第二話 勇者の帰還

 深い闇から浮上するように意識が戻った勇者トリオの斗有慎平とありしんぺい力丸依千也りきまるいちなり笈川涼おいかわりょうの三人は辺りを見回す。暫く眺めていたが三人とも同じ結論を出す。


「どうやら最初に連れてこられた場所みたいだな」

「だな」

「ウェーイ!」


 今いる場所は国際空港にありがちな入国ゲートのような場所。入国ゲートを潜って入国審査のカウンターのような場所まで歩いていく。カウンターにはカッチリとした制服を着込んだ女性職員が座っている。


「ようこそ勇者の皆さん方。斗有慎平さん、力丸依千也さん、笈川涼さん、お疲れさまでした」

 トリオに、にこやかな笑顔で迎える次元管理官。


「ほんとに疲れたよ」

「最後は大変だったな」

「お姉さん、チース!」


「それではバイオロジカル・パスポートを拝見しますので、こちらのプレートに手を当ててください」


 カウンターにあるプレートに手を置くと、三人の身体から力を引き出されるような感覚が一瞬であり、終わると時空管理官の手元には、異世界に来るときにも見たパスポートが光が集まるように顕在した。


「パスポートが出てくるて不思議だよな〜」

「だよな」

「せやな」


 パスポートについてトリオが話し合っているとパスポートをチェックしていた次元管理官が教えてくれた。


「これは生体に刻まれた全情報を読み取るものです。生体に刻まれた情報なので偽造できないので便利なんですよ」


「へー」

「へー」

「へー」


 三人とも良くわからなかったようだ。


「はい、チェック終わりました。三人とも異常はないようですね。それでは今から勇者スキルセットは回収しますね」


「えー」

「そんなー」

「マジで?」

 トリオは不満たらたらである。あわよくば異世界帰りの勇者無双でも企んでいたに違いない。


「回収するのが規則なので。それに勇者スキルを持ったままだと元の世界に入ることは出来ませんよ? 異世界のことわりを持ち込むことをアースマインドが許さないので、持ったままだと世界から弾き出されますよ」


「マジで?」と落胆する涼。

「そうなん?」とどうでもよい感じの依千也。

「世界から弾き出されるとどうなりますか?」引っかかりを覚えた慎平は次元管理官に尋ねてみた。


 次元管理官は真剣な眼差まなざしで答えた。

「世界と世界の狭間の何もないところを一生彷徨さまようことになりますので……。お勧めはしませんよ?」


「「「さっさと回収してください!」」」


「では、回収しますね〜」


 トリオの体が一瞬だけ光りに包まれて元に戻った。


「それではすべての手続きは終わりました。あちらのゲートから元の世界にお戻りください」


「あっ、オレたちこのまま帰るとどうなります?」

「そうだ! オレたち何ヶ月も異世界にいたじゃん!異世界にいた間は行方不明になっていない?」

「マジでー?」

 トリオは重要なことに気がついたようだ。


「それなら大丈夫ですよ。こちらに来る前の時間のほんの少し前に書き戻されますから。正確にはですね……」


 次元管理官はメモを取り出して捲る。


「召喚があった日の朝に同期されますのでご安心を。同時間に二人いてドッペルゲンガーとかにもならないです。アースマインドの復元処理が大変強力なので問題は起こりませんので安心してお帰りください」


「わかりました。では、お姉さんさようなら」

「じゃあな!」

「お姉さん、暇だったらデートしない?」

「「りょうちん、帰るぞ!!」」


「間に合っていますので、お帰りください〜」


 トリオは強制的に帰国ゲートへと移動されて帰っていった。


「あっ、元の世界と同期する時に異世界の記憶は消滅することを説明するの忘れてた! まぁ、いっか。実害はないし」


 次元管理官は忙しそうにまた働くのであった。

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