04.エンゲルッシュ連合王国編

第一話 プライマウス上陸

 駆逐艦〈ギアリング〉はプライマウスへと順調な航海を続けた。途中、撃破したクラーケンをイカフライにして食べてみたら案外いけたが、大量の在庫があるために暫くは見たくない。


 そんな感じの航海ではあったが陸地が見える頃合いになったので目的地であるプライマウスの港には直接行かずに小さな入り江を目指していく。この世界の海運は主に木造帆船みたいなので見つかる前に避けて早朝に入り江に入港する。


 さて、現状ではフランチェスカ王国は魔物だらけで拠点を確保するにも魔物を蹴散らすには戦力不足だ。情報収集しながら建造を優先したほうが良いかもしれない。私は新規の駆逐艦を建造指示を副長に命じて待機することにした。艦長レベルが上ったので現在は二隻までなら同時に建造出来るようになったのだ。


 建造終了まで十時間ほどなので、それまではスキルオフ出来ないのが厄介なところだ。ちなみに建造開始は必ず陸に上がってからでないと出来ない仕様になっている。


 亜空間工廠なのにその制約はなんだ?と思ったので理由を副長に尋ねたら「建造は陸でするものですから」て言われたよ。建造が始まってしまえば駆逐艦で移動してもよい謎仕様なのだが無意味にこだわっている変なスキルだ。


 ずっと出来上がりを待っていても仕方ないのでプライマウスまで行くことにする。スキルオフ出来ないので格好も軍装だ。


 駆逐艦は第二次世界大戦終了間際の物なのに軍装は近代の米軍ぽい。デジタル迷彩作業服とかあったからね。私は軍装マニアでもないからスキャンした時に時代考証は放棄されたのかもしれない。


 艦長室で無難な軍装を探していたら士官用のワーキングカーキーの作業半袖シャツにワーキングカーキーの作業ズボンと紺色の駆逐艦〈ギアリング〉の刺繍入りベースボールキャップがあったので今はそれを被っている。後は短パンとTシャツしかないので治安が悪い時世では、その姿で出歩くのは遠慮したい。一応、見た目だけはうら若き乙女だし?


 護身用にはM一九一一A一をヒップホルスターに吊り下げて運用する。基本的には猫達が護衛してくれるので自分では射撃することはないだろうが、絶対がないのが世の中のことわりだ。安全を確保するには危険に備えないといけない。基本的に世の中は危険な状態だ。決して安全な世の中とか平和な世の中ではない。安全に成るためだったり、平和に成るために危険な状態から努力して限りなく安全な状態に近づけているのである。決して努力を怠ってはならないのである。


 M一九一一A一は以前、海外旅行をした時に何回か射撃場で撃った事があるので馴染みがある。その時にはアサルトライフルからハンドガンと色々と射撃できて楽しかったが護身用に持つことになるとは思いもよらなかった事だ。


 道中は適当に魔物を狩りながら進む。プライマウスに近いとは言え結界の外なら魔物は皆無ではないので少しでも狩っていった方が後々の安全に繋がる。今回は五インチ砲の出番は無いまま午前中にプライマウスに到着した。


 プライマウスはかなり大きい港町のようだ。軍港にもなっているようで一部の岸壁は軍の所有地として立ち入りが禁止されているようだ。


 とりあえず狩猟ハンター組合に向かう。狩猟ハンター組合は全世界組織と言う訳ではなくて国ごとに別の組織である。国に認可されて行っている組合事業である。ただ各国の行政と各国の組合同士で相互協定は結ばれているので他国でも狩猟ハンターのライセンスを持っていれば互換性があって他国で狩猟が出来るようになっている。これは獲物を追って移動する狩猟ハンターの特性にも合致している施策である。


 プライマウスの狩猟ハンター組合は海に近い地区にあった。海棲魔物とかの対応のためというのもあるのではないかと推察する。


 扉を開けるとたむろしているハンターたちの視線が突き刺さる。その視線を避けながら受付に向かうが空いて無いので整理券を貰って順番待ちしていると男が三人やって来て声をかけてくる。


