03.魔族との激闘編

第一話 魔族襲来

 私こと山本イソナがナンテスを拠点にして魔物を狩ったりして過ごして数日が過ぎた。生活資金も出来たので夜は街なかの宿屋に宿泊することにした。追い焚きも出来ないお湯を入れるだけの風呂もあったし精神衛生上ずっと女性のままと言うのも落ち着かないからだ。


 そんな宿屋で寝ていると何か重苦しい感じがした。深い睡眠が破られて起き上がるが寝起きで頭がスッキリしないが今も重苦しい感じがする。この感じはスキルからの警報か?今はおっさんなのでスキルからの警告はぼんやりした感じでしか受け取れない。フランス窓(床まであるバルコニーに出入り出来る窓)に近寄ってカーテンの隙間からそっと外を見てみる。


「今の所、何もないようだが……」

 窓から離れようとした瞬間、花火のようなものが幾つか上がる。

「照明弾?」

 地球の照明弾のような物が光を発しながら空に上っていく。暫くすると遠くから鐘が鳴り始める。火事があった時に鳴らされるような鐘の音だ。

 フランス窓を引いて開いてバルコニーに出てみると同じように驚いた人が路上に出ているのが見える。


「敵襲だァァァァァァァァァァァァァ!!」


 そんな叫び声が聞こえ始めたと思ったら遠くの通りの角から異形の者が姿を表した。身の丈は二メートル以上はあるゴリラと鬼を混ぜ合わせたような怪物だ。

「これは、まずいかも」

 身支度を整えて撤収準備を完了させる。宿代は前払いなので何時でも引き払うことは可能だ。

「スキル・オン」

 〇.〇五秒で変身を完了させて美女艦長になると副長を呼び出す。

「副長!状況は?」

(はい、艦長!魔族の大規模侵攻です。種族や編成、識別子を見る限りルシアーナ魔帝国傘下のコリアーナ魔国による大規模な襲撃かと思われます)

「この街は結界に守られているんじゃなかったのか?」

(どうやら戦争避難民に紛れ込んで魔族が入り込んでいたようです)

 内部から破られたのか、これは不味い状況だ。

「とにかく安全を確保するぞ、郊外に退避する」

(アイ、キャプ!)


 郊外が安全とは限らないが街なかで駆逐艦を振り回すのは不味い。駆逐艦が自由に動ける郊外の方が戦術の幅が広がる。


 宿の裏口から外に出ると狭い路地裏を通って行く。路地裏には大型の怪物は入れないようで小型の怪物に時折遭遇する。人間だと思っていたらいきなり变化して怪物になるのだが、六基の二〇ミリ単装機関砲で打ちのめして行く。怪物は食事中だったり強姦中だったりと見ていて気分の良いものじゃない。犠牲者は既に事切れているので弔う暇もなく構わず進んでいく。


 コリアーナ魔国の魔獣科兵士は野蛮で残虐で知られており人類社会では憎しみと共に恐れられている。普段は人類社会に溶け込んでいるので外見や一般的な魔法検査では区別がつかないので対処が難しい。元々、人類を拉致して魔獣の種を体内に仕込まれているのでそれが休眠している間は探知できないのだ。一旦、魔獣化すれば元には戻れないので倒すしか無いのだが胸糞悪い話である。


 裏通りから大通りに出ると、そこは既に死体の山となっている。血の匂いに顔を歪めながら先を急ぐ。

 宿から見えたゴリラ鬼が大通りを塞いでる。どうやら逃さないつもりらしい。向こうも気が付いたようで咆哮を上げている。そして両手に持った巨大な戦斧を持ってこちらに向かってくる。向こうは敵無し状態の余裕なのかゆっくりと周囲を薙ぎ払いながら歩いてくる。


「砲撃戦用意!」

(砲撃戦用意!)

 復唱と共に亜空間より出現する五基の五インチ単装砲と四〇ミリ機関砲二基。

「攻撃始め!」

(撃ち方始め!)


 号令と共に大量の砲弾と銃弾が敵に向かって叩き込まれる。大型の割に敏捷だが音速で飛ぶ砲弾や銃弾を避けることも出来ず強力なストッピングパワーに抗えずゴリラ鬼共は文字通り肉片となって吹き飛ばされていく。


 ただ数が多すぎる。ゴリラ鬼が砲弾を避けては懐に飛び込んで武器である巨大な戦斧を振るう。

 一番砲塔の砲身で戦斧を受け流しつつ二番砲塔でゴリラ鬼の腹部を撃ち抜く。後ろからの斬撃には三番砲塔にて弾き飛ばして四番砲塔でゴリラ鬼の頭部を吹き飛ばす。


 傍から見ればただ乱射しているようにも見えるかもしれないが、水上レーダーにて敵を捕捉して戦闘指揮所CICによって的確に目標に優先順位を振るい次の目標を指示。次の目標に対しては五番砲塔で迎え撃つと、まるで日舞かバレエを踊るかのように三六〇度の敵を五インチ単装砲五門と四〇ミリ機関砲二基が連携して死を量産していく。


 当事者じゃなかったらポップコーン片手に眺めていたいほどだ。


 ゴリラ鬼共を蹂躙しつつ前進してようやく駆逐艦〈フレッチャー〉を出しても問題のない大通りに出ると同時に私は艦体を浮上させて戦闘指揮所CICに入ると副長に尋ねた。

「戦況はどうなっている?」

「うーにゃ(以下略)状況は良くありません。奇襲によって迎撃体制ができる前に戦力が分断されたために組織的な戦闘行為が出来てません領主の城からも火の手が上がっていますので頭を落とされたかもしれません」

「すると、この町に留まっても無駄かもしれないな。本艦は速やかに後退しつつ活路を開く」

「では艦長、このままローリレ川を下って海の方に行くのはどうでしょうか?」

「よかろう。その線で行こう」

 元々、駆逐艦なので海に浮かぶのが本来の姿だ。海に行くこと自体は問題ないが、ずっと海の上で過ごすとなると女性のままというのが気分的には問題だが状況が許しはしないだろう。


 その様な話し合いを続けながらも砲撃は続く。何しろ敵の数が多い。街は完全に包囲されていると言ってもよいだろう。その中を砲撃で無理やりこじ開けて進む。


 もう少しで街を出るという所で大きなガラスが大量に割れるような轟音が外から聞こえてきた。

「副長!何があった!」

「結界が破られたようです!空から敵竜騎兵による攻撃が始まりました!」

「対空戦闘開始!敵を本艦に近付けさせるな!」

「イエス、マム!」


 刻々と変わる戦況を眺めてはいるが艦長としては指揮する以外に何もすることがない。艦長が直接戦うようではこの艦もお終いだろう。

「艦長!もうすぐ川に進入します!」

「総員衝撃に備えろ!」

 直後に一旦宙に浮いた浮遊感を感じた後に船底から突き上げるような衝撃が来た。

「着水〜今!」

「よし、このまま敵に砲撃しつつ海まで全速前進!」

「アイアイ、キャプ!」


 私と猫たちはそのまま戦闘エリアから急速に退避した。


 そしてフランチェスカ王国は国土の主要部を魔族によって蹂躙されたのであった。

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