10. 永遠のデストロイヤーガール編

第一話 魔王転生

 深い闇から浮上するように意識が戻った魔王は辺りを見回す。暫く眺めていたが結論を出す。


「どうやら、最初に死んだ時に来た場所のようだ」


 その場所はどこかの空港の入国ゲートのような場所。魔王は歩きだしてゲートを潜る。ゲートを潜った先には出入国カウンターのような場所に女性の職員が座っている。


「ようこそ魔王さん。いいえ梅岡継由うめおかつぐよしさん。お疲れさまでした」

「やはり、貴方であったか。確か次元管理官だったかな? 依頼の方は完遂したぞ」

「それではバイオロジカル・パスポートを拝見しますね」


 カウンターにある石のプレートに手を置くように言われたの手を置く。すると身体から力を引き出される感じがしたと思ったら次元管理官の手元に海外旅行に出かける時に必須のパスポートとそっくりな物が顕在する。


 次元管理官はパスポートを開いて捲っては読み進めてはスタンプを押していく。


「はい、確認しました。本当に変な依頼で大変でしたでしょう? 魔王になって勇者に討たれて滅びてくれなんて依頼はなかなか受けてくれる人がいなくて……。でも梅岡さんのおかげで助かりました。暫くはあの世界も安定することでしょう。……それにしてもロボットを出した人は初めてみましたよ」

「そうですか。まぁ、仕事柄ですかね……。それよりも勇者以外・・も出てくるなんて聞いてなかったですよ。おかげでスケジュール前倒しになって大変でしたよ」

「それについては申し訳有りません。梅岡さんを送った後に起きたイレギュラー対応でしたので、フォローできなくてすみませんでした。ところでこの後はどうします?」

「それは、以前に取り決めた通りでお願いします」


 次元管理官はもう一度パスポートを眺めながら確認する。


「えーっと。元の世界に女性として転生するで……、よろしいですか?」

「はい。そうです。次は女性声優になりたいのです」

「はぁ……」



…………



 実は梅岡継由は元の世界では声優だったのだ。声優とはアニメとかのキャラクターに声をあてて演技をする職業である。


 田舎で育った梅岡少年は、友人に勧められた、とある傑作アニメを見たことでアニメの面白さに開眼した。アルバイトをして資金を貯めると高校卒業とともに東京へと上京した。


 上京した後は声優学校に通いながらもアルバイトをして生活費を稼ぐ日々を送っていた。


 そんな彼に転機が来たのは声優学校を卒業した後もアルバイトを続けながらオーディションを受け続ける毎日を続けて一年ぐらい立った時に、とあるオーディションに受かった事で生活が一変した。


 小説原作のアニメ化で異世界に降り立った少年が敵を倒しながら大活躍するというアニメの主役に抜擢されたのだった。


 そのアニメは人気小説が原作ということで前人気も高く注目度が高かったのだがアニメも大成功して主人公を演じた声優ということでイベントに呼ばれることも多く、指名の仕事も増えて声優だけで食えるようになったのもここからだった。


 そんな感じで順風満帆に仕事をこなしてはいたが、来る仕事は最初のイメージが強いのか主役や、それに準じる役ばかりで仕事に幅が出ないのが唯一の悩みだった。また声質も天性の主役声と言われるほどで音響監督側も悪役を想像できないのも原因だった。


 そんな梅岡も最初に入った事務所を退所して個人事務所を起ち上げて精力的に仕事をしていたがやっぱり来るのは正義の味方の仕事ばかりだった。


 結婚もして新しい家族も出来て仕事もプライベートも順調に過ごして、そろそろ五十路を迎える頃、悲劇が起きた。重い病気にかかってしまったのだ。必死に治療を頑張ったがそのかいもなく入退院を繰り返す日々を送った。


「一度だけでいいから悪役やりたかったな……」


 最後にそれだけを呟いて家族に見守られながら梅岡は息を引き取った……。


……

……

……

……

……

……

……

……

……

……

……

……


「その希望を叶えましょう!」


 梅岡の意識が霧散する直前にどこからか声が聞こえたような気がした。



…………



 まさか異世界に転生して本当の悪役を演じるとは思っても見なかった梅岡だった。


「梅岡さんの功績なら高次元世界でも悠々自適に暮らせますよ?」

「いえ、悪役をやりたい希望は既に叶えられました。今度は女性声優になって頂点を極めたいのです」

「はぁ、わかりました。そんなに声優業が好きなんですね……。生まれ変わって声優を目指すかどうかは保証できませんがよろしいですか?」

「はい、それでも良いです」

「では手続きをしますね。転生先は同じ日本で良いですか?」

「はい、それでお願いします」

「はい、手続きは終了しました。魔王のスキルセットも回収しておきますね」

「やはり回収されてしまうのか……」

「魔王のスキルなんて持っていても元の世界では強力すぎて役に立たないし使えないですからね。そもそも異世界のことわりを持ち込むことをアースマインドが許さないので、持ったままだと世界から弾き出されますよ」


 梅岡の体が一瞬だけ光りに包まれて元に戻った。


「それではすべて手続きは完了しました。あちらのゲートから元の世界にお戻りください」

「お世話になりました」

「こちらこそありがとうございました」


 松岡はゲートを潜って消えていった。


「さてと、次の準備をしないと、忙しいな〜」

 次元管理官は忙しそうにまた働くのであった。

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