「よぉ、お嬢ちゃん。ここはアンタの様なガキが来るところじゃないぜ」

 下卑た視線を私の胸や尻を撫で回すようにしてくる。あー、これが女性が受けるセクハラてやつかな?私は特に話すこともないので無視する。

 無視するとこの手の構ってちゃんはさらに付け上がるし、構ってあげれば構ってちゃんの思う壺なのでどっちでも不正解なのだ。

「おぃ、おぃ、先輩様が優しく教えてやっているのに無視するとは上等じゃねぇか!」

 突然、身勝手な理由で恫喝してくる面倒な奴らだ。もっともそれが目的なんだろうけれど。勿論、これも無視。

 周囲は何やら面白そうに見ているやつと呆れたように見ているやつが半々か。室内で戦闘になったりするのは面倒だと思っていたが、順番が来たので受付から呼ばれたので歩きだす。

「おぃ、待てや!」

 後ろからいきなり肩を掴まれる。掴まれた肩のある方の手を真上に伸ばして相手の手を肩から外して振り向きざまに掌底を顔面に叩き込む。怯んだ隙きにさらに追い打ちで回し蹴りを叩き込んで男を吹っ飛ばす。

 あれ?私って無意識のうちに反撃したけれど格闘技とかてやったこと無いのだが……。これって噂に聞く近接格闘術と言うものだろうか……?デストロイヤースキルで出来るようになっているのかな?まぁ、舐めてた他の奴らも今は遠巻きにしているのでいいか。

「残りの二人も吹っ飛ばされたいなら相手になってやるよ」

「「いえ、間に合っています!」」

 二人は間髪入れずに答えると倒れた男を引っ張って組合から出ていった。


 私はそれを確認すると受付に今度こそ向かう。今回は誰も邪魔してこなかったので速やかに辿り着いた。

「ご用件は何でしょう?」と何もなかったように受付嬢。この受付嬢は出来るな!そう何もなかったのだ。とは言え気の所為か周囲の受付嬢達から熱い視線がチラチラと来る感じがする。少しだけ目立ち過ぎたかな?


「フランチェスカ王国から避難してきたばかりでね。ハンターライセンスはあるからエンゲルッシュでも狩りをやろうと思って申請に来た」

「それは大変でしたね。ライセンスを拝見致します」

差し出されたタブレットに手を乗せるとライセンスが表示される。ライセンスに裏書きでエンゲルッシュ連合王国狩猟ハンター組合の印を押すことで、この国での活動が認められるのだ。

「ライセンスの確認は完了致しました。ご用件はこれで終わりでしょうか?」

「狩った魔物を買い取って貰いたいのだが……」

「それでは、この書類に必要事項を書き込んで五番カウンターで申請して下さい」

「ありがとう」

 私は必要事項を書き込んで五番カウンターに提出。順番が来たので買取の倉庫に向かう。


「買取査定お願いします〜」

 奥から係のおじさんが出てくるが私を見つけると急に立ち止まって私をまじまじと見ている。じっくりと見られると恥ずかしいのだが……。そう言えば、このおじさん見覚えがあるぞ!?

「お嬢ちゃんもエンゲルッシュに来たのか?」

「ああ、ナンテスの組合にいた査定のおじさんだ……。えーと、名前なんだったけ?」

「ん?そう言えば、まだ名乗ってはなかったな。ナンテス組合の解体課課長のガエタンだ。例の魔物侵攻の前になエンゲルッシュの組合に出張で来ていたんだよ。そうしたらナンテスどころかフランチェスカ王国が占領されてしまってな。帰れなくなった所をここの組合の臨時職員として雇ってもらったんだよ」

「なるほどね」

「お嬢ちゃんも良く無事だったな」

「まぁ、上手く襲撃をかわしてなんとか逃げ切ったよ。それで今日こちらに来たんだ」

「そうだったのかい。で、ナンテスはどうなった?」

「魔族の襲撃があって直ぐに街を逃げ出したから、後でどうなったか様子は分からないな」

「そうか……」


 そんな感じで世間話という情報収集をしながら獲物は全て査定してもらったので当分イカを食べなくても良さそうだ。

「暫くはこの辺りで活動しているからまた来るよ」

「お嬢ちゃんも気を付けてな、フランチェスカからの避難民が多くて治安が多少悪くなっているからな」

「ありがとう」

 治安の悪さは先程経験済みだけれどな。


 私は受け取った代金を懐にしまうと組合を出て飯でも食べるかと食堂を探すことにした。

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