エンディング

 アフターストーリー


「しっかし、我ながらよく勝てたと思うわ」


「うん、ほんとにギリギリだった」


 あの激闘から数日後、俺と晶ちゃんは学校の屋上で昼飯を食べながら、例の大会の振り返りと反省会をしていた。もう何回も話した内容だけど、いくら話してもあの瞬間の興奮と熱は未だに冷めない。



 あの大会に優勝した後、デウス杯を中継していた生放送に呼ばれインタビューをされた。

「あの瞬間、何を思いましたか!?」「ここで選択した理由は!?」「最後の決め手はなんでしょう!?」「カイナ選手、やはりアーテルさんを想って……はいアーテル選手すみません睨まないでください怖いです」

 とにかく大会は大盛りあがりだったようで、『ライゲキ』もゲームの良い宣伝になったと大喜びだろう。


 アルとグレイは次の対戦でリベンジをすると燃えていた。特にアルは「これで勝ったと思ったら大間違いですわ。次は確実に殺しますので覚悟してください」と本気で対抗心を宿していた。まあ、結局はいつもどおりというやつだ。こちらとしても負けるつもりはないので、望むところだ。……でも少しは休憩させてほしい、半年くらい。


 マジック・デウス・オンラインは近日リリース予定らしい。特に目立ったバグはないようなので、制作も最終調整だけだ。1つ余談として、デウス島で1番高いビルの屋上に「マッチョ」と呼ばれるプレイヤーが取り残されていたらしく、なんと地下の戦いが終わったあとも生き残っていたとか。島が沈んだ後は陸上のプレイヤーは全員リタイアした設定だったので俺らが優勝だったが、もしその設定がなければマッチョが優勝だったのだ。ネット民から「真の優勝者」として騒がれているらしい。なんと面白い喜劇だろうか。



「あの最後のトニトルスが当たったとき本気で負けを覚悟したけど……どうやらアルがトニトルスを撃った瞬間にアルのHPが0になったんだよね」


「そう。先にアルのHPが0になったから海那が勝ったんだよ。まあ、私が死ぬ直前に手持ちの武器の所有権を手放したから勝ったようなもんだけど」


「はい、大変助かりました、ありがたや~」


「……なんかムカつく」


 勝ちが決まる数秒前、腕のデバイスを盾に魔法を防いだ時、自分が悪手を指してしまったと後悔した。しかし諦めきれずガムシャラに何か探したら、そばにテルの武器が落ちてあって……最後までテルに助けられたことに感謝しつつ、やはり俺1人では何もできないと悔しくもあった。


「ほんとに感謝してるよ……ありがと。やっぱ俺はよわ――」


「俺は弱い、とか言ったら殴るよ?」


「――え?」


 晶ちゃんの予想外の言葉に、思わず言葉が詰まる。


「あの最後の、アルとの戦いは紛れもなくカイナの力でもぎ取った勝利。そこに私の手柄も多少あったけど、少なくとも、カイナが弱かったら即死だったから。アルのパートナーをしていた私が保証する」


「晶ちゃん……」


「まあでも、私より弱いけど」


 やっと、やっとここまで登りつめた。やっと強いと認めてもらえた。彼女にゲームは楽しいものだと、重い物を背負いながらすることじゃないと、ブーストなんか危ない技は必要ないと証明できる日が、俺がアルより強いと証明できる日が近づいた。


「じゃあ、次は別々で……シングルで戦おうぜ」


 俺らは優勝チームとして様々な報酬を受け取り、次のMDO第二回デウス杯の本戦シード権(次回から本戦前に予選を開催するため)を獲得した。しかしそのシード権は別にダブルスの大会でなくとも、シングルでもいいと説明された。

 つまり、次も必ずダブルスの大会に出ないといけない、という縛りや道理はないのだ。


「……ふーん、私に勝てるって?」


「じゃなきゃ、わざわざシングルに出ないさ」


 俺がどれだけ強いのか、1人でどこまで勝ち上がれるのか、試してみたくなった。



「いいよ、泣いても許してやらないから」



「それはこっちのセリフだ」



 口調は怒っているのに……晶ちゃんは笑っていた。




 その時点で……もうひとつの俺の勝利が決まっているのだ。




「じゃあ、さっそく家に帰ったらゲームしようか、海那」





 ―――END―――

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