第六話 初めての対人戦闘
出納課に出向いて請求書を受付の事務員に渡すと幾つか決済されて現金を入れた幾つかの革袋を奥の金庫から持って来た。
「金貨の用意は当組合にはないので、全て銀貨での支払いになりますがよろしいでしょうか?」
「いいよ」
金貨を貰っても普段使いでは使い難いだろうし良いのではなかろうか。
後でオスカー副長に聞いたところ金貨は一般流通していなくて庶民はまず使わないそうだ。一般には出回らない貨幣としては「大金貨」「中金貨」「小金貨」の三種があるが、これらは貴族だったり大店の商人が大口取引する時に使うレベル。元々金は希少金属なので発行枚数も少ない。
なので一般庶民同士が相手から金貨で払うと言われたら偽造を疑うレベルのようだ。
庶民が一般的に扱う貨幣は「大銀貨」「小銀貨」「白銅貨」「銅貨」「銭貨」の五種。オスカー副長に日本円に換算すると幾らか尋ねたが「時価」としか答えてくれなかった。
そもそも地球にこの世界の金貨を持ち帰った上で鑑定してもらって価格が出たとしても、この世界の金貨の価値ではない、地球での価値だ。物価や金の希少価値の違いなどの要因で換算は不可能ということであった。
例えば同じ様な商品があったとしても地球みたいに大量生産で安いものもこの世界だと手作だったりするので高くなったりするというわけだ。その逆に、この世界ではありふれている商品が地球では造り手が殆どいなくて貴重になっているとかもありうる。
某ハンバーガー指数でも使えれば比較できるのだろうけれど、そんなものはこの世界にはないので土台無理な話と言うことだ。
さらに金、銀、銅の交換レートは日々の市場相場で変動する。金貨と銀貨で換金するレートが常に変動するので今日は金貨一枚が銀貨五枚だったとしても翌日には銀貨五枚と白銅貨一枚などと変わっている可能性がある。現代日本の紙幣と同様な数え方は出来ないのだ。
「大銀貨三〇七枚、少銀貨七四枚、白銅貨二五〇枚になります」
一旦、革袋から出されて積み上げられる貨幣にちょっと引き気味になる。一応、貨幣は十枚単位でリボンタイプの紙で封緘してあるので数えるのは問題ないのだが、カジノでジャックポッド当てた気分になるな。
全部の貨幣を確認したので受け取りに署名して革袋に貨幣を詰め直して封をする。これで受け取り完了だ。革袋は貨幣の種類ごとに入れてあるので、それらは亜空間内のシップヤードにしまう。
受付に礼を言って狩猟ハンター組合を立ち去った。
「さて、今度は金もあるし買い物でもするかな」
街の中心に向かって歩いていると広場が賑わっている。
「号外だよ!ドイツェット王国が勇者召喚をしたよ!!」
どうやら新聞売りが最新の新聞を売り歩いているようで、それをみんな買って読んでいるようだ。
「一部くれ」
「一部、銅貨三枚だよ!」
新聞を買うために小僧に白銅貨を渡したら銅貨を七枚返してくれた。新聞を読んでみるとドイツェット王国で勇者召喚して勇者のお披露目があったと書いてある。近々、勇者が先頭に立ち戦線を押し戻すだろうと言う解説も書いてある。
後で詳しく読んで分析するかと新聞をしまいながら歩いていると副長から警告がはいる。
(先日の奴らが艦長を尾行しています)
大方、現金目当てのこそ泥かな?何処かで撃退しないとキリがないな。
「副長、泥棒とかは自己防衛しても問題ないか?」
(街の中での武装は禁じられていますが襲撃者に対して反撃することは正当防衛として認められています。武装禁止と言っても剣なら袋などに入れて紐で縛ってあり、すぐには使えない状態を指すだけでハンターなら武器携帯の許可自体は出ています)
「街なかだと後が面倒だから郊外で片付ける。総員戦闘配備につけ!!」
(アイ、キャプ!)
