第十話 第二次EWF戦 後編
薄れゆく爆煙と土煙の中に微かに見える動く影がメインスクリーンに映し出される。赤外線画像でハッキリと目標Fだと確認できた。
「あの攻撃で無事かよ……」と私は唖然としながら呟いた。
「あのブレスは厄介ですね」とオスカー副官が答える。
「なんとかするしか無いな。引き続きトマホークによる牽制攻撃を続行。ハープーンとSM‐二ミサイルでも攻撃。大盤振る舞いだ!」
「第八艦隊と第九艦隊ハープーン並びにSM‐二ミサイル攻撃始め!」
ハープーンは対艦ミサイルで甲板上部に設置された本来なら四本一組の発射筒から発射される。〈こんごう〉の場合は三本一組の発射筒になっている。発射時は固体燃料のロケットブースターにより打ち出されて加速。初期加速を終えるとロケットブースターは切り離されてターボジェットエンジンに切り替えて目標まで飛翔するミサイル。
SM‐二ミサイルはスタンダードミサイルと言われている艦対空ミサイルであり対空目標である目標Wは既に撃破済みであり、地上目標である目標Fには向かないが囮として景気よく撃ち出されている。
爆煙から躍り出た目標Fは周囲を一瞥するとブレスで周囲を薙ぎ払うように放出。ブレスで焼かれた一帯の林は一瞬で炭となる。物凄い威力だ。目標Fは全身をプラズマのような物で纏、全身発光しており今は暗闇の中大変目立つので当てやすい。
「第五戦隊〈カーティス・ウィルバー〉大破!戦闘不可能!戦場を離脱します!」
「第一三戦隊〈ハワード〉機関大破!退避します!」
「第一〇艦隊、第一一艦隊は第三艦隊と第四艦隊の支援に回れ!」
「第一二艦隊は第五艦隊の支援に回れ!」
戦況はあまり良くない状況だ。ミサイルは目標Fに届くのだが、目標Fが身に纏っているプラズマがリアクティブ・アーマー宜しくミサイルの爆風や破片を軽減しており決定的なダメージを与えていない。今の所、物量で押すしか無い所だ。相手も生物なので何れは疲れると期待したい。
「オスカー副官。遠距離でのミサイル攻撃にも限界があるな砲撃ならどうだろうか?」と私は提案してみる。
「砲撃となると確実に仕留めるためには前進しないとなりませんが……」
「このままでは埒が明かない。やってみるしか無いと思う。予備戦力である第一艦隊と第二艦隊で仕留める。第一艦隊と第二艦隊は前進せよ!」
「第一艦隊、面舵一〇度一斉回頭。第二艦隊は我に続け」
「アイアイ、マム!」
艦隊総旗艦である〈こんごう〉を始めとした麾下一五隻が一斉に主機関であるガスタービンエンジンの出力を上げる。全速前進だ。ちなみに米海軍と海自ではエンジン・テレグラフの表記が違いややこしい。ただの営業職にはよくわからない話だよ。
第一艦隊と第二艦隊が前進している間にも戦況が逐一入ってくる。
「第一一艦隊〈ダニエル・イノウエ〉被弾!戦線離脱します!」
これで退避した艦は三隻か……。前回の遭遇戦と比べたらまだ損害は小さい。健闘しているようだ。断続的に観測ヘリからのデータリンクが途切れる。撃墜されて別の観測ヘリに切り替えているわけだが損耗が激しすぎるなら後方に下げる必要があるかもな。ヘリはテールローターを壊されると飛べなくなるという脆弱性があって、元の世界でもロシア製の対戦車擲弾発射器RPGで歩兵に簡単に撃ち落とされると、あっと言う間に世界に広まって戦闘ヘリが歩兵の天敵では無くなってしまったほどだ。
「提督、目標Fをレーダーで捉えました!」
「出来るだけ引きつけて撃てよ。本艦隊は目標Fに気付かれないように前進。他の艦隊はミサイルでありったけ撹乱よろしく!」
「アイアイ、マム!」
「主砲撃ち方用意!」
〈こんごう〉型に搭載されている五四口径一二七ミリ単装速射砲。即ちオート・メラーラ一二七ミリ砲が目標に向けて指向する。揚弾された弾薬が即応弾マガジン・ドラムに装填されていく。
第二艦隊の〈あたご〉型と〈まや〉型は六二口径五インチ単装速射砲。即ちMk.四五 五インチ砲である。この砲は〈アーレイ・バーク〉級にも採用されている砲である。
五四口径一二七ミリ単装速射砲の最大射程は二三キロメートル。有効射程は一.五キロメートル。つまり最低でも一.五キロメートルまでは接近しないと硬い相手には効果がない。そこまで近づくと目標Fの射程圏内に入るだろうから殴り合いになる。ブレス攻撃が遠距離になればなるほど拡散して威力が落ちるのが唯一の救いだ。
ジリジリと彼我の距離が縮まっていく。戦闘指揮所は固唾を飲んでレーダーを見守っていた。
「全艦主砲攻撃始め!」
「主砲撃ち方始め!」
毎分四五発の発射速度を誇る五四口径一二七ミリ単装速射砲が次々と砲弾を撃ち出して行く。最初の二発は夾叉するが次弾は見事に命中。
「やったか!?」
「確認を急げ!」
「あー、駄目です。弾着はしましたが傷は浅そうです!」
「一体どうしろと!?」
「とにかく撃ち続けるしか無いのでは……」
「目標F発砲!」
「〈きりしま〉〈みょうこう〉〈しまかぜ〉被弾!大破!」
「なんてこった!」
これは撤退するしか無いか……。私はオスカー副官を見ると沈痛な面立ちを見せている。残念だがここまでか……。
「全艦……」
「提督!目標Fの側に人影が見えます!数は三!」
「なんだって!?」
直ぐにメインスクリーンに現地の映像が映し出される。剣を持った人物が二人に、槍を持った人物が一人だ。
「本当だ……。彼奴等何をするつもりだ!?」
人が側にいては迂闊に攻撃は出来ないので一旦全艦に攻撃中止命令を出して息を呑んで見守る。
槍をもった人物が目標Fに対して迂闊に近づくようにして槍を腹に突き刺す。あれだけ強固な皮膚を貫き血が吹き出す。砲撃が効かなかったのにあっさりと貫くとかどんな業物だよ!
残り二人の剣士は痛みに怒り狂う目標Fの攻撃を身軽に交わしながら懐に潜り込むと剣を一閃すると反対側に通り抜けていた。
その後も目標Fは暫く立っていたが突然その頭と首が離れて巨大な頭が落下し肩から腹にかけて切り裂かれ大量の血液が噴出して自らの血の池に倒れ込んだ……。
我々は呆けたようにその様子をただ見ていた……。
「あれは、人間なのかな?」と私が呟くとオスカー副官が再起動したようで私に答えてくれた。
「提督、あれが勇者ですよ」
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