本編 最終話「デウスを手にした者」
「さて……どう逃げるか」
おおよそのダメージ計算した結果、秘策の地雷が発動したことによりアルのHPが残り3割弱だと予想する。
対して、俺のHPは1割くらいなので、何かしらの魔法に当たってしまうとゲームオーバーだ。アルもイグニスを当てればHPを一気に0まで減らせられるが……そこまでリスクを冒すくらいならば、当初の予定どおりに逃げ切って勝ちにいったほうが良いだろう。
「どこから現れるか分からん。気を引き締めていこう」
アルとしては時間をかけられないので、さっさと攻撃してくるはずだが……。なにか考え事でもしているのか。
辺りは毅然として混沌とした空間になっていた。火に毒にワープに爆発もする。HPが少ない俺からしたら、こんな危険地帯からは早く逃げたい、というか精神が持たない。
「来るなら早く来いッ!!」
――――ドゴォォン!!!!
その願いが通じたのか、言葉を発した直後に、近くの瓦礫がイグニスによる爆破で弾け飛んだ。
――――ドゴォォン!!!!
また別の瓦礫が魔法で爆破される。
それから、次々と魔法が連発されて周囲のモノ全てが魔法で消し飛ばされていく。
「俺に当たるまで全部壊す気か……?」
確かに今は俺とアルの二人のプレイヤーしかいないため、位置バレを心配することなく派手に魔法を使えるし、それに反して俺が魔法を撃ちに来たら軽く避けてカウンターを決めることだってアルなら可能なはずだ。しかし問題点が1つある。
「いくらなんでも魔法が足りないだろ」
そう、先程から戦闘は連戦で続いていて、さらに今みたいに考えず魔法を使い続けたら限界がくるはずだ。今もなお、爆発音が響き渡っている。
補充でもしない限りはガス欠に――――
――ま、まさか。
「あいつ……俺が出てこないと分かって8人の死体からドロップした魔法を補充したのか!!」
そうか、それならば魔法を切らすことなく瓦礫を破壊し尽くせる。さらにどこかで俺に当てることができれば勝ちだし、仮に当たらなくとも視界がクリアになるから俺を見つけやすくなる。
頭を使わない戦闘スタイルと思っていたが……実は頭脳派だったのか?
いや、何でもできる天才ってことか。
まずい、まずいぞ、こうなればアルの適当な乱射魔法に当たるのも時間の問題だ!!
「そろそろ気づいたかしら!! さっさと死になさい!!!」
――――ドゴォォン!!!!
俺が身を隠していた瓦礫のすぐそばで爆発が起きた。
いよいよ本当に危なくなってしまった。
どうせ隠れていても死ぬなら……
こうなったらもう、イチかバチかに賭けて正面から闘うしかない!!
―――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――――
――――――
―――
「参った、参った。大人しく出るよ」
次の瓦礫を吹き飛ばそうと手を伸ばしたが、突如、目的の人物が出てきたので撃つ方向を変更した。
「うお、危なッ!!」
渾身のイグニスがギリギリで躱される。
やはり、この距離で当てるならトニトルスだ、次はそうしよう。
「あーあ、あと少しで終わりましたのに」
次の魔法でトドメを刺そうと手をカイナに向ける。
「まあまあ、お前を褒めに来たんだよ、それくらい聞いてくれ」
そんなこと言っても……まあ、少しだけなら聞こう。
「なんですの、褒め言葉なら少しと言わずいくらでも聞きたいですけど時間が惜しいですのよ」
「まあ、じゃないと死ぬからな」
「ええ、だから早急に済ませてください」
「結局は聞くところ面白いよな、お前って」
当たり前の話だ。褒められるのに聞かないなんてありえない。それくらいの余裕はあるし、最後に気持ちよくなって勝ちたいし。
「この魔法の乱れ撃ち……何も考えてないようで、実は奥が深く作戦が練られていたことに驚いたよ、さすがだ」
カイナが感心したように告げた。
「ま、まぁそうよ。そこまで見抜いたのですね。お見事ですわ」
もう面倒くさくなったので全部壊せばいいやって思ったことは言わないほうがいいのだろう。
もう聞くこともないし、残りHPから計算して時間もないので早く終わらせよう。
変に避けられることも嫌なので、しっかりトニトルスで終わらせることにする。
「でしたら、褒めてくれたお礼に一撃で早く楽にしてあげますわ――
手の先から魔法陣が展開され、そこから一瞬にして生成された雷がカイナに向かって一直線に向かっていく。とにかく命中率と速度に関しては、原点にて頂点の初期魔法だ。何も構えてない状態から防御のためのアクアは間に合わないだろう。
「ああ、残念だけどそれは受け取れねぇな!!」
しかし、カイナはあろうことかこちらに向かって走り出した。
あまりに理解できない行動に不覚にも動揺してしまう。
