第三話 Fantasy
「艦長!水上レーダーに感あり!方位一時方向、距離五〇キロメートル!」
「今度は別口か!?」
「さらに水上レーダーに感あり!方位一一方向、距離六〇キロメートル!どちらも大型です!」
「種別が判明しました!ドラゴンです!アース・ドラゴン一、ウィンド・ドラゴン一、ファイアー・ドラゴン一の三匹です!」
「なっ、なんだって!?もう一度言ってくれ!」
私は吃驚して思わず聞き返した。
「アース・ウィンド・アンド・ファイアー・ドラゴンです!」
「……『宇宙のファンタジー』か!」私は思わず膝を叩きながら立ち上がった。
私は一人納得していると周囲からジト目で見られている気がする……。いや、今の私の外見は若い女性だけれど中身はおっさんだよ?しょうが無いよね?
「ご、ゴホン。ドラゴンの戦力は分からないし出来れば避けたいな」
「では、警戒はそのままにやり過ごす進路でよろしいですか?」とオスカー副官。
「それでよろしく頼む」
命令が伝達されると艦隊はドラゴン達を避けるように進路を取って進む。暫くしてウィンド・ドラゴンは艦隊に近接する。
ウィンド・ドラゴンは頭部から尾部まで含めた全長四八メートル。翼長五七メートルほどの大型の飛竜だ。イメージ的には往年の名爆撃機B−五二と同じぐらいの大きさの怪鳥とでも呼ぶべき巨大な竜である。
「ウィンド・ドラゴンが左舷、距離一キロメートルを通過します」見張りから報告が入る。
「提督、このままやり過ごせれば無駄な戦闘をしなくて済みますね」とオスカー副官。
「まだドラゴンは二匹残っている。油断はできん」
「艦長!ウィンド・ドラゴンが右旋回しています!このままではドラゴン達に挟撃されます!」
戦闘指揮所内が一瞬静まり返る。総員、私の方を見ている。艦長は艦の責任者で艦隊の責任者は艦隊司令官である私だ。私が命令を下さないと艦隊は動けない。敵がやってきて逃げ切れないなら戦うしか無い。ネバー・ギブアップ、ネバー・サレンダー!だ。
私は帽子を被り直して気合を入れる。
「よし、全艦砲雷撃戦用意!目標はドラゴン三匹!攻撃しつつ強行突破して包囲網を抜けるぞ!」
「アイアイ、コマンダー!」
直後、〈フレッチャー〉が轟音と共に文字通りに吹き飛ぶ。遅れて衝撃波が艦隊の中を通り抜けて艦を激しく揺さぶる。そして〈フレッチャー〉は艦体を真っ二つに折られて轟沈する。
「〈フレッチャー〉、大破!」
「何が起きている!」
「ウィンド・ドラゴンより不可視の攻撃です。属性的に風属性の魔法攻撃かと思われます!」
「なんてこった!〈フレッチャー〉の乗員は!?」
「提督、乗員は亜空間に退避するので大丈夫です。〈フレッチャー〉は轟沈ですが亜空間に戻されているので艦体も回収済みです」とオスカー副官から報告が入って安堵する。
「砲戦攻撃始め!」
「砲戦撃ち方始め!」
各艦の主砲であるMk.四五 五四口径五インチ単装砲、Mk.三八 三八口径五インチ連装砲がウィンド・ドラゴンに対して対空砲撃を開始する。近接信管により砲弾がドラゴンの近傍で爆発しても悠然と飛んでいる。
「近接爆破では効果ないか……。どんだけドラゴンの皮は丈夫なんだ?」
「徹甲弾なら貫通するかもしれませんが直撃させるのが至難です」
「よし、対空目標はミサイル攻撃に切り替えろ!」
今度は〈フォレスト・シャーマン〉と〈ありあけ〉から火炎が上がる。榴弾攻撃に遭ったかのように激しく炎上している。超高温の炎が弾薬に引火して爆発炎上して轟沈する。
「〈フォレスト・シャーマン〉と〈ありあけ〉はファイアー・ドラゴンの攻撃で大破轟沈!」
ファイアー・ドラゴンは二足歩行で歩く竜で全高五〇メートルと巨大な生物である。イメージ的にはティラノサウルスに近いだろう。ファイアー・ドラゴンから見て〈フォレスト・シャーマン〉と〈ありあけ〉が同一射線上にあったためにファイアー・ドラゴンの火炎ブレス攻撃に二隻ともまとめてやられたようだ。
