第八話 金曜と言ったらカレーでしょう!
アールヴ森林には一ヶ月はいただろうか。長い間お世話になったが、そろそろ旅立ちだ。陛下には既に辞去は済ませてある。支度も出来たので本日出発だ。
本日の軍装はワーキング・ユニフォーム。つまり迷彩柄の作業服だ。今着ているのはタイプIIIと呼ばれる緑系のデジタル迷彩なので森の雰囲気によく合うし森の中をハイキングするのに服装は動きやすくて汚れても良いものにした。
迎賓館の係員にお礼を言って引き払い宮殿方面に歩いていく。ここも何回も通い慣れた道となったな。元々一般人の私が異世界とは言え宮殿に通い慣れるとは思って見なかったことだが色々と経験できて良かったと思う。
宮殿を通り過ぎようとしたら二階のバルコニーに人影が見える。陛下が見送りに立ってくださったようだ。一旦立ち止まって敬礼をして最後のお別れをする。
陛下はにこやかに手を振って返してくださった。これで本当にお別れである。街の中心を外れて森の中の
アールヴ森林は南北に長い卵形で、私達が居た首都レチェブエシは南にあるので真っ直ぐ北に向かうと森林を踏破する距離が長い。なので一旦西に向かって歩いて最短で森を抜けてフランチェスカ王国のアリオンに艦隊集結してから北上することにする。
ピクニック日和な陽気の中、一〇キロメートルぐらいは歩いただろうか?途中に休憩したりしたが歩いたのは三時間程度になる。前方に霧が漂っているのが見える。そろそろアールヴ結界に突入だ。
相変わらずの濃い霧を艦のコンパスと手持ちのコンパス頼りに西に進む。亜空間内の駆逐艦が先導しているので迷うはずもない。そんなわけで昼前にはアールヴ森林を抜けることが出来た。
森を抜けるとそこは広い丘陵地帯で緩やかな丘が連なっていて平地と言っても差し支えないだろう。所々に林が見えるぐらいで後は草原だ。
ここからは亜空間から駆逐艦を呼び出す。呼び出したのは第一艦隊。第一艦隊は第一戦隊四隻と第二戦隊四隻の合計八隻で編成されている艦隊だ。
第一艦隊、第一戦隊には〈こんごう〉〈きりしま〉〈あきづき〉〈あさひ〉の四隻。第二戦隊には〈みょうこう〉〈ちょうかい〉〈てるづき〉〈しらぬい〉の四隻が所属している。旗艦は〈こんごう〉だ。
艦隊の編成は第二艦隊までが海上自衛隊の艦船で編成しており、第三艦隊以降は米国海軍の艦船で編成されている。艦隊は一二艦隊まで有り、戦隊数は全部で二四だ。
そして随伴艦隊は第二艦隊。第二艦隊の編成は第三戦隊〈あたご〉〈あしがら〉〈すずつき〉〈しまかぜ〉。第四戦隊〈まや〉〈はぐろ〉〈ふゆづき〉〈たかなみ〉となっている。
〈こんごう〉から舷側に備え付けられているタラップが降ろされる。タラップを登っていくとオスカーを筆頭に船乗り猫達が整列して出迎えてくれる。
サイドパイプが鳴り響くとともに「司令官乗艦!」の合図で敬礼だ。私も答礼して〈こんごうに〉乗艦する。実に一ヶ月ぶりの艦の上だ。陸の上より艦上の方が安心するのは末期症状かもしれないな。
早速、側近を引き連れて
戦闘指揮所に入ると中は薄暗く、目が慣れるまで暫く時間がかかる。大きさ的には学校の教室ぐらいの大きさだろうか?戦闘指揮所の前面には幾つものスクリーンが横一列に並び、作戦地域の地図に映される艦隊現在地や各艦のリアルタイムのテレメトリーモニタ。索敵状況を映し出した地図など多岐に渡る。
モニターの前には各種指揮卓が並びそこにもモニターが並ぶのでモニターだらけだ。
「状況は?」とオスカー副官に問う。
「現在、作戦指令に従って艦隊は予定通りに展開中。全艦隊の所定の配置には一七〇〇に完了予定です」
「うむ、ごくろう。まだ時間はあるな。そろそろ昼時だから飯でも食うか」
「では、食堂に案内します」
オスカー副官の後について幹部を引き連れて士官食堂に向かう。士官食堂は全体的に白基調で纏められていて高級感がある。テーブルにはテーブルクロスまで敷いてある。床は赤のカーペットだ。
席につくと士官食堂担当がサーブしてくれる。至り尽くせりとはこの事だ。科員食堂ではセルフサービスなので段違いである。そして皿も違う。科員食堂では鉄板と言われるワンプレートの仕切り付きの皿に料理を盛り付けられるのが常だが、士官食堂では個別の皿に料理が盛られて出されると差別化されている。
どうやら料理が来たようだ。これは海自伝統のカレーではないか。ビーフカレー、コロッケ、目玉焼き、サラダ、フルーツに食後のデザートと豪華である。
「おぅ、カレーだよ!」
「本日は金曜日ですからね」
「あー、そう言えばアールヴ森林は毎日がゆったりしていて曜日感覚なくなっていたな……」
「提督、冷めないうちにどうぞ」
「すまんな。いただきます」
手を合わせて全てに感謝した後、早速スプーンでカレーを掬って食べる。ほぅ、サラサラ系カレーだ。辛さは万人向けの中辛と言ったところか。
「美味しい、これは美味しいぞ」
考えてみたら何ヶ月かぶりのカレーだよ。なんか涙が出そうになるのは日本人の性なんだろうか?
こう言った何気ない時間が私には必要なんだ。
オスカーが何やら給仕係と話している。
「オスカー副長。私がカレーが好きだからと言って毎日は駄目だからな」
「なっ、何のことでしょか、てっ提督」
思いっきり狼狽えて噛んでいるではないか……。察しが良いのも程々にな。
昼飯を食べた後は、そのまま士官食堂で幹部連中と最終確認を兼ねたブリーフィング。作戦開始までのチェックはまだまだ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます