05.フランチェスカ奪還作戦編

第一話 長日の作戦始めさせ給ふ

 プライマウス沖で一度集結した連合軍艦隊は再集結ポイントであるノルマンド沖へと向かう。


一部艦隊は陽動目的のための欺瞞作戦に従事してカーライスへと向かわせる。更にもう一艦隊が欺瞞作戦に従事しており連合軍は慎重に作戦を進めている。


「今の所、順調のようだな」と連合艦隊司令官であるデビッド・バウアーが双眼鏡を覗きながら独り言する。

「そうですね」と相槌を返す連合艦隊副司令官であるアーサー・キャリバーも双眼鏡を除きながらの返答だ。

 二人がいるのは船首楼にある露天甲板だ。この世界の帆船は甲板は全て露天甲板なのでどこでも日当たり良好である。

 二人は船尾楼に戻りながらも今後の打ち合わせをする。

「気象観測班からは少し天候が荒れそうだと報告が来ています」とキャリバー副司令官。

「少し作戦開始が遅れるかも知れないな」と顎に手をやり思案顔のバウアー司令官。

「小型の艦は一旦近くの港に戻ったほうが良いかも知れないな。天候への警戒を引き続き頼む」

「了解しました!」


 今までは順調であったが果たして作戦の行方はどうなることやら。


 作戦決行予定日は時化しけで海は大荒れになる。甲板作業員たちはずぶ濡れになりながらの甲板作業中だ。事前に翌日に延期と魔導師団に頼んで報せを飛ばしておいたので歩調はかろうじて合わせられている。

 気象観測班からの報告では明日には天候は回復するという話だった。連合艦隊は再集結直前で足踏みすることになったのであった。


 その日の深夜には嵐も去り海は穏やかな姿へと移り変わった。嵐の為に一旦離散していた艦隊は再集結しつつ目的地へと進みつつある。陸軍兵士には時化の海は辛かったようで艦隊へのダメージより人的戦力へのダメージが大きかったが時化を体感したおかげで船酔いに耐性がついた兵士が量産できたのは僥倖だったであろう。


 夜が明ける前の早朝にノルマンド沖に集結した連合艦隊。連合艦隊司令官デビッド・バウアーの下命により、ついにノルマンド上陸作戦が開始された。約一〇〇隻の上陸用舟艇に三〇〇〇名の重装騎兵が乗り込み五つの管区に分かれて日の出と共に上陸作戦を開始する。


 重装騎兵は浜辺に上陸用舟艇が接岸したと同時に解き放された暴力装置として一斉に飛び出していく。


「吶喊っ!!」

「突撃せよっ!!」

「蹂躙せよっ!!」


 各隊の隊長の号令とともに騎馬が立てる轟音と共に砂浜の奥にたむろしていた魔獣や魔獣科兵士をその突撃するエネルギーを持ってして重装騎兵達はまるで紙屑を蹴散らすかのように蹂躙する。


 その後に続くのは重装歩兵部隊だ重装騎兵が一点突破型なら重装歩兵は面での制圧だ。騎兵の活躍によって乱れている敵陣営をロードローラーで押し潰すように制圧していく。


 次に魔道師団が上陸して後方から魔法撃戦で支援しつつ負傷者を治療と衛生兵の役割も兼ねる。


 後詰めに軽装騎兵、軽装歩兵、工兵が投入されて海岸から五マイル内陸に入ったところに陣地を構築とここまでは計画通りに進んでいる。


 洋上にある連合艦隊旗艦に次々と報告が集まってくる。アルパ・ビーチ、ガンマ・ビーチ、デルタ・ビーチ、エー・ビーチは早くも制圧完了したとの一方が入った。


「キャリバー君、上陸作戦は成功のようだな」

「はい、事前偵察でも分かっていましたが海岸沿いには知能の低い魔獣科兵士や魔獣のみしか配置されておらず、こちらの作戦が当たりましたね」

 事前の偵察で魔族たちの尖兵であるコリアーナ魔国のハイゴブリン共は、その強欲な性欲により女を求めて蹂躙した後は興味を失って後方に下がったようである。ハイゴブリンと言われても人類からは全く見分けもつかないのでゴブリンは見つけたら叩き潰すのみである。欲望だけで動いている自称ハイゴブリンだったので初戦は人類側の作戦が当たったのである。


「司令官。ベータ・ビーチが予想以上の戦力に遭遇して押されているとの報告が入りました、このままでは押し返されてしまいます」

「ベータ・ビーチには至急予備兵力を投入してくれ」

「了解しました!」


 作戦は当たったとはいえ暫くは油断できそうもない司令部だった。ベータ・ビーチは当初の偵察と違い敵戦力が集中して進出して来ていたのが誤算の始まりだった。

 上陸した傍から敵戦力によって迎撃されてしまい、一時期は海岸と海面が真っ赤に染まったという。


 激戦区で死傷者が多数出たベータ・ビーチも予備兵力が投入されたことで安定を取り戻し海岸から内陸へと数日かけて敵戦力を押し返した事で一時は深刻な雰囲気だった司令部内も漸く明るい雰囲気になった。


 連合艦隊旗艦に座乗する連合軍最高司令官とその参謀たちは集まった情報に基づいて決断を下した。後は最高司令官が決断するのみだ。

「よし、ドミニオン作戦開始!」とデビッド・バウアー連合軍最高司令官は第二段階作戦を発令する。

 直ちに下命は各部隊に伝わりドミニオン作戦は粛々と進行していくのであった。


 まず、後続の兵員や物資を円滑に運ぶために上陸地点に仮の桟橋が多数作られた。これは桟橋にもなる艀を多数繋げたもので各地で作られた艀を曳航してきたものだ。工作部隊が突貫工事で次々と仮設桟橋を組み上げていく。


 桟橋が完成すると連合艦隊とは別に徴発された民間輸送船団による物資のピストン輸送が始まった。魔族の支配領域となっていたフランチェスカ王国内で物資を調達する事は至難の業であるので補給物資の供給確保は絶対である。補給がなければ軍は一歩も動けないのだから重要である。


 浜辺に積み上げられた物資は輜重隊によって各部隊に輸送されるために長蛇の列となった。


 そんな物資の輸送と並行して続々と兵員が追加投入されていく。ドミニオン作戦の目標は侵攻しながら各地を解放してフランチェスカ王国の首都パリシイを解放。そしてドイツェット王国まで打通した後はドイツェット王国と協調して魔族を追い返すのが今回の作戦の趣旨である。


 作戦はまだ端緒を開いたばかりである。

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