02.勇者トリオ編
第一話 勇者三人組
とある夏の昼下がり。高校生三人組はふざけ合いながら道路を歩いていた。
「飯食いに行こうぜ?」
二人に対して提案したのは三人組のリーダー格である
「「ウェーイ」」
返事をしたのは
「店はどうする?」
「何時もの店でよくね?」
「「「ウェーイ」」」
とハイタッチして何時もの店に行こうとしたその時に彼らの足元が急激に光りだした。
「何?これマジヤバくない?」
「それな」
「マジヤバ」
魔法陣が完成すると彼らトリオはそのまま光の中へと吸い込まれるように消えていった。たまたま側にいたおっさんと共に。
トリオが気がついた時には薄暗い空間にいた。トリオの家族で合同ハワイ旅行にでかけた時の空港ロビーに似ている。待合用の椅子に三人横並びで腰掛けている感じだ。
「おい、いっちー、りょうちん、大丈夫か?」
「しんちゃん、りょうちん、ちょりーっす」
「ちょりーっす」
どうやら三人とも無事のようである。
「ここはどこだ?」
「天国?」
「女神いるかな?」
「それな」
まったく動揺しない三人組。召喚されるわけである。
ポーンと音がした後にアナウンスが辺りに響いた。
「斗有慎平さん、力丸依千也さん、笈川涼さんカウンターまでお越しください」
アナウンスと共に目の前に出国カウンターのような物が出現してスーツのような制服を着た若い女性が座っていた。
「マジヤバ」
「「それな」」
どうやらトリオの好みだったようで三人組は先を争う様にカウンターに向かった。
「お姉さん、歳幾つ?」
「趣味は?」
「何やっている人?」
矢継ぎ早に質問しているトリオについて多少苛ついているのか女性はこめかみをピクピクとさせている。
「まず、現状の説明をさせてくださいね」
笑顔でにっこり微笑むとトリオは急に黙り込んだ。なにやら未知の力で威圧されたようだ。
「あなた達は勇者召喚術式により召喚されて高次元中継点であるこの場所にいます」
三人は暫く互いの顔を見合わせてポカンとしたが……。
「勇者!」
「なにそれ!」
「マジヤバ!」
女性は咳払いしてトリオを黙らせると説明を続けた。
「あなた達がこれから行く世界は地球とは別の次元の地球です。平行世界といいますか地球そっくりで剣で戦ったり魔法があったり魔獣とかいる世界です」
「ファンタジー世界かな?」
「中世ヨーロッパてやつ?」
「SFラノベ世界?」
「「それな!」」
咳払いした女性は再度話し始める。
「勇者召喚された者には勇者の称号と勇者に相応しいステータスに勇者に相応しいスキルセットを授けることになっています」
「それってチートてやつ?」
「チート?マジで?」
「マジヤバっしょ」
「しかしなんで魔法もない世界の俺達なんですっか?」
「「それな!」」
再び咳払いしてトリオを黙らせると女性は説明を続けた。
「それはですね、魔法の素養がない世界の住民の方が勇者セットを書き込んで馴染ませるには素体的に都合が良いからですよ。元から魔法が使える種族だと元からある魔力や能力と反発して後から上書きして書き込むのはほぼ無理なんです」
「「「……はぁ?」」」
三人共少しがっかりしたようである。中二病的には魔法の素質が己の中に眠っていたとか言ってほしかったようである。
「では、これを受け取り下さい、これが勇者の証となります」
とトリオにパスポートに似たものを渡した。トリオが受け取ると光となって体の中に吸収されるように消えていった。
「これであなた達に勇者の力が宿りました。詳しい説明は召喚先でしますので先に進んで下さい」
そう言うと奥の方に出国ゲートの様な物が現れた。トリオはなにかに引っ張られるように出国ゲートに引き込まれて消えていった。
「次の方の説明が少し厄介ですね」
女性は独り言を呟くと次の仕事に戻っていった。
トリオが次に気が付くと大理石でできた柱と高い天井に円形の部屋にいた。床には大きな魔方陣がある。その魔法陣の中心に三人で並んで立っていた。
正面にはなにやら古めかしい西洋風の格好をした人物が数名いる。
「ようこそお出で下さいました勇者様方」
中心にいる少し位の高そうな服飾を帯びた人物が言った。
