第五話 勇者対魔王 その一

(作者注)この作品はフィクションです。実在の流派とは一切関係ありません。作中の業などは架空のものです。



…………



 突如、文字通り空から降ってきた山から現れたのは魔族の王。つまり魔王その人であった。


 魔王の容姿は一見すると細身のダンディであるが筋肉は相応についており、細マッチョていう奴であろう。仕立ての良さそうな漆黒のスーツに外套を羽織り、手には指ぬきの黒革手袋。靴はエナメルの革靴とある意味、元世界の日本なら一部女子にウケそうな容姿だ。


「少し派手にやりすぎたか? まぁ、よい。余が魔王及びルシアーナ魔帝である」


 静かな語り口調だが拡声器もなく戦場に響き渡る自己紹介とともに強烈な魔力と闘気がプロミネンスの噴流の如く溢れ出し、闘気に耐えられなかったものは無意識に後退してしまう。


 そんななか、戦場を駆け抜ける一陣の風 ――烈風斬―― が魔王に直撃する。音速を超えた剣先は周囲に衝撃波を撒き散らす。三将軍も踏み止まれずによろめくほどだ。


「神道無念流。斗有慎平とありしんぺい見参!」


 そこへ、新たなる斬撃が魔王に立ち向かう。 ――断空斬―― 空も断ち切ると言われる奥義が魔王が立つ小山を小山を真っ二つに断ち割る。


「示現流。力丸依千也りきまるいちなり参上!」


 なにも予兆もなしに空間から現れたかのように魔王に向かって突き出される長大な光の槍。 ――閃光槍―― 光圧で衝撃波が巻き起こるほどの威力が魔王を穿つ。


「甲賀流。笈川涼おいかわりょう推参!」


 派手に爆煙が上がり、爆煙の中から薄っすらと三人分の人影が現れると口上を言い放つ。


「「「三人揃ってトリオでーす!」」」


 勇者トリオがついに魔王と対峙したのであった……。


 さて今起きた出来事に少し説明を加えると、まるで特撮ヒーローが出てくるような爆煙はトリオの演出ではない。


 トリオが放った遠距離からの攻撃は直線的であるために魔王によって全て受け流されたのだ。


 受け流された攻撃はまるで反射したかのようにトリオに返されて着弾したことにより爆煙が巻き起こったのである。しかし魔王も勇者の攻撃を真正面から受けるわけにも行かず、僅か一歩だけだが避けたのであった。三度の攻撃で三歩の移動となったのである。


「余としたことが、三歩も動かされるとはな。やはり勇者には本気で当たらないとならないようだな……。 ――着装――!」


 魔王が胸にある漆黒の魔石に手を触れて叫ぶと、魔石から黒い本流が迸り、魔王を包んでいく。そのプロセスは僅か〇.〇五秒で完了して漆黒の霧が晴れると漆黒の全身鎧を装着した魔王が現れた。


「この暗黒竜王柔鎧ダークドラゴンロードソフトシェルにて相手しようぞ!」


 それを見た勇者トリオは驚いた。


「まじかー! あれニチアサか?」

「あー、なんとか戦隊とかライダーとか言うやつ?」

「ウェーイ!」


 魔王の姿は特撮で出てくる悪役のような姿であり、竜の意匠を施したスーツのような見た目だった。目元は怪しく赤く光り、鎧のつなぎ目のようなところには赤いラインが入り光っていてサイバーな雰囲気だ。


「なんかオレたちしょぼくない?」

「あれは反則だよなー!」

「チートだ!チートだ!」


 勇者トリオは鎧をつけても革鎧程度で重い金属鎧は装着していない。現代っ子なので衣装もサバゲーとかを参考にしたOD色だ。元々剣術に金ピカ全身金属鎧では目立つし動きが制限されるからと断ったのである。


「気を取り直して行くか?」

「何時でも行けるぜ!」

「ウェーイ!」


 斗有慎平が一歩を踏み出す。 ――戦速―― ほぼ地面に転倒するかのような極端な前傾姿勢によって踏み出される一歩は音速を超える。その最大戦速は光速に迫るとも言われている。


 向かい撃つ魔王は斜に構え格闘で受ける様子。


 次の瞬間には慎平が魔王に肉薄し剣の間合いに入ると一閃する。 ――閃突―― 抜刀した剣を魔王に突き入れる。魔王は右手で軽く受け流し刺突を避ける。魔王は受け流した右手で追撃をかけるが、斗有慎平はそれも予想の範囲で左手で拳を受け流し流れるように剣を右手のみで上段から斬りつける。


 魔王は咄嗟に後退するが微かに右手の手甲に傷が入る。


「余に傷をつけるか! 勇者め!!」


 後退した魔王の死角から力丸依千也が一気に間合いに入ると振りかぶった剣を振り下ろす。


「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


魔王も手甲で受け流すが力丸依千也が放つ ――千連撃―― は一秒の間に千回斬りつけると言われる奥義の一つである。


 魔王も綺麗に受け流すが一撃一撃が必殺の打ち込みである示現流。魔王も無傷とはいかなかった。


「うぉぉっ!」


 魔王の手甲が削れてぼろぼろになる。が、蹴りを力丸依千也に叩き込んで魔王は後退する。


 すると魔王の真下から笈川涼によって槍が突き出される! ――土遁潜望鏡―― 甲賀流において、安堵して座ったところを股間から心臓まで串刺しするという暗殺術。


 魔王は気配を察知すると同時に飛び上がりバク転して矛先を躱す。


「最後のやつは嫌らしいやつだな……」

「褒められた!? ウェーイ!!」

「「「褒めてない!!!」」」


 何故か突っ込みが揃う勇者二人と魔王であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る