第九話 さらば異世界

 勇者トリオが「もっと力を!」と願った時に、それは空からやってきた。空からやって来た謎の物体は魔王の結界に次々と突き刺さり、爆発すると結界を破壊して、さらに魔王を深く傷をつけた。


 爆発したので一瞬、驚いて飛び退いた勇者トリオだったが、爆発は勇者の方には来なかったので無傷だ。


「いっちー、りょうちん、何だかわからないがチャンスだ!」

「しんちゃん、行くぞ!」

「ウェーイ!」


「「「臨界制限解除! オーバーブースト!!」」」


――点心槍!――


 笈川涼おいかわりょうの槍はただ一点のみをどこまでも深く貫く。例え地球の裏側までも。


――一文字斬り!――


 力丸依千也りきまるいちなりの剣は魔王の胴を一刀両断する。それは防御不可能な必殺の太刀。 


――武威ノ字斬り!――


 斗有慎平とありしんぺいの剣は袈裟懸けに振り下ろした後、胴体の中心部に達すると更に逆方向に振り上げると魔王の体に刻まれるVの字が胴体と頭部を両断する。


「魔王よ成仏しやがれ!」


 魔王の胴体と頭部は魔力によって、切断面から魔力を溢れさせながら、まだ空中に浮かんでいる。


「ふはは……、見事だ勇者達よ……。流石に余もこれまでだ……。だが余が破れたからと言って油断するなよ。また第二、第三の魔王が……。ぐはっ!」


 魔王は暴走した自身の魔力によって跡形もなく消し飛んだ。最強魔族のあっけない最後であった。


「陛下が!」

「魔王陛下が!」

「もう魔族はダメだ〜!」


 魔族は魔王の消滅により混乱状態。戦線は崩壊しつつある。連合軍三将軍も魔族三将軍を討ち取り魔族は総崩れとなって敗走した。一時期は劣勢かと思われた人族は魔族を遂に打ち破ったのである。


 勇者トリオは息を整えると剣を降ろす。


「いっちゃん、りょうちん」

「しんちゃん、やったな」

「りょうちんも頑張った!」

「これで帰れるぞ!」

「「「ウェーイ!!」」」


 勇者トリオはハイファイブを決めて健闘を称え合った。


 その時、勇者トリオが立っている場所に幾何学模様の魔法陣が浮かぶ。


「おい、これって!?」

「これ、あの時のじゃね!?」

「ウェーイ!」


 魔王と三将軍が倒されたことで総崩れとなったルシアーナ軍を蹴散らして連合軍三将軍が勇者トリオのもとに馳せ参じて来た。


「勇者殿! 勇者殿のおかげで魔族を退けることが出来ました!」

「誠にありがとうございました!」

「残りは我々がやります!」


 勇者トリオに対して三将軍は跪いて最大限の礼を取る。


「こちらも世話になった。国王陛下や宰相閣下には宜しく言っておいてくれ」

「将軍たちも元気でな」

「キレイなお姉さんたちともっと遊びたかった……」


 魔法陣が一際輝くと三人の姿は異世界から搔き消えたのであった。



…………



 勇者トリオが魔王を討ち果たした瞬間を見届けたイソナは〈いずも〉の戦闘指揮所CICにて司令官席に疲れたように深く座る。


 船乗り猫達はハイ・ファイブしたり抱き合ったりして喜びを精一杯表現している。


「一時はどうなるかと思ったが、やっと終わったな、オスカー副官」

「イエス、マム。そろそろお別れのようです」

「何!?」


 私が座っている椅子を中心に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。


「これって、私が巻き込まれたときの魔法陣?」

「イエス、マム。送還用魔法陣です。提督とはここでお別れです」

「……そうか、急なことで何も言うことを考えていなかったが……。ありがとう、皆。世話になったな」

「いえ、こちらこそ提督の元で働くことが出来て光栄でした」

「それでは、達者でな……。さらば異世界!」


 一際輝いた魔法陣は私を包み込むようにすると視界が真っ白になり、同時に私は意識を手放したのであった……。

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