第四話 三将軍対三将軍

 こちらは人族側陣営。前衛からの伝令が本陣に到着して報告を上げる。


「申し上げます。敵、近衛軍、東方軍、南方軍の各司令官旗が前線に移動しています!」


 その報告を聞いた司令部は大いに驚いた。

「なんと、三将軍が動いただと!?」

「敵も、本気のようですな。ここで止めるつもりのようだ」

「ならばこちらも対抗するしかあるまい!」

「相手にとって不足はなし!」

「皆の衆!ここらで肩慣らしと行こうではないか!」

「おぅ!!」


 立ち上がったのはヴェスプッチ連合王国陸軍大将 オマール・シュリンプ。エンゲルッシュ陸軍大将 バーナード・スター。そしてドイツェット陸軍大将 エリック・ルーデンドルフの三将であった。


 目には目を三将軍には三将軍を当てるしか無いという至極単純な対策であるが、この場ではこれしか正解は無いだろう。ここに居並ぶ三将軍は師団級を超えると言われる勇者には劣るが、その戦力は一人でも連隊級と言われている猛者達である。


 連合軍前衛が陣形を変更すると本隊が中央から槍のごとく戦場中央に向かって突出する。


 相対する三将軍対三将軍。


 魔族側が一歩前に出ると口上を張り上げる。


「我こそは南方軍管区司令官を拝命しているイーゴリ・オシロノフ大将であるぞ」

「俺様は東方軍管区司令官であるキリル・メレンコップ大将だ」

「近衛軍司令官パーヴェル・アルテチョフ大将だ、推して参る」


 口上を述べると三人の魔族から赤黒いオーラが立ち上り周囲を威圧している。自称四天王とは大違いだ。そもそも自ら三将軍だとかブランディングしたりはしない。


 対する人族も負けてはいない。


「俺がドイツェット陸軍大将エリック・ルーデンドルフだっ!」

「我がエンゲルッシュ陸軍大将を務めるバーナード・スター!」

「西の大陸より馳せ参じたヴェスプッチ連合王国陸軍大将オマール・シュリンプである!」


 さぁ、さぁ、いざ、尋常に勝負しろ! てなわけで、すぐに戦端の幕が切って落とされる。


 互いに大剣を振り回せば衝撃波を伴った斬撃が戦場を飛び交い、幾つかは通消滅はしたが、反発した衝撃波は加速されて爆風となって周辺を吹き荒れる。周囲にいた兵士は敵も味方も吹き飛ばされる。


 互いにメイスを振り回せば地面は掘り返されて破砕された岩石が戦場を飛び交う様子はクレイモア地雷がナイアガラ花火のような大瀑布となって両軍の上に降りかかる。


 互いに戦斧を振り回せば進路上にある大木は切り倒され粉砕され、暫くは野営も困らないのではと思われる程の木質ペレットが大量に積み上がっていく。


「退避ーー!!」

「後退せよっ!!」

「薪は拾っていけー!!」


 両陣営とも巻き込まれては大変と全力で後退する。一時は混乱した前線も今は落ち着いており、両陣営とも勝負の行方を固唾を呑んで見守っていた。


「人族にしては、なかなかやるな!」

「魔族に遅れを取るような鍛え方などしておらんわ!」

「わーははははは!愉快愉快!」

「面倒な奴らだ!いい加減にくたばれ!」

「貴様らのナマクラにやられるような我等ではないぞ!」

「なんだと、おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 剣を切り結ぶ度に地面が揺れる。岩が吹き飛ぶ。大地は割れる。三将軍同士の戦いに一般の兵士では割って入るわけにも行かず、順番に休憩に入る始末である。


 絶え間なく続いた轟音もいつの間にか止み。土煙で視界が悪くなっていた戦場もやがて霞が晴れると膠着状態に陥った三将軍達が睨み合いを続ける状態が浮かび上がる。


 双方とも攻めあぐねて打開策を探り合っているその時に「山」が動いた……。


 戦場中心を突如覆った巨大な影。うっすら暗くなった状況に気がついた三将軍達は急いでその場を退避する。


 退避した直後に巨大な物体が戦場に落下して砕け散る。誰かが文字通りに「山」を落としたのだ!


「山が降ってきただと……!?」

「そんな馬鹿な!」

「誰だよ!こんなふざけたことしたやつは!」


 土煙が収まると土石流あとのような場所には人影が見える。人影を見た魔族陣営が騒ぎ立てる。


「陛下!」

「陛下が!」

「これで勝てる!」


 その騒ぎを聞きつけた連合軍の三将軍。

「あれが魔王か?」

「噂に高い魔王か、この場所にいても震えが来るぞ」

「ああ、あれはヤバイやつだ」


 人族にとっての災厄が文字通り降臨したのであった。

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