おっさん、異世界転性してデストロイヤーガールになる!?

椎乃律歌

01.デストロイヤーガール誕生編

第一話 巻き込まれて別世界へ

 私の名前は山本イソナ。何処にでもいるような四〇代の平均的な普通のおっさんだ。仕事に邁進し、独身貴族を謳歌していると言えば聞こえは良いが、婚期を逃しただけの独身のおっさんである。若干中年太りはあるが仕事が忙しくて運動不足な身の上ならしょうが無いところだろう。


 今は暑い日差しの中、汗水垂らしながらの外回りの営業中だ。頭上の空は雲ひとつない晴天で遠くに入道雲が見えるぐらいだ。アスファルトは太陽熱によって熱せられて陽炎を生み出している。


 ここは東京都内のとある大通りを一歩入った住宅街。過密な戸建てが大通りを通過する自動車が撒き散らす騒音を吸収して蝉の鳴き声以外は静かである。どこかの喫茶店にでも入ってよく効いた冷房の元、アイスコーヒーでも飲みながら休憩したいものだと思いながら歩いていると向こうから今まさに青春を謳歌しているような男子高校生三人組がやってくる。


 男子高校生らしく蝉の声に負けずと劣らず馬鹿話で盛り上がっているようだ。そんな三人組とすれ違おうとした時に突如異変が起きたのだ。


 最初は太陽の照り返し加減が強まっただけかと思ったが、どうやら様子がおかしい。良く見ると男子高校生三人組を中心とした半径二メートルに幾何学模様が地面に描かれている。道路は幅四メートルほどしか無いので私も幾何学模様の上に乗っている。その模様が光り輝いているのだ。その影響で露出オーバーで周囲が白飛びしたように見える。


 おっさんの私だが若い頃から数々のラノベを愛読しているので瞬時にこれは不味い!と思った時には既に遅し、視界がぶれて目眩が起きた時には魔法陣に引きずり込まれるように地球上から私達四人は忽然と消えたのだった。


 四人が消えた後は何事もなかったように蝉の鳴き声と太陽がアスファルトを静かに焼いていた。



……。




 意識を失っていた私は気が付くと薄っすらと明るい空間にいた。


 ぼんやりとした意識が戻ってくるにつれて意識を失う前の記憶が戻ってくる。まずは現状がどうなっているかを確認するために周りを見渡すと周囲をガラスのような壁に囲まれた一室に私は座っていた。


 椅子は空港とかの待合室にあるようなソファーだった。ガラスの向こうには学生服のような物を着た男三人が並んで立っており、その奥には出国カウンターのような物があり、女性が座って何やら受け答えをしたり書いたりスタンプを押したりしている。話し合いが終わったようで三人組は何かを受け取ると出国ゲートの様な物を通って消えていった。


「山本さん〜、山本イソナさん〜。こちらにおいで下さい」天井の方から声がした。


 眼の前のガラスの壁が音もなく開いて出口になる。自分自身戸惑ってはいるが声に誘導されるように立ち上がると出国カウンターに見える場所に向かった。


 出国カウンターの前に立つと係員と思しき女性が立ち上がって頭を下げてきた。


「申し訳ありませんでした!」

「えっ!どういう事ですか?」

 突然謝ってくる女性に困惑する。

「まずは事情を説明しますね」

「はぁ、よろしくお願いします」


 女性の説明によるとこの宇宙は多数の次元が重なり合った多元宇宙であり私がいた地球とそっくりな別の地球も存在しているという話だ。私はSFが好きで読んでいていたからなんとなく理解できたけれど本当にあるのだな。


 今いる場所は三次元世界より高次元にある宇宙で多元宇宙全体を見渡せる次元ポテンシャルがある場所なのだそうだ。


 別の世界で勇者召喚術式が発動すると、まずこの場所で受付処理が行われて多元宇宙世界で対象になりそうな人材をサーチ。対象となる人材を選びだしたら対象に対して召喚術を適応して召喚されてくるのだとか。


 以前、魔法で成り立っている多元宇宙世界の地球で勇者召喚が行われた時に無差別に私達がいた地球や他の地球から連れ去られてしまい連れ去られた人々が奴隷のように酷使された。時空を越えた召喚の影響で時空の因果律も乱れてしまい高次元世界でも大問題となったそうだ。


