第五話 哨戒

 金は無いけれど街の様子でも見てみようかと街の中心部に向かって歩いていく。大通りに入ると賑やかだ。馬車が走り、商店の呼び込みの声があちらこちらから聞こえてくる。


 レンガと石で出来た建築物が大通りに並んでいて街の発展具合がわかる。そんな目抜き通りを抜けると領主の居住する城が見える。周囲の堀には水が引いてあり水鳥が羽を休めている。城壁は三回建てぐらいの大きさだろうか?門の辺りとか城と城壁が兼ねている場所もあって興味深い建築物だ。


 城を一周して観光を楽しんだ後は青空市場がある方へ行く。こちらはちょっとした広場に簡易天幕が立ち並び、その下では青果や肉類や魚介類などを商っている。雑貨屋とかもあるな。肉類はハムなどの加工肉が中心。魚介類売り場は見たところ乾物系が多い。魔法はあれど露天だと冷蔵系の魔法とかは無いのかな?他の店も見てみないとなんとも言えないな。


 青空市場を抜けて郊外に向かう路上を歩いていると。

(艦長。方位角一八〇に複数の未確認反応が五あります)

現在は北に進路を取っているので真後ろだ。

「単なる通行人ではないのか?」

(この五個の未確認反応ですが一定の距離を開けて狩猟ハンター組合から追跡されています)

「物取りとかかね……。治安が悪いのかな?」

 治安が悪いとすると人攫いとかあってもおかしくないよな。こんなおっさん捕まえてどうしようと……。あっ!私は今は何処からどう見ても女だった!!


 どうしようか?ちょっと行ったところに路地裏に入る角が見える。


「あの角を曲がった所で巻くぞ!」

(アイアイ、キャプ!)


 私は後ろを振り返らないように気を付けながら角を曲がって路地裏に入る。誰もいないことを確認してスキル・オフしておっさんに戻る。何気ない顔して路地裏から出てくると、追跡していた男共が慌てて路地に入ってくのが見えた。私は素知らぬ顔でその場を離れた。


 街から離れた郊外に戻るとスキル・オンして警戒する。特に付けられていたりはしないか。適当な林の中に分け入り駆逐艦を出して中に入る。

「にゃーにゃ!にゃー!(艦長!乗艦!)」

「ご苦労」


 艦橋に上がり副長と航海長の出迎えを受ける。


「現在の世界状況を知りたい」

「にゃー、にゃにゃー(ブラッキー航海長、地図を)」

 航海長が海図台に地図を広げる。


「にゃー略(現状、世界の大半を占める本大陸は東西に二分されており、西側が人類が生存している領域で複数の国によって統治されています。東側は魔族領域となっており魔王及びルシアーナ魔帝が治めるルシアーナ魔帝国となっています。ルシアーナ魔帝国にはシンシナーン魔国、コリアーナ魔国という属国が仕えております。ルシアーナ魔帝国と接する国境沿いにあるドイツェット王国が今回の勇者召喚した国であります。我々がいる現在地は大陸の西端であるフランチェスカ王国に有ります)」

「オスカー副長、有難う」

 現状は魔族との戦争はドイツェット王国が堤防となって膠着状態にあるが、それを打開するために勇者召喚が行われたようだ。フランチェスカ王国は直接の戦場になっていないために後方支援している状況らしい。一方のルシアーナ魔帝国にも大規模侵攻の予兆があるようで各国の警戒感が高まっているようだ。


「どうやらのんびり異世界ハンティング生活とか無理かもしれないな」

 そもそも勇者召喚なんてしないといけない状況の世界でのんびりムードがおかしいのだ。治安が悪いのも戦災から逃れてきた避難民が増えているのも一因かもしれない。日本の外務省ならとっくに渡航中止勧告を出しているところだ。紛争地帯なので退避勧告かな?時空管理官?だったかが私に勇者でもないのに強力なスキルを与えたのも現地の状況が不安定だというのがあったのかもしれない。


「勇者たちの動向はわかるか?」

「にゃーにゃ、にゃにゃにゃー(現在の最新状況は情報収集しないと入手出来ません)」

「ふむ、つまりこの異世界に来るまでの情報はあるけれどそれ以降は無いと言うことか?」

「うー、にゃー!(イエス、マム!)」

「つまり索敵が必要ということか、本艦はこれより哨戒行動に入る三日後までの哨戒行動スケジュールを作成せよ」

「うー、にゃー!(アイアイ、キャプ!)」


 三日後、哨戒活動(サーチ・アンド・デストロイ作戦)を終えてナンテスまで戻ってきた私は駆逐艦をしまうとナンテスの狩猟ハンター組合に向かった。


 狩猟ハンター組合で控えカードを見せると直ぐに魔物査定・解体課に通されたので待ち時間がなかった。


「嬢ちゃん、来たな。これが今回の査定表だ確認してくれ。損傷は酷かったが大物がかなりいたし魔石も沢山採れたので結構な金額になったぞ」


 前回の解体課のおっさんが出迎えてくれた。おっさんは喋りながら書類を渡してくる。


 魔石て何だろうと思いながら受け取って書類を見ると書類は明細書のようだ。ワイバーン大銀貨四五枚×五、トロール大銀貨一枚×八二、オーク小銀貨一枚×七四、ゴブリン一山白銅貨二五〇枚とあった。相場とか分からないし数はあっているから問題ないだろう。ゴブリンなんて数が多いから一山になっているて事は単価が安いのかな?


「問題ないと思う」

「それなら確認のサインをしてくれ」

 サインをしたら今度は請求書をもって出納課に行ってくるように言われた。出納課で支払いされるそうだ。

「そうだ、昨日まで狩りをしていたからまた査定してくれないかな?」

「おっ、おう。わかった出して置いていってくれ」

 気になっていたことを聞いてみる。

「ワイバーンとかの魔物はこの街を襲ってこないのか?」

「この近辺はハンターが定期的に狩っているから被害は抑えられはいるが、街にも来るには来る。しかし街には広域防御結界が展開しているから、この近辺に現れる魔物ぐらいなら寄っては来れないし攻撃も通らないようになっているよ」

 なるほどな、人より大きい魔物とか空飛ぶ魔物に城壁築いても乗り越えられたり空を飛ばれたらお終いだから結界で防いでるのか。そうなると城壁を築くのも資金の無駄なので城壁もないのか。


 言われた通りにまた魔物の山を倉庫に築き上げて出納課に向かった。おっちゃん腰抜かしていたけれど大丈夫かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る