第三話 歴史を学び、未来を考える

 とりあえずアールヴ女王は私を歓待してくれるらしい。迎賓館に滞在しても良いと仰せられた。


 私が現在いる場所はアールヴ森林の首都レチェブエシにある迎賓館だ。首都レチェブエシは豊かな自然に囲まれた風光明媚な場所で桃源郷とはここの事かと思うような場所である。


 建築物も自然との調和に心を砕いている工夫が随所に見受けられる。日本だと住宅を建てる時には、斜めな土地ならまずは盛り土をしたり削ったりして造成して擁壁を作り水平な土地を作り出そうとする。


 ここアールヴでは斜めの土地はそのまま利用して階段状の建物だったり半地下だったりと、なるべく土地の形状を造成しないで利用しようとしてる。元からあった洞窟を利用して家を作ったり、その土地に元から生えている植栽はそのまま使うか移植してたりする。


 アールヴの迎賓館は東京赤坂にある迎賓館のような絢爛豪華なものではなくてヴェルサイユ宮殿内にある王妃の村里に近い佇まいである。つまり田舎の豪農の家とか軽井沢の貸し別荘とかを思い浮かべても良いかもしれない。


 度々、アールヴ女王から宮殿内(こちらも王妃の村里をさらに拡大したような場所である)にて催される茶会に招待されるので、茶会の席において話を聞く内に段々とこの世界の事情がわかってきた。


 今から一万と二千年前の世界では魔王を頂点とする魔族達が侵略の猛威を奮っていた。当時、人族を支配していた神聖ダンガン大帝国は魔族と対抗するために勇者召喚魔法を完成させて実行した。神聖ダンガン大帝国は勇者召喚して呼び出した勇者たちを奴隷として扱い無理やり戦争へと送り込んだ。勇者は基本的な能力も高く対魔族戦争に多数投入されて、辛くも魔王を倒して神聖ダンガン大帝国は魔族を退けることが出来た。


 魔王は死ぬと次世代の魔王に即座に転生(正確には魔王としての資質と能力を受け継ぐが、記憶は受け継がない)することが記録として残ってはいたが、勇者が魔王を討伐したときのみ転生するのが三百年ほど隔てることが確認されたのだ。


 三百年後に現れた魔王を神聖ダンガン大帝国は勇者召喚して討伐を繰り返していたのだが、今から三千年ほど前に神より勇者の扱いについて神罰がこの世界に下ったのだ。大地が突然裂け、突然隆起したり陥没したり気候が不安定になったり空間が歪んだりと天変地異が起きて一度築かれた文明社会が崩壊の危機に陥ったのだ。


 これは時空管理官の人が言っていた「時空因果律の乱れ」てやつかな?


 その後、国家基盤である大半の国土と国民を失った神聖ダンガン大帝国は滅亡して人族の国家は散り散りとなり再び魔王の脅威にさらされることとなった。生き残った勇者たちが奴隷解放を行い現在の諸国の基盤ができた。


 神聖ダンガン大帝国では一級市民、二級市民以外は全て奴隷として生かさず殺さずというという扱いのもとに奴隷身分の人族は過酷な状況にあった。そのために現在では奴隷制度は違法となっており最大の禁忌でもある。


 そして当時の勇者と神(時空管理官?)との盟約に基づいて勇者召喚を正しく行使。勇者の扱いも異世界からの特命全権大使として権利も対等と保証することになって現在に至るそうだ。


 私は勇者ではないけれど迎賓館に留め置かれているのも勇者に準じる異世界特命全権大使扱いだからのようだ。


 私がこの世界で危険はあれどもこうして高待遇なのは過去の尊い犠牲の上に成り立っているかと思うと過去の英霊に対して黙祷を捧げたい神妙な気分になってくる。


 アールヴ王の茶会に呼ばれない時、私は何をしているかと言うと散歩である。迎賓館から暫く歩くと川があり、川沿いを進んだ森の中に大きな湖と小さな滝があるのだ。


 私は辺りを索敵して周囲に監視の目がない事を確認すると駆逐艦を亜空間から呼び出す。八隻の駆逐艦を次々と亜空間からそっと出しては湖に浮かべる。流石に駆逐艦も大型になると進水する時は静かに実行する。


 呼び出した艦は〈アーレイ・バーク〉級である。〈アーレイ・バーク〉級は既に大量建造中であり、既にフライトIとフライトIIは建造も終わりフライトIIAを急ピッチで建造中である。今、呼び出したのはDDG−七一、DDG−七二、DDG−七三、DDG−七四、DDG−七五、DDG−七六、DDG−七七、DDG−七八の八隻である。


 海上自衛隊の護衛艦も建造済みで、〈こんごう〉型四隻、〈あたご〉型二隻、〈まや〉型二隻の八隻は建造済みである。


 既に建造済みの駆逐艦はレベリングを兼ねた定期パトロールへと送り出してある。各地で鋭意索敵行動中である。


 〈アーレイ・バーク〉級ではフライトIIAからヘリコプターを搭載できるが、〈あたご〉型と〈まや〉型はヘリコプター搭載型なので既にSH−六〇J/K哨戒ヘリコプターを運用中である。


 デストロイヤースキルも順調に育って今では、この場にいながらにして全艦隊の様子がわかるようになった。脳内戦闘指揮所CICとも言うべきものが頭の中に展開できるのだ。将棋の名人が脳内の将棋盤で将棋を指しているアレを想像して欲しい。まさにそんな感じである。


 脳内で展開できるとは言え実際には戦闘指揮所で指揮したほうが楽では有るので戦闘時に戦闘指揮所に入るのは今までと変わりはない。


 呼び出した駆逐艦から船乗り猫達が下艦して私の前に整列している。私付きの船乗り猫であるオスカーやブラッキーは式進行を卒なく熟している。私が各艦の艦長に〈イソナ艦隊旗〉を授与すると艦隊旗を頭上に掲げた艦長を先頭に乗組員乗艦して行く。各々の艦にて艦隊旗を掲揚すると任務のために次々と出港していくのを帽振れで見送るのであった。

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