第二話 軍隊の進軍は腹次第
私は思いがけず組合にて魔物買取査定の係員ガエタンと再会して教えてもらったレストランの目の前にいる。レストランの外観はこの界隈ではありふれた五階建ての一階にある。壁の色は茶色系で落ち着いた雰囲気だ。店舗の前には席も用意して有り晴れた日には外で食べることも可能なようだ。実際に店舗前で食べている人の食卓からは良い匂いが漂ってくる。
これは期待できそうだ。
開け放たれている入り口から入る。中は幾つかの部屋に分かれているようで部屋の奥にも座席が見える。入口近くの一番広い部屋にはカウンター席が設置してあり一人で食べるには都合が良さそうだ。店内も全体的に茶色系で纏めてあり古風な落ち着いた雰囲気がある。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
「はい、そうです」
「それではこちらのカウンター席にどうぞ」
店員さんは全員白いシャツに黒いパンツを着用してサスペンダーでパンツを吊るしている。頭には揃いのハンチング帽を被っているのでおそらく制服だろう。
カウンターについてメニューを眺める。肉系と魚系がある。飲み物はエールなどのビール系だ。ここドイツェット王国はビールを生産する酒蔵が多いことでも有名だ。現代風に言えばクラフトビールの名産地と言ったところだ。
体は女性でも中身はおっさんなのでビールは飲みたい。いや、別に女性でも唐揚げとビールは最高!とかビールと餃子は至高!て言っては飲んでいる人もいるから別にいいか。そんなわけでビールと豚肉の揚げたものを頼んだ。ビールと揚げ物は相性いいからね。ビールが銅貨四枚。豚の揚げ物が銅貨一八枚だった。給仕さんにその場で支払う仕組みだ。
「お待たせしました〜。豚肉の揚げ物とポテトとサラダのプレートとビールね」
「ありがとう」
代金とチップを渡す。この世界には給仕にチップを渡す習慣がある。日本だと無い習慣なので最初は戸惑うが今は慣れたもんだ。
しかしこの豚の揚げ物はデカイぞ!日本風に言えばトンカツなんだが、皿は三〇センチぐらいはあると思われる大皿。その上に黄金色の豚の揚げ物がはみ出る大きさで横たわっている。わらじカツとでも言えばよいのだろうか?とにかくデカイ。ただ日本のトンカツと違って薄切りの肉なので分厚くはない。
トンカツの添え物として茹でたポテトとキュウリのサラダが添えてある。かぼすのような柑橘系の果物も添えてあるので、これをトンカツにかけて食べるんだろうな。
とにかく実食してみよう。まずは大きいのでナイフとフォークを使って切り分ける。表面はパン粉でカリッと揚がってサクサクだ。急いで口に放り込むが熱い!熱いがそれが良い!薄切りかと思ったが肉を叩いて伸ばしたらしくガッシリとした歯ごたえのある肉肉しい味わいだ。日本人は脂身の多い柔らかい肉が好きだが西洋人は歯ごたえがある方の肉が好みなんだよな。最近は海外でも神戸牛とか人気らしいが。それはさておき黒胡椒で味付けしてあるだけだが、そのシンプルさが実に良い。肉の味がよく分かるというものだ。添えてある柑橘系も絞ってかけてみる。個人的に全体にかけるのではなくて味に飽きたら味を変えるためにかける感じなのでかけても少量だ。油には爽やかな酸味で舌をリセットするのも有りだ。
付け合せのポテトも食べてみるか。茹でたポテトにドレッシング・ソースとハーブが絡めてある。ハーブは好きなので問題ない。キュウリのサラダは一見するとキュウリの酢の物に見えるが食べてみたら確かに酢と油と塩で和えたものだった。口直しに食べてみたが全体的に重いぞ。食べきれるかな?
そしてビールだ。揚げ物にはビールだよね。とビールを飲む。ただ冷やしてない常温のビールなのが残念だがこれはこれで有りか。
などと料理を堪能していると新たに三人組の客がやってくる。
「「「ちーす!おねぇさん何時もの!」」」
三人組は勝手知っているようでテーブル席に座ると談笑し始める。喋っているのはウェー系だけれど日本語じゃないか?そうすると彼奴等が例の勇者トリオか。とりあえず聞き耳を立ててみるとしようか。
「とりまドラゴンで大儲けできてまいうー」
「それな!」
「今日は特盛りで食べようぜ!」
「りょうちんは食い意地張ってるなー」
「ウェーイ!」
やっぱりあの時ドラゴンを倒した勇者三人組のようだ。私もドラゴン二体の死骸は回収したので売り払っても良かったんだが、勇者が倒すようなドラゴンを持ち込んだら大騒ぎになると思って亜空間に保管してある。このまま塩漬け状態になるだろうという嫌な予感がする。
三人組の所に料理とビールが運ばれてきた。
「とりまウェーイ!」
「「ウェーイ!」」
どうやら異世界だからか三人組は酒を飲み始めたぞ。見た目は高校生だけれど良いのかな?まぁ、おっさんも若い頃にこっそり酒飲んだことあるから強くは言えないな。この世界は飲酒可能年齢も低いみたいなので、この世界にいるあいだは合法か。
「それにしてもドラゴン三匹と言う報告があって行ってみたら一匹しかいなかったのは何故なんだろうな?」
「それな!」
「俺達にビビって逃げたんじゃねー?」
「かもな!」
三人組が深く考えてくれなくて、私的には助かったな。残りのドラゴンの存在を追求されると困るしなー。戦った形跡はあっても全て亜空間に退避したので何も残してはいないと言うのもあって何が起きたのかさっぱりわからないとは思うがな。
「おねぇさん!追加でソーセージとポテト!」
「ビールもおかわり!」
「豚の揚げ物も追加で〜」
さすが高校生。食欲が旺盛だな。頼んだものがどんどん胃袋に消えていくよ。若干胃もたれをする気分で様子を見ていたが、そろそろ聞き耳を立てるのも切り上げようかな。
「今度、連合軍との会議に出てくれて陛下から言われていたなー」
「ああ、あれか。何でも連合軍とで魔族へ大反抗作戦に打って出るみたいだぞ」
「魔族片付けないと元の世界に戻れないしなー」
「なるはやで片付けたいよな〜」
「マジ、それな」
ほう、それは良いことを聞いた。こちらも連動して裏で支援して早く魔族を倒してもらわないと帰れないのは一緒だ。こちらもうかうかしてられないぞ作戦を立てなければ。私はそっと立ち去ろうとしたが三人組の一人に見つかった。
「ちょっと、そこのカノジョ〜。これから茶でも飲まない?」
おぃおぃ、マジか!おっさんである私をナンパか!?
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