第二話 ブライソナ

 半舷休息も終了して旗艦〈こんごう〉に戻ってきて戦闘指揮所CICに日参する日々が再び始まってから十日程経った頃。


「提督、全チェック終了しました」

「ご苦労。それで偵察結果はどうだった?」


 私はコーヒーを片手にオスカー副官に対して尋ねる。ちなみに創作作品だと判で押したように軍のコーヒーは不味いてよくあるけれど〈こんごう〉のコーヒーは普通に美味しい。コーヒーが不味いと兵員の士気に関わるので良いものが用意されているというより現代のコーヒーはインスタントでも美味しいので技術的な問題なんだろうと推測する。


「まずはコリアーナ魔国から。コリアーナ魔国の軍事拠点は五箇所です。北方面駐屯地、東方面駐屯地、南方面駐屯地、西方面駐屯地、そして首都ピョンシーにある中央方面駐屯地となります」


 東西南北の国境を守ろうという布陣なのかな?


「戦闘が激化しているために東と南は現状は空です。前線に送られているようですね。北と西は国境守備的に残っていますが数は少ないです。残る中央は首都防衛のための予備戦力扱いになっているようです」


 なるほど。今は戦争中だ。国境越えて戦力を投射したので国内には居残り戦力しか無いということか。外征した奴らも蹴散らしているから戦力的にはかなり減っていると思いたい。


「次にシンシナーン魔国の現状です。シンシナーン魔国も基地が東西南北部戦区と中部戦区に駐屯地があります。どうやらコリアーナはシンシナーンを真似して取り入れたようなので、こちらが本家ですかね。中部戦区駐屯地が首都ムクデンにあるのも同様です。こちらも半分は外地に遠征しているので残存戦力的には半分以下ですね。中部戦区の第八歩兵師団が最精鋭らしいですけれど現在は所在が判明しません」

「所在が判明していない精鋭部隊か……。出来れば後顧の憂いを断つためにも把握しておきたいが……」

「ただ、所在については国民にも隠蔽しようとしている形跡がありますね。国民の間でも噂になっていますが噂を封じ込めようと官憲が動いている様子があります」

「なるほど。戦意高揚の為には戦果の大本営発表しても良いのに出来ない事情があるのだろうか……?まぁ、国民に知られたくないという事は第八に不味いことでも起きたのかもしれないと仮定して作戦を続行しよう」

「アイアイ、マム!」


 さてとああは言っては見たが博打だったかな?少なくとも第八は国内には居ないということなので第八の行方を気にしても仕方ないということもあるな。ただ常に秘匿軍事力が有るかもしれないと心にメモしておこう。


 偵察は終わった。次は攻勢だ。基本的には現代兵器の実力発揮で遠距離ミサイル攻撃の一手だな。幸い相手はドラゴンではないので大丈夫だろう。


 そんなわけで提督的には暇になる。攻撃目標に対する艦隊の割当とか配置とかの作戦の詰はオスカーを始めとした参謀連中が策定してくれるので今は待つのが仕事だ。


「少し艦内を見てくる」

「司令官、退室!」


 戦闘指揮所を出る。戦闘指揮所は艦橋構造物下の第二甲板にある。第一甲板は上甲板とも呼ばれる船体の上面の甲板だ。第二甲板はその第一甲板の下の階層なので第一甲板が地上一階とするなら第二甲板は地下一階に相当する。艦橋構造物等が乗っている第一甲板より上の階は二階に当たる階層から〇一甲板、〇二甲板、〇三甲板……となっている。


 階段を登って〇五甲板に出る。ここは艦橋がある場所で普段の航海はこの艦橋で指示を出している。艦橋は外から見るとガラス窓の連なっている展望台のような場所だ。入室すると当直の船乗り猫が敬礼するので答礼を返す。艦橋にも司令用の椅子と艦長用の椅子があるので左舷ひだりげんにある司令用の椅子に座って暫く景色を眺める。艦橋は高い位置にあるので砂浜から見るより遠くまで見えるので同じ景色を見ていてもアイレベルが違うだけで印象が随分変わる。


 景色を眺めるのも飽きたので艦橋から出て第一甲板に向かう。艦橋構造物から左舷のトンネル状の第一甲板に出る。通常の船だと露天甲板なのだが〈こんごう〉や現代の軍艦はステルスを考慮して側面構造物に覆いをつけていることが多い。トンネル内を艦首側に歩いてハッチを抜けて艦首側甲板に出る。


 露天甲板に出る時には胸ポケットに入れていたサングラスを掛ける。南国よりなこの地域は日差しが強いのでサングラスが有ると重宝する。


 停泊中なのでトンネル前後のハッチは開け放たれている。艦上体育でランニングしたりするには開いている方が都合が良い。


 艦首甲板でまず目につくのは主砲の五四口径一二七ミリ単装速射砲だ。砲塔は人の背の三倍位の大きさなので存在感がある。砲塔は両側面にハッチはあるが無人砲塔である。


 砲塔と艦橋構造物の間にはMk.四一 mod六 VSLが二九セル有る。ミサイルを発射する時にはミサイル用のハッチと噴煙を逃すためのハッチが開いて発射される。右舷二列目に有るミサイルハッチ三セル分の大きさの蓋が再装填用クレーンがある場所だ。


 艦橋構造物を改めて見ると両舷に六角形のパッチワークみたいなのが貼り付いているが、これがイージス武器システムの一部であるSPY‐一である。艦橋構造物の真ん中には高性能二〇ミリ機関砲が鎮座している。本来は対空兵装なのだがブロック一Bにて対水上目標も攻撃できるように光学射撃指揮装置が追加されている。


 今度は右舷みぎげんから艦橋構造物に戻り通り抜けて艦尾に向かう。後部甲板はヘリコプター用の甲板となっている。ヘリコプター用の格納庫はないので常時搭載運用はできない。後部甲板には六三式三連装短魚雷発射管が両舷に二基とVSL六一セルがヘリコプター甲板の前方に設置してある。


 また艦橋構造物内部に入り第二甲板へと戻る。戦闘指揮所には戻らず艦尾方向へと向かって機関操縦室に寄ってみる。機関操縦室というのは機関長が居て艦のエンジン等をコントロールする場所だ。電力の制御したりダメージコントロールをする場所でも有る。


 〈こんごう〉の主機はガスタービン四基二軸。つまりエンジン四基で二つのスクリューを回して推進する。ガスタービンというのは航空機用のジェットエンジンと似たようなものだ。実際に〈こんごう〉型に使われているLM二五〇〇は航空機用のCF六‐六を船舶用に再設計したものである。


 今は停泊中なので機関操縦室には当直の船乗り猫しかいない。敬礼した船乗り猫に答礼して次の場所に向かう。


 次に来たのは食堂である。この食堂は一般水兵向け食堂で士官食堂は別にある。食堂内は六人ずつのテーブルが置いてありぎっしりとしているが現在は休憩中の船乗り猫達が少数いるだけだ。船乗り猫達の敬礼に対して答礼を返しながら食堂を去る。私がずっといたら船乗り猫達も休めないからな。


 艦内も見回ったので私は艦橋構造物〇一甲板の左舷にある司令室に戻って暫く休むことにした。

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