08.怒りのデストロイヤーガール編

第一話 南東方面偵察作戦開始!

 ここはドイツェット王国の王都ヴァリン近郊の廃村だ。そんな場所に魔族は現れたのは問題がある。王都は魔族の侵入を安々と許したことになる。


 あれだけ魔族へのミサイル攻撃をしたので爆発音は王都にまで届いていることだろう。私は艦隊に速やかに撤収を命じて離脱した。離脱する際には艦隊の存在を示すような物は全て回収したが、魔族の遺体はそのまま残しておいた。


 このあとに調べに来たドイツェット王国軍にも魔族の侵入について、これで伝わることだろう。


 さて、売られた喧嘩を買うにしても、まずは敵のことを調べなければならない。買い物で商品に傷がないかとか、他に同じもので安いものがないかとリサーチするのと同じである。


 というわけで艦隊の補給と修理などが済み次第、コリアーナ魔国とシンシナーン魔国に対して全艦隊に偵察任務を発令する事にした。最終的には威力偵察も辞さない構えだ。


 ただ一度に全ての艦艇をシップヤードに入れるわけにはいかない。地上を警戒する部隊も残さないとまずいし、勇者三人組に付けている部隊もいる。そういうわけでオスカー副官を筆頭に参謀組でローテーションを組んでもらい、完成したローテーション表を私が確認の上、承諾して実行に移した。


 提督座乗艦隊である第一艦隊の第一戦隊と第二戦隊が交互に入渠。地上に残っている方が旗艦を務める。以下、各艦隊内の二戦隊が交代して補給と修理を済ましていく。艦船で休息を取る時によくある半舷上陸の仕組みと似たようなものである。


 〈こんごう〉は補給だけではなくて戦闘中に|Mk.一五 Mod二 高性能二〇ミリ機関砲CIWSを損失したので換装するために余分に時間がかかったが無事に任務に復帰した。〈こんごう〉が入渠中は〈ちょうかい〉に旗艦を移して〈ちょうかい〉カレーを堪能したのは言うまでもない。ちなみに〈ちょうかい〉のカレーはシーフードカレーで美味しかったと公開日誌に記録しておこう。


 補修と補給が終了した艦隊から順次出港して任務へと旅立っていった。第一艦隊と第二艦隊は集結した後に南下する。


 ドイツェット王国の南方は海に接している。その海沿いにある港町リジェカに進路を取る。リジェカ近辺は大小の島があり艦隊の泊地とするには丁度良さそうな地形である。リジェカでは一泊してすぐに移動する予定だ。


 リジェカの町には寄らず、離れた所から海に進水する。軍艦なのに陸上移動ばかりで偶にしか海に行かないのは問題があるな。敵が海軍勢力でも無いのに〈デストロイヤー〉なんてスキルが有るのがいけないのだ。


 でもな、想像してみよう。例えば戦車しか出せないスキルだっとしたら……。現実的にはテントでも張って野営だろうけれど戦車の中でずっと寝泊りとか想像したく無いぞ。


 駆逐艦なので食堂もあるしシャワーも風呂もある。夜はベッドで寝ることも出来る。つまり駆逐艦は最高だぜ!駆逐艦じゃなければ今のような贅沢は出来なかっただろうから何が正解かはわからないもんだ。


 リジェカを発って島々の隙間を縫うように南東に向かう。島々を抜けた前方には半島と半島に挟まれた海峡が有り何事もなく通過。半島を左舷に見ながら東へ回り込むと多島海へと至る。


 多島海は周囲を大陸から突き出た半島と島に囲まれた中庭のような海で、名称の由来となっているように小島がたくさん集まっている。エメラルドグリーンの海に多数の小島が浮かぶ美しい環境だ。戦時で無かったら観光客で賑わっただろう。多島海の東にある半島がコリアーナ魔国で、更に東に隣接した国がシンシナーン魔国である。


「ここを泊地とする!」


 泊地に決めたのは多島海の中心から少し西にある凹型の無人島。凹んでいるところが大きめの湾になっていて艦隊が停泊するのに都合が良さそうだったのが決め手だ。


 船乗り猫達が錨を下ろして錨泊の準備に入る。錨泊するには幾つか方法がある。単錨泊は錨を一つだけ投錨する。鎖の長さの分だけ動くことが出来るので短時間だけ錨泊する時に使う。


 双錨泊は二つの錨を別々の場所に投錨して船が振れないようにする投錨方法。これにも幾つかの種類があるが、今回は長時間の錨泊なので双錨泊になったようだ。


 錨泊したら半舷上陸して暫く休憩だ。搭載内火艇を降ろし、乗り込みビーチランディングと洒落込む。ビーチに着いたらデッキチェアにビーチパラソルを用意して束の間の休日を楽しむ。紺碧の海を眺めながらのバカンスは実に気持ちが良い。


 索敵は麾下艦隊が鋭意実行しているので提督としてはやることがない。デッキチェアの横に置いたテーブルの上にはコーラと無骨な軍用無線機が置いてあるのみ。無線機から聞こえる報告を待つ以外にはやることがないので休暇を楽しむしか無いのだ。断じてサボっているわけではない。提督にも休日は必要なのだ。


 船乗り猫たちは自由気ままに休暇を楽しんでいるようだ。砂浜を追いかけっ子したり、日陰でぐったりしたり、ひたすら猫パンチを繰り出す者や、島を探検したりと色々だ。


 そんな船乗り猫達を眺めながらのんびりしていると突如、腹に衝撃が走る。


「うっぐぅぉえっ!」


 乙女なのにおっさんのような呻き声が思わず出てしまったぞ。中身はおっさんだけれどな!


 目の前に小山が出来ているな。つまり腹の上に船乗り猫が丸くなって乗っている。通常の猫なら「可愛い奴め」で終わるところだが、船乗り猫の大きさは人間と同じぐらいの大きさだ。つまり重くて大きくて邪魔なのだ。階級を見ると上等水兵のようだ。


「上等水兵、君は一体何をしているのかな?」

「はっ、提督!?つい気持ちよさそうな場所を見つけたのでつい……」


 上等水兵はすごすごと腹から降りていった。内臓が潰れるかと思ったぞ。船乗り猫達は本当に猫なんだなと思う次第であった。

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