左右に首を振る。周りの船乗り猫たちも左右の手のひらを上にして肩をすくめるゼスチャーだ。


 それはともかく今後の方針を考えないとな。売られた喧嘩は値切り倒した上で更に買い叩こうではないか。


(作者注)

題名の元ネタはFalco(1957-1998)の九枚目のアルバム”Verdammt wir leben noch”(ちくしょう、私たちはまだ生きている)から。

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