07.ドイツェット王国編

第一話 王都ヴァリン

 私達が最後の一手を指しきれない所に勇者の乱入によって唐突に終わったEWF戦。その後、私達は戦場からこっそりと離脱して艦隊を亜空間に退避させた後、翌日の朝に私は徒歩でドイツェット王国に入国した。


 戦場だったロトゲンからドイツェット王国の王都ヴァリンまでは直線距離で大体五四〇キロメートルほど。とてもじゃないが歩いて行くのは辛い。なので徒歩での移動は最初から諦めて、なるべく人目が付かないところで駆逐艦を呼び出して進むことにした。


 道程はベルグヘイム、ワッパータル、ハーメイン、ブラウンシュウェイグ、ヴァリンを予定している。これで六六四キロメートルの行程となる。なるべく平坦な道程を選んだので少し遠回りになった。速度は原速またはフルアヘッド(一二kt)で全行程を駆逐艦に乗艦したとして三〇時間位である。


 ドイツェット王国内は大規模な敵集団とは流石に出会うこともなく適当な魔物を狩りつつ進んでいく。二日目の昼過ぎには王都近郊の森に到着したのでここからは歩きだ。


 長い森の中の一本道を歩いていると漸く森の切れ目が見えてきた。


「あれがヴァリンの灯だ!……昼間だけれどな」


 郊外の建物が疎らに見える。そんな街並みを見つつ街の中心に向かって先へと進むと段々と建物が密集して大きな街を形成していく。


 馬車が六台以上は並んで通れる森に挟まれた大通りを原宿の竹下通りのような賑わいの中を歩いていくと眼の前に大きな門が現れた。門の前は広場になっていて露天とか並んでいてお祭りのように人が賑わっている。


 肝心の門は石造りの巨大建築物である。六本の柱に支えられた門だが門扉は存在せず素通りだ。門の上には馬と神様の石像が設置されている。両側には詰め所みたいな大きな建物も見えるが特に検問とかはしていないようだ。凱旋門みたいなものかな?と思いながら進んで巨大な門を見上げながら潜る。気分はお上りさんの観光客である。


 入ってみたが高級そうな大きな建物が立ち並んでいて場違いな感じだ。片田舎から上京して銀座を歩いてる感じの場違い感だ。王宮が奥に見えるので官庁街や貴族街なんだろうか?こんな所に長居をしないで早めに庶民的な場所に行きたい。そもそもこんな高級そうな所に狩猟ハンター組合とか無さそうだ。


 そんな用も無いのに何故王都の中心街に来たのかと言うと東京観光なら東京タワーと皇居。パリ観光ならエッフェル塔にベルサイユ宮殿。ロンドン観光ならビッグベンにバッキンガム宮殿などと一度は観ておかなければと言う観光名所を観ておきたいというだけの理由であって深い意味は更々無い。


「オスカー、狩猟ハンター組合までナビゲートを頼む」

(アイアイ、マム)


 船乗り猫にナビゲートを頼めばすんなり目的地に到着。中心から西南西に少し離れた場所に幾つもの道路が集まっている長方形の広場がある。広場には樹木が植えられていて街路樹も有り緑豊かな空間だ。その広場に面した三角形の敷地に目的の狩猟ハンター組合はあった。


 建物は白色の石壁の五階建て。屋根裏まで含めると六階建ての大きな建物だが他の建物も同じぐらいなので突出して高いわけでは無い。この近辺の建築様式のようだ。もしかしたら建築規制とかがあるのかもしれない。白壁には蔦が部分的に生えていて建物のアクセントになっている。そして広場に面した楔形の先端部分に正面玄関がある。


 ではヴァリン狩猟ハンター組合の中に入ってみよう。入った所に総合受付があるので目的の魔物買取査定カウンターを教えてもらう。魔物買取査定カウンターは総合受付から右側の通路を行った所の突き当りだ。どうやらこの建物は上から見るとV字型をしており角の頂点にある総合受付から両翼に広がっているみたいだ。V字に広がる建物と建物の間は中庭となっている。


 魔物買取査定カウンターで受付を済まして番号札を貰う。番号札は木製で特に魔導具とかでは無さそうだ。暫くしたら番号を呼ばれたので査定所に出向く。


「こんちわー」

「いらっしゃい!」

「ん?」

「おっ?」


 査定のおっちゃんを私は眺める。なんかデジャブが……。どこかで見たよな、このおっさん。


「イソナ嬢ちゃんじゃないか!久しぶりだなー!!」とガハハと笑うおっさん。

「誰でしたっけ?」

「おぃっ!俺だよっ!俺っ!」

「オレオレ詐欺?」

「違うわい!フランチェスカやエンゲルッシュでも会ったじゃないか。ガエタンだよ!」

 私はポンと手を叩いた。

「……ああ、見たことはあるなとは思ったが、あの時のガエタンのおっさんだったか……。しかしなんでこんな所に?」

 ストーカーかな?とは思ったが言わないでおいた。


「嬢ちゃん何か失礼なことを考えていないか?」

「いえいえ、そんな事はありませんのですよ……。おほほ」

 おっさんはエスパーか!?私はそっと目をそらす。


「そんな事より話せば長くなるが……」

「手短にお願いします」

「取り付く島もないな!まぁ、いいや。例の大反抗作戦が始まって連合軍によってフランチェスカを奪回できただろ?それでフランチェスカに帰ることが出来たんだよ。自宅に帰ってみたら自宅は荒れててね、それを見たときは家族は絶望的だと思ったもんだよ。しかし置き手紙があったので疎開場所で妻と子供にはすぐに会うことが出来たんだよ」

「それは良かったですね」

「妻の話によると、魔族の襲撃があったあの日は自宅に隠れていたのだが、いよいよ自宅も危なくなってきて子供を連れて逃げようとしたらしい。逃げている途中に運悪く魔族に見つかり最早ここまでと思ったそうだ」

「ほう、それで?」

「突然、路地から妻の目の前に女性が現れると巨大な杖から雷鳴が轟き魔族がバッタバッタと倒れていったそうだ。その女性は何事もなかったようにそのまま立ち去っていったらしい。付近の魔族が一網打尽にされたので無事だったそうだ」

 どうやら凄腕の雷系魔法使いでもいたみたいだな。そんなやつがいたならばもっと楽に脱出できたのにな。


「へー、そんな事があったんですね。それでどうしてこちらへ?」

「連合軍がドイツェットまで打通したので自宅は住めなくなっていたし妻の実家があるドイツェットに引っ越してきたんだよ。ここは勇者が居るから安全性も高いし」

「なるほど」

 私が一ヶ月ほど森で遊んでいる間に連合軍はここまで侵攻していたのか。それにドラゴンを一撃で斬り倒すような勇者は最強戦力なので敵国に近いとは言え一瞬で占領された脳天気なフランチェスカより安全なのかもしれない。


 とりあえず魔物を査定に出して預り証を貰う。用事が終わったら急に腹が減ってきた。そろそろ昼頃だ。よし、昼飯にしよう。


「ところで、昼飯で美味い所はこの辺にあります?」

「飯ならこの建物を出て左側の道に入ったところにあるレストランがお勧め。組合の職員もよく行っている場所だよ」

「ありがとう」

「気をつけてな!」


 狩猟ハンター組合を出ると教えて持った通りに左側の道に入る。右手に目的のレストランがすぐ見えた。本当に近い。店の前にもテーブルと椅子があり外でも食べている人がいる。


「おお、なんか良い匂いがするな。これは期待できそうだ」


 私はとりあえず店に入ることにした。

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