郊外に出ても後ろから付いてくる五人の推定ならず者達。知らないふりして歩いていると、五人は二手に分かれて前方に三人、後方に二人と挟まれた格好になった。
前の三人は物陰から姿を現すと怒鳴った。
「金目の物を置いていってもらおうか!」
そいつは典型的な追い剥ぎセリフだよ。三人共手には剣を持ってニヤニヤしている。
「逃げようと思っても無駄だぜ、後ろも塞いでいるぞ」
後ろからも武装した二人が姿を現す。
「困ったな、金目のものなんて持ってないよ」
両手を広げてアピールしてみる。
「狩猟ハンター組合でお嬢ちゃんが大金を受け取っているのは見たんだよ、さっさと出しな!」
「お嬢ちゃんも高く売れそうだから、可愛がってあげた後に売り飛ばしてあげるよ、グフフ」
あいつ涎を垂らして股間を膨らませているよー。女性側に立って目の辺りにすると気持ち悪いな!この世界には奴隷制度とかあるのかな?
(奴隷制度はありませんが人身売買は裏社会では日常的に行われています)
なるほど、このクソどもに遠慮はいらないかな。
「今直ぐ諦めてくれたら、見逃してあげるけれど諦めてくれないかな?」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!そっちこそ、さっさと諦めな!!」
「仕方ないな……。砲撃戦用意!!」
私の号令と共に二〇ミリ単装機関砲六基が亜空間から猫水兵と共に現れる。
「なんだ!化け猫!?」
「怯むんじゃねぇ!者共かかれ!!」
これはもう止まらないね。
「攻撃始め!」
「にゃー!(撃て!)」
二〇ミリ機関砲から二〇×一一〇ミリRB弾が毎分二五〇発と言う物騒な嵐となって敵に向かって叩き込まれる。
その結果、数秒で盗賊たちは永遠に沈黙する。
辺りは血の海になったが魔物の血の海を散々見ていなかったら精神的にダメージ受けていたかもしれない。
「副長、死者を弔ってやれ」
「うー、にゃー!(アイアイ、キャプ!)」
猫水兵たちは道を外れた所に穴を掘って遺体を埋めていく。消火用ホースで周囲の血を洗い流して痕跡が残らないようにして後片付けが終わった。
「異世界人の悪人とはいえ気分のいいものじゃないな……。撤収するぞ!」
私は誰にも見られてないことを確認してから駆逐艦を出して乗艦すると郊外へと撤収した。こうして私の初めての対人戦闘はあっさりと終わったのだった。
食堂で水を飲んで艦長室で暫く寝ることにした。一眠りして気分が落ち着いたので町に戻ることにした。今なら金はあるので宿に泊まったり外食も出来るだろう。
町に入る前にスキルをオフにした。未成年に見える女性が
何処が美味しそうかは分からないので匂い頼りに店を探してみる。適当に入ってみたが夕飯時と重なって適度に混雑しているので繁盛しているのだろう。
「いらっしゃい!ご注文は何にします?」
気の良さそうなおばちゃんが注文を取りに来た。
「初めて来たので、お薦めとかあります?」
「それなら日替わり定食にしときな。その日に仕入れた良い食材を見てメニュー決めているんだよ」
「じゃ、それで、あとエールを一つ」
「注文通ります!日替わり一丁とエール一杯!」
「日替わり一丁とエール一杯通りました!」
暫く待っていると注文の品がやって来た。
「日替わりのオーク肉のステーキとテールシチューの定食です」
見た目はトンテキに似た感じのステーキとシチューとパン。肉汁が溢れてて美味しそう……?あれ?美味しそうなのに心が拒絶している……。心臓がバクバクしてヤバイ感じがする。盗賊を残虐した記憶がフラッシュバックして気分が悪い……。とりあえずエールを飲んで心を落ち着けた。日本で飲んでいたビールと比べるとあまり美味くはないが、この際何でもありだ。エールを飲み干してもう一杯エールを頼んだ。
心臓の動悸も大分収まってきてやっと思考が働き始めた。昼間のことはかなりショックだったんだと。あの時は平然としてはいたがおかしいとは思わなかった。むしろ軍人として当然のような……。
当然?
「くそったれが……」
スキルで駆逐艦艦長になるのは外見の変化だけではないのかもしれない……。と思い至ったのであった。
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