第七話 勇者対魔王 その三

 最終形態へと変化した魔王の姿は本来の姿からは二倍の全高。つまり勇者トリオの二倍の身長だ。漆黒の竜装鎧を纏った姿はまさに魔神竜とも言うべき姿に変貌していた。溢れ出る魔力から、その内包している魔力は尋常ではない莫大な魔力が生み出されていることも想像できる。


 勇者トリオは戦慄した。痺れるほどのカッコよさに戦慄した! そっちかよ!? というツッコミは一切受け付けないトリオであった。


「ところでさ、オレたち本気の実戦なんてやったことなかったよな」

「当たり前だろ。死人が出るし」

「そうそう」

「だからさ、今回は本気の本気で殺らないとヤバイ感じ?」

「もしかして奥義とか出しちゃう?」

「それな!」


 勇者トリオは、揃って気を練り上げ始めると身体から金色のオーラが迸る。


「ふはは、いいぞ勇者たちよ。それでは余も剣にて相手をするか。いでよ! 暗黒竜王牙剣!」


 漆黒の魔石から引き出されたのは、こちらも漆黒の刃を持つ一振りの剣。刀身からは禍々しいドス黒い気が溢れていて、見るからにヤバそうだ。


「――暗黒竜王咆哮ダークドラゴンロードハウリングガン――」


 刀身がハバキの辺りから切先に向かって光りだす。そして強く光った瞬間に光の矢となって勇者トリオに向かって打ち出される。


 咄嗟に勇者トリオは左右に移動して間一髪で避けた! 後方に着弾した光は爆発して、そこにある生きとし生けるもの全てを吹き飛ばしてキノコ雲が立ち昇る。


「ま、マジでヤバイぞ……」

「ここに来て飛び道具か……」

「チートだ!」


 流石の勇者トリオも肝が冷えた事で、いよいよ覚悟が決まったが、次から次へと打ち出される魔王の砲撃によって、なかなか攻撃に移ることが出来ない。防戦一方とはこのことだ。


「勇者たちよ、手も足も出ないか。もう少し歯応えがあるかと思ったが残念なことよのう。次で終わりとしようか」


 魔王は全身に魔力を漲らせ溢れた魔力が迸る。鎧から紅炎こうえんが吹き上がり、見ているだけなら、まさに光の芸術でもあり、当事者でなければ楽しみたい情景である。


 紅炎に照らされている勇者たちは、まさにこの危機をひっくり返す方策を知恵を振り絞って考えていた。


「しんちゃん、もうアレしか無いよな」

「いっちーのアレか」

「アレかー!」

「じゃ、そういう事で。オレとりょうちんで隙きを作るから後は頼む!」

「いっちー任せたよ!」

「ああ、お前たちもな!」


 慎平が前に出ると同時に涼も姿が搔き消える。慎平は光速で魔王の砲撃を避けながら懐に飛び込むと一太刀を浴びせる。 ――陽炎―― 太刀筋は陽炎のように揺らめき一瞬では判断が付かず躊躇いがでる。その隙間に太刀を振り下ろす慎平。しかし魔王の剣に受け流されて切先はあらぬ方向に流される。


 魔王が慎平に対して追撃を加えようとした瞬間。背後からぬらりと現れた涼が槍を背中へと突き刺そうとするが、魔王の追撃の剣は目標を変えて流れるように背後の槍を受け流す。


 そこに慎平が受け流された剣を戻して胴を狙いに行く。魔王は更に半回転すると剣を下から上へとすくい上げるようにして慎平の剣を受け流す。


「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!」


 依千也が蜻蛉から渾身の一撃 ――一の太刀を疑わず―― を振り下ろす。


 魔王は受け流すタイミングを逃したので剣で受ける。剣と剣が激しくぶつかり合い火花が飛び散り衝撃波が発生して周囲のものを吹き飛ばす。魔王の剣から魔王を包む球状の障壁が勇者の魔力と魔王の魔力が干渉して発生しているのが見える。


「バリアか!」

「そうだ結界だ!」


 ここはもはや力比べだ。そのまま押し切ろうとする依千也に対して大魔力で押し返そうとする魔王。慎平と涼も加勢して魔王の剣に対して打撃を加える。


「よし、セーフティーロック解除! ブーストだ!」


 勇者トリオは各々の武器のセーフティーを外して魔力を全力で剣に流し込み魔王の魔力を断ち切ろうとする。


「後ひと押しだ!」

「まだまだ!」

「ウェーイ!」

「モア・パワー!」

「モア・パワー!!」

「モア・パワー!!!」


 勇者の願いが届いたのか、その時はるか上空から謎の物体が飛び込んできて魔王に激突した!

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