「この短時間で三隻も……」
そして突如現れた畳二畳ほどの大きさの岩石が駆逐艦〈ギアリング〉に大量に降り注ぐ。巨大な質量には勝てず〈ギアリング〉も大破する。アース・ドラゴンの岩質の鱗はミサイルのように爆発的に飛ばすことが出来る。それが〈ギアリング〉に直撃した模様だ。
アース・ドラゴンは四足歩行で全長六〇メートルの陸上生物で、見た目はセンザンコウを巨大にしたようなイメージで全身が岩のような鎧で覆われている。
「〈ギアリング〉大破!航行不能!」
「〈ギアリング〉より通信!「ワレ、センセンリダツスル、ケントウヲイノル」……」
私は戦況ボードを見ながら唸る。このままでは艦隊は全滅だろう。
「オスカー。どこか逃げ込める場所はないか?」
「逃げ込める場所となると……。この先、九時方向にある森林地帯はどうでしょうか?」
「森林程度でドラゴンの猛追を防げるとは思わないが……」
「この森には魔物が寄り付かないことで有名なのです」
「うーん、なんか気になるが背に腹は代えられないな……」
考えてみても妙案が浮かばない。腹を決めるか。
「艦隊、左九〇度一斉回頭!」
「アイアイ、コマンダー!」
「〈はたかぜ〉!ミサイルをありったけ叩き込め!」
「アイアイ、コマンダー」
〈はたかぜ〉がハープーンをファイアー・ドラゴンとアース・ドラゴンへ、ウィンド・ドラゴンにはSM−一MRを撃ち込む。驚異を感じたドラゴン達ははたかぜを全力攻撃。はたかぜは健闘虚しく轟沈する。
「〈はたかぜ〉が……」
「〈あけぼの〉大破!」
駆逐艦〈あけぼの〉も先程のドラゴン達の全力攻撃の余波を受けて大破航行不能になる。残る艦は〈あまつかぜ〉と旗艦の〈スプルーアンス〉のみとなる。
先行する〈あまつかぜ〉が速度を落として〈スプルーアンス〉の後ろに下がろうとする。
「〈あまつかぜ〉は何をする気だ!」
「提督、〈あまつかぜ〉より通信です」
〈あまつかぜ〉艦長からの通信を受け取る。
「提督、本艦は被弾しており提督に付いていくことはどうやら無理なようです。時間稼ぎをしますので提督は我々に構わず先に進んでください」
「うっ、〈あまつかぜ〉私についてくるんだ!」
「……では、提督のご武運をお祈りいたします」
〈あまつかぜ〉戦闘指揮所では艦長以下が敬礼をして〈スプルーアンス〉を見送る。
「……〈あまつかぜ〉ーー!!」
〈あまつかぜ〉はRIM−二四ターターミサイルと五〇口径七六ミリ連装速射砲二基で応戦しながらドラゴン達に
「提督、もうすぐ森に到達します!」
「〈あまつかぜ〉が稼いだ時間を無駄にするな!」
その時〈スプルーアンス〉に衝撃が走る。被弾したのだ。
「状況は?」
「各科、状況を報告しろ!」
「後部甲板被弾!」
「ヘリコプター格納庫大破!」
「ガスタービン出力低下!」
状況は大変良くない、これは潮時か?
「提督、脱出してください。提督が生きていれば艦隊は立て直せます」とオスカー副官。
「しかし……」
「我々なら大丈夫です。亜空間に戻るだけです。提督は人間なので亜空間には入れませんので地上で生き延びてもらわないと困ります」
「ガスタービンが焼き切れても構わん!最大戦速で森に突入!提督を支援する!」
「アイアイ、サー!」
「すまない……」
最後の力を振り絞って駆逐艦〈スプルーアンス〉は艦首を森に突っ込む事に成功する。艦は半ば沈みかけており、幸い飛び降りても大丈夫そうだ。
私は〈スプルーアンス〉の艦首から飛び降りて退艦すると霧の立ち込める森の奥へ走り出した。
〈スプルーアンス〉は私が無事なのを見届けるかのように暫くは耐えていたが激しく爆発を繰り返しながら亜空間へと沈降していった……。
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