「な、ちょ、なにしてま――!?」
何が起きるわけもなく、そのままトニトルスは空を切り裂いてカイナに炸裂した。だが、そこに残ったのは死体ではなく真っ二つに割れたエリクサーカプセルだった。
「空間が歪んでいますわ……まさかッ!!」
ワープ魔法が封印されたエリクサーカプセルを盾にトニトルスを防いで、そのまま割れて発動したワープ魔法でどこかに移動したというの……。
エリクサーカプセルは私の最上級魔法とカイナの最上級魔法で軒並み壊れたと思っていたが……もしかして、この使い方を予想して予めデバイスに収納していたというのか……。
さらに、少しだけ動揺してしまってカイナのワープ先を見失ってしまった。しかし、このまま隠れられたらHPがいずれ0になってしまう。
「仕方ないわね……頭が痛くなるから使いたくなかったけど、そう言ってられませんわ」
アルはほんの数秒、息を整えて瞑想をする。その瞬間だけ、偶然か否か、時が止まったかのように静寂が訪れた。
「……ブースト」
アルのブーストは特に視覚を強化する。その視力は人間のそれを軽く凌駕し、双眼鏡や倍率スコープを使っているかのような狙撃を可能にする。
それだけではなく、アルはブーストした時だけとある特殊能力が解放される。
それは『
まるで空高く飛んでいる鷹が地を見るように、その空間全体を見渡すことができる能力だ。極稀に現実世界でも才能が開花する人間が存在するが、アルの場合はブーストで無理やり潜在能力を引出す。
「……上ですわね!!!」
ホークアイでカイナを探した結果、なんとアルの上空にワープしていた。つまり、隠れていたわけでなく、上空から落下しながらアルにトドメの魔法を撃とうとしていたのだ。
「くそ、喰らえぇ!!!」
「
アルはカイナの何かしらの攻撃に対して反射的に雷魔法を放つ。その矛先はカイナが投げたエリクサーカプセルに向かってしまった。
またしてもエリクサーカプセルが砕け、次は――毒ガスが放出された。
勢いよく放出されたガスはアルの周囲をあっという間に包み込んだ。その効果によってアルは毒状態になってしまう。ソルイグニスの延焼ダメージに加え、毒状態による継続ダメージが重なり、さらにアルのHPの減少スピードが増した。恐らく、残された時間は……
――あと10秒。
「
さらにカイナから追撃の魔法が放たれる。
「
その魔法を受けてしまったら一撃でHPが0なのでアクアで防御する。
――あと9秒。
アクアとイグニスが衝突し、その爆風でカイナが離れた位置まで飛ばされる。
イグニスを避けていれば、カイナも毒ガスに突っ込んで先に死んだだろうが、毒ガスがイグニスの火と反応して化学反応を起こさないとは限らない。仕方なくアクアで対抗したけれど、結果的にカイナと私の間に距離が空いてしまった。
一体、どこまで計算して戦っているのか、この男は……。
――あと8秒。
しかし、カイナが空中から着地時の、すぐに魔法を撃って対抗できない瞬間を狙って魔法を放つ。
「
――あと7秒。
「くッ!!」
カイナが、魔法を撃つ隙がないと察して、咄嗟にデバイスを盾に魔法を防ぐ。
――あと6秒。
カイナのデバイスから異様な機械音が鳴り始めた。恐らく、もうカイナは魔法を使うことはできない。
――あと5秒。
残り時間がもうない。イグニスを撃つと毒ガスが反応しかねない、アクアだと避けられる距離、ならばやはりトニトルスしかない。
――あと4秒。
「もう終わりよ!!
まっすぐ、一直線に飛んでいく。この距離ならば外すわけない。さらにデバイスが使えないので防ぐ魔法もなくエリクサーカプセルも使えないだろう。
つまり、私の勝ちだ。
――あと3秒。
「くそぉぉぉ!! なにか、なにかない――!?」
近くで何か見つけたカイナが、トニトルスの直線に投げ込む。
それは……燃えている鉤爪だった。
――あと2秒。
鉤爪と雷撃が衝突し、雷撃の軌道が変わった。
当初の目的と違う方向に逸れてしまったトニトルスは、カイナのわずが右を突き抜けていった。
――あと1秒。
「どこまでしつこいのよ!!!!!」
「早く倒れろぉぉぉぉぉ!!!!!」
もう何度目か忘れた最後の魔法を放つ。
「
早く、速く、疾く、はやくハヤクはやく!!!!!
「くそがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
風を裂いて眩い雷が……カイナに――
――――直撃した。
「……どうやら、私の」
「……ああ、俺の」
第一回デウス杯を制した優勝者は――
「――勝ちだな」
「――負けのようですわね」
カイナだった。
――――WINNER『閃光』――――
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