第四話 ネプトゥヌス作戦開始
時は少し遡って連合艦隊が出港する前に最後の全体作戦会議がプライマウスにあるエンゲルッシュ、プライマウス海軍基地司令部大会議室に於いて開催された。
会議室にはホストであるエンゲルッシュ海軍より連合軍副司令官であるアーサー・キャリバー海軍元帥。海軍総司令官を務めるバートルミー・ラムズデン海軍大将。陸軍総司令官を務めるバーナード・スター陸軍大将。ヴェスプッチ連合王国から本作戦の連合軍最高司令官であるデビット・バウアー海軍元帥。オマール・シュリンプ陸軍大将の五名が一堂に介している。
「それではネプトゥヌス作戦の最終確認を始める」とバウアー連合軍総司令官が先ずは発声する。
「まず、陣容の確認から」キャリバー連合軍副司令官が発言を続ける。
「海軍戦力は軍艦は一三〇隻、上陸用舟艇は四〇〇〇隻です。陸上戦力はエンゲルッシュ陸軍とフランチェスカ等エウロパ諸国合わせて二六師団にヴェスプッチ陸軍から二一師団です」
「それにしても良く間に合いましたな」とスター陸軍大将。
「天佑は我らにありだ」とラムズデン海軍大将。
「まぁ、相当無茶したけれどね」とはシュリンプ陸軍大将。
「続けてよろしいかな?」
咳払いしつつ会議を進めようとする副司令官。
「続け給え」と総司令官が続きを
「海軍にて上陸を支援しつつ陸軍は上陸用舟艇に分乗してノルマンドに上陸します。主力の重装騎兵による突撃によって海岸線を確保。魔導師団がこれを支援。重装歩兵によって押し返します。陣地を確保したところで軽装歩兵や軽装騎兵や工兵を投入して陣地を構築します」
「上陸する海岸は五つの管区に分けてあり『アルパ』の担当はヴェスプッチ軍第四師団。『ベータ』は第一師団。『ガンマ』はエンゲルッシュ軍第五〇師団。『デルタ』はフランチェスカ軍第三師団。『エー』はその他の諸国連合軍になります」
副司令官の全体説明が終わったところで最後に細々としたタイムテーブルを各々が確認したところで本日の確認は全て終了した。
「では、本会議終了と共にネプトゥヌス作戦を発令する!以上解散!」
総員起立すると敬礼して去っていく。
バウアー連合軍最高司令官とキャリバー連合軍副司令官は彼らを見送ると従卒を呼んで飲み物を準備させた。
二人で珈琲を飲みながらしばし雑談する。
「さて、賽は投げられた。後は実行するのみだ」
「命令を発令した直後の今は一番贅沢な時なのかも知れませんね」
「忙しくなるのは上陸したあとになるだろう。上陸した後はパリシイまで打通する作戦が控えているからな、長丁場になるな」
一時の休息を時間が許す限り楽しむのだった。
翌朝、練兵場にて主だった兵士が集合して閲兵式が執り行われた。参加人数が多すぎて練兵場に入りきれないのと既に出港準備が進んでいるので海軍は殆ど来ていない。
「連合軍最高司令官デビット・バウアー海軍元帥入場!」
バウアー最高司令官は参謀たちを引き連れて入場すると閲兵台に立つ。
「傾注!」
バウアー最高司令官は総員の注目が集まるのを見て話し始める。
「諸君、デビット・バウアーだ。今回の作戦は魔物共からエウロパの大地を取り戻す第一歩となる重要な作戦だ。本作戦が成功することが今後の作戦の成否を占う重要な鍵である。一人一人の行動が成否を決すると言っても過言ではない」
誰一人鎧の音を立てることなく傾聴している。
「中には我々が戦いを望まないとか、戦いを避けているとか噂されているかも知れないが、諸君らも知っている通りに、このネプトゥヌス作戦のために全力で取り組んでいたのだ。我々は闘争を愛している。全ての人族は戦いの痛みやぶつかり合いを愛している。そうクソ汚い魔族を一掃するために我々は全てを薙ぎ払うために今ここに集っている」
兵士たちは口には出さないが「そうだそうだ」と頷いている。
「この中には家族や友人が今も大陸に残しているものも居るであろうが我々は決して見捨てない。そして我々は決して諦めない!決して降伏はしない!我々の手にエウロパを取り戻そう!エウロパは我々の物だ、魔物の物ではない!」
それに答えて兵士たちは槍の石突で地面を叩く。
「我々が諸君に対して困難な要求を行っていると不満に思っている者も居るのは私も承知している。私はこうした不満に文句をつけるつもりはない。私達が流す僅か数滴の汗が多くの血を救うと信じているからだ。そしてその努力がより多くの魔族共を殺し、より多くの奴らから出血をさせ、我々の戦死者を減らすことに繋がる。我々が困難を乗り越えた暁にはその大陸全土に勝利を刻むことだろう」
練兵場の興奮度合いはうなぎ登りだ。どの兵士も高揚している。
「忘れるな、私は何時でもここにいる。この事実を別の言葉で言い換えることも出来る。私が諸君以外を率いて地獄を作り出して魔族を叩き込む事を予定していない。さあ、今こそ最低最悪のクソ魔族共を探すために馬鹿をやらかしに行こう。奴らに我々に対する恐怖を植え付ける旅に出よう!」
練兵場内は暫く槍の石突が地面を叩く音が鳴り止まない。
「では諸君らも私の気持ちは分かったであろう。魔物共を蹴散らして我々人族の底力を奴らに見せつけるためにも総員奮起してもらいたい。そして諸君のような素晴らしい男たちを率いて戦えたことを誇りに思うことだろう。以上」
兵士たちは熱狂的に勝鬨をあげて練兵場は歓声の渦に包まれる。最早誰も作戦の勝利を疑ってはいなかった。後は実行して証明するのみだ。
閲兵式が終わり兵士たちは港へと行進を始める。そして予め決められた軍艦に次々と乗り込んでいく。乗り込みが完了した軍艦から舫い綱を解き離岸していく。再集結は湾を出た海上だ。最後の兵士が乗船するのを見届けて連合軍最高司令官も連合艦隊旗艦に乗船する。連合艦隊旗艦は三本マストの大型帆船だ。両舷には大型の対艦用弩弓が設置されている戦列艦と呼ばれる艦種だ。
船尾楼に上がると艦長たちの出迎えを受ける。
「艦長、出港してくれ」
「出港用意!」
出港ラッパが鳴り響く。
「舫い離せー」
「左舷魔導推進機噴射開始」
魔導推進機は現代船のサイドスラスターのようなものだ。魔力と魔石を消費するので普段の航行には使っていない。推進補助的には使えるが風力と比べると効率が悪い。
艦はゆっくりと離岸していく。ある程度離れたところで帆を展開していく。
「港内最大速度を維持」
「港内最大速度を維持します」
「このまま湾を出るぞ、湾を出たところで集結ポイントに向かえ」
「了解しました!」
この日、エウロパ奪回作戦の第一段作戦であるネプトゥヌス作戦が開始された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます