第三話 リーディー会戦

 ルシアーナ魔帝国、帝都ピエタリにある魔帝執務室。執務室の主。即ち魔王及びルシアーナ魔帝は何時ものように報告書や決済書類を静かに読んでいた。


 書類をめくる音だけが響く執務室の静寂を破る来訪者が現れた。


「陛下、火急の知らせがあります。こちらをご覧ください」

 軍務省大臣は入室するや訪問理由を述べ書類を渡してきた。魔王は書類を受け取ると直ぐに読み始めた。


 魔王は読み終わった書類を机上に投げると大臣に向き直った。


「アリータンの奴はしくじったか……」

「はい、アリータンのやつは四天王だと自称しておりましたが遅滞戦闘すら満足に出来ぬとは不甲斐ないやつでしたな」


 アリータンは自身のことを四天王と自称していたが、実際は東方軍麾下の守備軍団の一軍団長でしかなく、近衛軍、東方軍管区、南方軍管区の司令官をあわせて三将軍と言う言い回しはあるが、四天王と言うのはアリータンの全くの自称である。


「もともとアリータンは勇者の力量を見極めるための砂袋にしか過ぎない男だ。我が帝国に下品な男は必要あるまい。なぁ、軍務省大臣?」


「はっ、陛下のみ心のままに!」


「さて、今後の策だが、勇者が出てくるならば余も出陣しよう」

「陛下もですか? 僭越ながら我らが三将軍にお任せくだされば十分かと……」

「多分、三将軍では止まらないと余は予想している」

「それほどですか、わかりました指示を出しておきます」

「うむ。それでは三日後に出撃するぞ」

「御意」


 軍務省大臣は足早に退出していった。それを見送った魔王は窓辺に近寄ると窓外の景色を暫く眺めていたのだった。



…………



 勇者と愉快な仲間達は、後続の部隊の到着を待って補給と部隊の再編を終えると進撃を再開してマリーズからオプワまで侵攻して陣を構えた。


 連合軍の本陣天幕に各国軍の代表と勇者トリオが集まって軍議が開かれた。


「ここを抜けると敵首都まで一直線ですね」

「偵察によると敵はグネスに陣を構えているようです」

「となるとリーディー辺りで衝突するな」

「そうですな。その辺りが軍を機動させるのにも都合が良いと思われます」


 リーディーには南北に流れる川があり渡河する必要があるが川幅も狭く深くは無いので障害とは成り難いが戦術目標にはなりやすかったのだ。


「偵察部隊からの報告では敵の軍旗に赤地に黄色の五芒星と二つ大鎌があったそうです」

「それって、魔王旗じゃないか!」

「魔王が親征しているか!」

「敵も本気だな……」


 勇者トリオを除いた全員が勇者トリオの方へ視線を動かす。視線に気がついた勇者トリオも自分たちを見合うが流石に視線の意図に気がついた。


「魔王は俺達の担当だな」

「そのために呼ばれたようなもんだしな」

「ウェーイ!」

 勇者トリオは何時ものように名調子である。


「勇者殿かたじけない」

「我々も全力で支援致す心得であります」

「露払いは我らが努めましょう」

 などなどと軍議は前向きに進行して終了した。


 翌朝、兵士達は日が昇る前から起き出して準備を始める。朝食を食べた後、直ぐに激しい運動をすれば腹が痛くなって動けなくなる。早めに食べてエネルギーが身体に行き渡ってから行動する為の早起きである。


 そして足並みが揃ったところで本陣から出撃し、本日の想定戦場へと向かうのだ。


 両軍が睨み合える位置で位置で進軍は止まり陣形を整える。そして戦場に攻撃開始のラッパの合図とともに両軍とも攻撃を開始する。


 後にリーディー会戦と言われる大規模戦闘が始まったのだ。


 両陣営とも遠距離魔法攻撃による砲撃戦が始まる。戦場は爆風が吹き荒れる死地となるが、今はまだ両者の距離も遠いために魔法の威力も減衰して両陣営とも深刻な負傷者はいない。魔法を防ぐ盾で魔法攻撃を避けながら前衛部隊は突撃を開始する。


 人族側の人族側の陣形は斜線陣や梯形陣と呼ばれる横一列の集団が左側に主力をおいて右側に行くにしたがって斜めに下がっていく陣形である。


 そして攻撃主力は騎兵である。騎兵が突撃して敵陣形を喰い破ろうと猛攻する。しかし魔王陣営も黙ってはいない。梯形陣を利用して右側から敵の側面を突こうと猛攻を開始した。


 攻撃主力は左翼にいるために右翼は防戦に徹しているように見えたが、後衛部隊が直ぐにフォローに入り敵左翼に対して魔法攻撃を開始して支援。敵の攻撃の出鼻を挫く。


 このまま人族側の押しムードに見えたその時……。魔族が反攻に出た。


 敵の三将軍が動いたのだ。

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