 勇者召喚魔法を禁止に出来ればよいのだが高次元から三次元への無闇な干渉は禁止されており、対策としてこの空間にて電話の交換機の役割のようなことをして正しく多元宇宙世界同士が繋がり因果律を乱さないように調整されたそうだ。


 今回は地球の多元宇宙世界で勇者召喚が行われて私達が居た地球の男子高校生三人組が選ばれた。そこにたまたまいた私が巻き込まれてこの高次元空間に引き込まれたらしい。


 勇者召喚術式には対象者以外を弾くように出来ているのだが今回は何故かシステムエラーが出て私も召喚されてしまったらしい。召喚術式なので逆方向には働くことが出来ずにこのまま召喚されてしまうとのことだった。


「つまり今すぐ元の世界には戻れないと言うことですか?」

「そういう事になりますが、勇者たちが魔王を倒すと送還術式が働くのでその時に一緒に帰れるかもしれませんが、初めての事なのでまったくどうなるか分からないのです」

「はぁ、どうしたらいいのですか?仕事中だったのですが……」


 そうだ、私は外回りの営業中。このまま多元宇宙世界に行くことになったら無断欠勤で恐らくは会社はクビになるのではなかろうか?四〇代で再就職活動は厳しいぞ。


「とりあえず対応策を考えたので修正パッチをリリースします。ただし召喚は取り消せないので一度はそのまま召喚はされます」

「私は勇者召喚に巻き込まれただけのただの一般人なんですよね?そんなただのおっさんが異世界に行っても大丈夫なのでしょうか?」


 勇者が呼ばれて飛び出すような世界である。異世界の治安がどうなっているがわからないが不安がある。気分はいきなり身一つで戦争勃発地帯に放り込まれるようなものである。


「こちらとしても勇者でもないただの一般人を別の世界に放り出すわけにもいかないので特例でスキルを付与することにしました」

「スキルですか?」

 スキルて異世界ラノベに良く出てくるアレなんだろうか?元々ゲームから来ているらしいのだがロールプレイングゲームは嗜まない私にはさっぱり分からない。


「勇者召喚された者には勇者の称号とそれにまつわるスキルが与えられるのですが、一般人には勇者と同じスキルを与えることが出来ないのです。なので今回は特別に山本さん独自のユニークスキルを与えることになります」

「それはこちらから要望は出せますか?」

 要望出せるなら所謂チート系スキルとか貰えるかもしれない。チート系スキルさえあれば別世界で左団扇ひだりうちわで暮らせるかも知れないぞ。

「すみませんが、山本さんの素体スキャンの結果で山本さんに適合した最適なスキルが自動生成されるので要望は受け付けられないのです」

「そうなんですか……、とりあえずお願いします」

 落胆はしたがゴネても仕方ないので受け入れることにした。


 気落ちしながら女性を眺めていると女性はパスポートサイズの紙に何かを書き込んで判子を押すと私は一瞬光りに包まれたがすぐにもとに戻った。


 紙に浮かび上がった文字を見て女性が言った。

「あなたには『デストロイヤー』のスキルを貸与します」

「なっ、なんですか!?その物騒なネーミングのスキルは!?」

「私も初めて見るスキルなので良くわからないですがスキルを発動すれば使い方がわかるはずです。一応、注意書きに『初回発動時に人前で発動しないこと』て書いてありますね」

 良くわからないがネーミング的に強そうだからいいか。勇者が召喚されるほどの世界だ。平和な世界とは言い難いしな。


「では、これにて手続きは済みました」とパスポートみたいなものを渡してくる。それを受け取ったらパスポートは光り輝いて体の中に溶け込むように消えていった。

「あちらのゲートを通って下さい。山本さんは勇者じゃないので勇者召喚の場とは違う場所に転送されます。そうしないと別世界で混乱が起きるのでエラー訂正処理致しました」と女性はゲートの方を指さしなが言った。見た感じは空港とかにある出国ゲートのようだ。


 私は最後に気になっていたことを聞いてみた。

「あなたは女神様ですか?」

「いいえ、ただの次元管理官ですよ」

「はぁ?」

「それでは良い旅を〜」


 私は何かに引っ張られるようにゲートを潜ったのだった。

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