06.アールヴ森林編

第一話 濃霧のガウンに包まれて

 霧深い森林の中を私はひたすら走ったが流石に息切れしたので大樹の根本に倒れ込むように座り込んで幹に背中を預けた。汗もびっしょりで流石に気持ち悪い。なるべく早くにシャワーを浴びたい。持ち出してきた背嚢から水を取り出して飲む。若干口の端からこぼれた水が喉元と鎖骨を経て服を濡らす。


 呼吸も落ち着いてきたので周囲の音に暫く聞き耳を立てる。特にドラゴンの咆哮とかは聞こえない。森の中なので鳥や虫の声が意外と騒々しい。


 森林の入口は一〇メートル前後の高木が立ち並んでいたが奥に進むに連れて樹高は高くなり私がいるところは一〇〇メートル前後はある巨木が立ち並んでいる。樹冠は遥か遠く霧によってよく見えない。地面には苔や茸が生えていたりするのが見える。


「オスカー、状況はどうなっている?」

(全艦隊修復不能です。現在作戦可能な艦は一隻もありません。至急初期艦を建造してください)


 オスカーから返答があったのでデストロイヤー・スキルは問題なく作動しているようだ。

さて、初期艦を建造する前に敗因を考えねばならない。


 まず、ドラゴンの間合いで戦ったのが問題だな。ドラゴンの攻撃範囲外から、つまりアウトレンジ攻撃出来ていれば良かったのだが、目視確認に拘ったのが主要な敗因だろう。


 駆逐艦の装甲なんて戦艦と比べたら紙のようなものだ。ドラゴンの攻撃が直撃したら大破は免れない。


 そもそもドラゴンをワイバーンと同じかちょっと上ぐらいと思っていたのも原因があるな。ワイバーンは四〇ミリ機銃や五インチ主砲で対処できたから何とかなると正しい戦力見積もりもしないで戦いに突入してしまった。ほんとに穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい……。


 再度〈フレッチャー〉のような旧式の駆逐艦を建造してもドラゴンに対して勝てるとは思えない。建造可能な駆逐艦のリストを改めて頭の中に思い浮かべて見る。


 先程のドラゴンとの戦闘でレベルが上って色々と建造できるようになっている。これなら行けるかもしれない。ドックも拡張されて最大八隻の同時建造が可能だ。


 他の敗因としては圧倒的な戦力不足だろうか。ドラゴン三匹に駆逐艦八隻では足りなかったように思う。最低でも今の三倍は欲しいところだ。もっとドラゴンが出てきたらさらに戦力が必要になる。兎に角建造を出来るだけする必要があるかもしれない。


 ドラゴンなどの強力な戦力がどれぐらいあって分布しているのかとかも調べないと不味いだろう。その意味でも索敵も強化しなければならない。


 とりあえず最小戦力だけでも整備しないといけないので八隻の建造を指示する。予定では明日までには最初の建造が終わるだろう。


 そんなわけでどこかで野営しなければ。もうすぐ日が落ちる時間だ。暫く野営に良さそうな所を探してみるが相変わらず霧が濃くてよく見えない。視程は一〇〇メートル程度なので濃霧と言ってよいだろう。霧の中を迂闊に歩き回るのも方向感覚が狂いそうで危険だ。結局は最初にいた巨木の傍で良かろうという事で戻ってきて再度辺りを確認した上で、ここを野営地とすると決めて準備をする。


 背嚢の中には戦闘配食として配られたサンドイッチにハンバーガー。補助食にチョコレートやキャンディーとガム。サンドイッチとハンバーガーは早めに消費するとしてチョコレートは行動食として食べるか。サバイバルキットには着火剤、防水マッチ、シグナルミラー、浄水剤、包帯、ミニコンパス、笛、マルチツール、ウェットティッシュ。追加でサーマルブランケットやポンチョも突っ込んできた。


 火を付けると虫とか寄ってくるので焚火は無しだ。出来れば虫除けにハンモックを吊りたいところだが今回はポンチョで我慢だな。夏とは言えど日本のように湿気が無いので夜になると寒くなるのでポンチョに包まっても蒸し暑くならないのは丁度良かった。


 事前情報によると魔物はこの森には何故か入らないそうなので魔物対策は必要ないだろう。一応、警戒用のブービートラップをフィッシングキットを使って仕掛けてからサンドイッチで軽く晩飯を食べてポンチョに包まって眠ることにした。


……


 早朝に目を覚ますが、相変わらず霧が深く立ち込めている。昨夜仕掛けたブービートラップには異常がなかったので解除して回収しておく。とりあえずハンバーガーで朝食を済ませてから地図とコンパスを取り出して確認する。現在地は不明なれど侵入した場所と方角から森の奥の方へ進んでみることにする。


 暫く歩いている内に薄っすらと陽の光を感じるようになってきた。霧が少し薄くなっているようだ。視程も広がり以前より遠くが見える。


 少し休憩して水を飲むために立ち止まり、水を飲みながら一息ついていると微かに音が聞こえる。虫や動物の鳴き声は以前から聞こえているのだが、その音に混じって音色のようなものが聞こえる。誰かいるのだろうか?


(提督、建造が完了しました)


 突然、オスカーから連絡が入って吃驚した。

「……建造が済んだのは何隻だ?」

(一隻目だけですが、あと数時間で全部の建造が完了します)

「引き続き頼む」

(アイ、マム)


 建造が済んだということは各種レーダーを使った警戒網も稼働しているということだ。

「オスカー、この周辺は探査しているか?」

(警戒はしていますが霧と樹木が多いので普段より精度は落ちます)

「進行方向から音楽のようなものが聴こえるのだが、そちらで何かわかるか?」

(レーダーでは微かに人工物らしき反応を幾つかは捉えています。提督が今いる森はアールヴ森林と呼ばれていましてアールヴ族が住んでいると言われています。確証はないのですがアールヴ族の可能性が高いと思われます)

「わかった、警戒の方もよろしく頼む」

(アイ、マム)


 完成した駆逐艦を出したいが森の中では狭すぎて出すのは難しそうである。暫くシャワーはおあずけだな。


 色々と気になることはあるが警戒しながら前進すると段々と霧が薄くなり森林も樹高が低くなり始めた。そして唐突に霧が晴れると同時に森を抜けたのであった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る