「あんた誰?」
と斗有慎平が尋ねると。
「「それな」」
と力丸依千也と笈川涼が追従する。
「申し遅れました。私はドイツェット王国で大神官長を務めるゼルギウス・シーベルグと申します。そしてここは王国王都にある大神殿、召喚の間です」
「へー、大神官さんか、そうすると今回の勇者召喚の責任者さん?」
「いえ、確かに召喚の実行は私の責任ではありますが、この度の作戦の総指揮官は国王陛下です。召喚しておいて失礼ですが召喚が正しく行われたか確認する事をお許し下さい」
大神官はそう言うと。平たい石版を従者に持ってこさせた。
「この石版に手を当てて下さい。そうすることで勇者の称号が確認できます」
トリオが順番に手を当てるとそれぞれ例のパスポートが石版上に浮かび上がった。パスポートの表面には黄金色の複雑な立体幾何学紋様が描かれている。
「間違いありませんな。勇者の称号です。では陛下がお待ちですのでこちらにお越し下さい」
大勢の従者が現れるとトリオを別室に連れて行った。そこで正装に着替えさせられるとまた次場所に連れて行かれる。
「なんかファンタジーゲームのコスプレみたいだな」
「それな」
「マジでヤバイ」
とトリオはお互いの衣装を見ながら口々に言い合った。
「勇者様方、ここが謁見の間の控えの間でございます。合図が有りましたらこの扉が開きますので中にお入り下さい」
付き人の人はそう言うと下がっていった。扉の横には衛兵がいる。
「勇者、斗有慎平様。勇者、力丸依千也様。勇者、笈川涼様入室ーー」
合図と共に扉が開いたので事前の打ち合わせの通りに印があるところまで進む。後はそのまま起立して待機せよとのことだった。勇者は臣下ではないので待遇としては特命全権大使扱いであり地球世界代表者を迎えるということで国王とは同格扱いである。
暫くすると式部官が陛下入場を知らせる。
「神聖なるドイツェット国王陛下の御入室ーー」
玉座横にある控室から国王陛下が入場して玉座に座る。
さて、ここからは格式に従って詳細に書いていくと話が進まないので省略して進めることにしよう。
「勇者方々にはご足労頂き申し訳ない。魔族達の元締めであるルシアーナ魔帝国とその属国と我々人族との大戦は長期に渡って一度は戦線を押し返したが最近は押され気味にある。ルシアーナ魔帝国側にも不穏な動きがあってな。こちらの防御が何時破られても不思議ではない。それでこの度は状況を打破するために勇者方にご足労頂いたわけだ」
とオルトヴィーン・フォン・バイルシュミット宰相からの説明があった。
既に謁見も終わり今は別室にいる。謁見の間では陛下に御挨拶するのみで実務的な話し合いは宰相であるオルトヴィーン・フォン・バイルシュミット卿に全権を委ねられている。
「それでオレらが呼ばれたわけですか」と斗有慎平が言う。
「思ったより状況悪くないか?」と力丸依千也。
「もっと詳細な情報がほしいですね」と笈川涼。
急に三人の語り口調が変わったが自宅での喋り方はこんな感じである。彼らトリオの祖父が仲良くて幼い頃から武術で鍛えられていたので普段はチャラい外見とは裏腹に祖父の前では厳しく躾けられているために真面目だったりするのだ。慎平は神道無念流で依千也は示現流の剣術。涼は甲賀流の槍術を叩き込まれていた。ウェイ系になったのは高校デビューからである。
「ところで勇者だとどれくらい力があるんだ?」
「それな」
「一度確かめる必要があるんじゃね?」
とは言え仲間内なら普段の砕けた言葉がすぐに出てしまうのも高校生ならではある。
「文献によると勇者の力は一師団相当と言われていますな」と宰相閣下。
師団と言うのは時代にもよるが六千名から二万の兵隊で構成されている部隊である。人数は編成によるので幅がある。ナポレオン時代の頃は二個旅団、六個連隊、八個中隊という編成だったようだ。もちろんこの異世界で当てはまるかは定かではない。
「それはそうと腹が減ったんだが……」
「「それな!」」
このトリオは飯を食べに行く途中に異世界に呼び出されたのであった。
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