第二話 マリーズ湖攻勢
勇者トリオが森林破壊を絶賛量産している間にヴィスプッチ軍、エンゲルシュ軍で構成するブラボー軍艦隊は特に障害もなく海を渡りプリプレジュから上陸部隊を送り込んだ。
魔族による抵抗もなく上陸できたのは魔族が海で活動しない種族であり、活動領域が内陸側に寄っていたためである。魔物に関しては、その限りではなく撃破する必要があったが精鋭部隊とっては問題となる要素は特になかった。
現在は軍事物資を荷揚げ中であり補給拠点の構築が終了した後に侵攻予定である。
「急げ、急げ!」
「時間通りに進めるぞ!」
「この荷物はどっちだ?」
「担当者の方、検品と受取の署名をお願いします!」
「馬が足りない?人力で運べ!」
現場は
「今のところ順調のようだ」
「はい、このまま行けば予定通りに出発できるでしょう」
デビッド・バウアー司令官とアーサー・キャリバー副司令官は丘の上で部隊の様子を視察しながら話し合っていた。
「では、予定通りに明日の朝に出発だな」
「全軍に交代で休息を取るように通達しておきます」
翌朝、ブラボー軍はマリーズ湖に向けて進軍を開始した。そして十日目の夕方には行軍を終えて作戦区域へと辿り着いた。
「なんとか辿り着いたな」
「全軍が揃うにはもう少しかかりますが合格点と言えましょう」
足の遅い輜重部隊などは最前線にいる必要はないので戦闘部隊だけが先行して野営の準備をしている。その次に工作部隊が到着すれば陣地の構築が始まるだろう。
「アルファ軍に我々が定位置に着いたと報告してくれ」
「はい、アルファ軍に我軍が定位置についたと報告します」
司令官の従卒は命令を受けて直ちに魔導具を使って伝令を飛ばした。
…………
一方、アルファ軍の陣営も魔森を抜けて野営の準備をしていた。そこに鳥の隼のような物が飛んできて司令部の天幕へと舞い降りた。隼から書類が飛び出したのを従卒が受け取りエリック・ルーデンドルフ陸軍大将に手渡された。
「如何なされました?」
マックス・ホーガン参謀総長がルーデンドルフ陸軍大将に尋ねた。ルーデンドルフは無言で書類を渡してホーガンが読み終わるのを待った。
「間に合ったようですね」
「ああ、今の所計画通りだ。ブラボーとも足並みが揃いそうだ」
「現在、偵察隊を派遣していますが偵察の結果次第ですか」
「そうだ、勇者殿にも今の件を伝達頼む」
「わかりました」
勇者トリオが野営してる天幕に伝令が来て伝言を伝える。
「了解した。ご苦労」
勇者トリオが伝令を労うと伝令は直ぐに立ち去った。
「いよいよっすね!」
「今回もなんとかなるっしょ!」
「ウェーイ!」
お気楽である。でも本当は色々と考えていると思いたい……。
偵察部隊による情報収集によって敵勢力の規模や陣地の様子が判明したので早速、主要幹部を集めての軍議をした後、進軍が開始された。
アルファ軍は一〇万の兵士。ブラボー軍は一五万の兵士が作戦に参加しているが、当然、後方も含めた数字なので純粋な戦闘職はもっと少ないが大軍勢である。
敵の陣地に向けて進軍するが、会戦となると場所を選ぶ。攻撃側は攻撃しやすい場所。守る側は邀撃しやすい場所だ。今回の場所は湖水地方だけあって高低差も多く、なるべく丘の上に陣地を築きたいところ。
敵であるルシアーナ魔帝国軍も戦うのに有利な場所に陣地を築いて兵を置いた。その数は二二万ほど。ルシアーナ軍旗である赤地に黄色の五芒星が数多くはためいている。軍勢の陣容を相手に見せつけて威圧しようとしてるかのようだ。どちらも相手の様子がわかるという状況は現代戦を知るものならば長閑な景色に見えることだろう。
そして両軍が相対して睨み合いになった時点で敵陣営から一人の魔族が出てきて最前列に立った。
「我こそはルシアーナ魔帝国の四天王が一人。アリータン軍団長であるぞ!貴様ら人族が我らの皇帝陛下に歯向かうなど言語道断!一人残らず捻り潰してくれようぞ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
魔族の歓声が湖水地方に鳴り響く。
「うごぉ……」
高笑いを続けるアリータン軍団長の胸から唐突に槍のようなものが現れた。よく見ると地面から突き出た一本槍が、まるでバターを突き刺すように背中側から胸側に突き刺されているではないか。
「どっ、どうなっている……。ぐはっ!」
吐血したアリータン軍団長は槍があるために崩れることも出来ずに立ち続けた。そこに一迅の影が飛び込んできたかと思うとアリータン軍団長の頭は胴体と別れて地面にドサリと落ちた。血飛沫が噴水の如く飛び散る軍団長を見れば流石に異常事態に気が付き驚愕した魔族達が「ぐっ、軍団長!」と声を出そうとした時には突然巻き起こった暴風によって後方に吹き飛ばされてタンブルウィードの如く転がっていく。飛ばされた衝撃だけでも負傷者多数に付き魔族達は恐慌状態に陥った。
さて、その時の勇者トリオの動きを追って紹介しよう。
忍者である笈川涼は先行して敵陣に向かって土遁の術によって土の中を泳ぐように敵将に忍び寄った。敵将の背後に忍び寄ると槍で一突き。そこに斗有慎平が僅か一歩で風の如く敵陣に飛び込んで正確に一太刀で敵将の首を斬り飛ばした。後方に控える力丸依千也が気合とともに一振りで突風を巻起こして敵を吹き飛ばしたのだ。
恐慌を起こした魔族軍にアルファ軍が追撃を仕掛ける。アルファ軍の圧力に屈した魔族軍は敗走を始めたが、それをブラボー軍は許さず魔族軍の横腹に吶喊して蹴散らす。あとはアルファ軍とブラボー軍が協力して残敵を掃討してマリーズ湖攻勢は人族側の勝利に終わった。二二万いた魔族軍は実に二〇万が戦死または戦闘不能に陥り大幅な戦力を失う。一方の人族側は一万六千ほどの死傷者で終わる歴史的な大勝利となった。
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