第11話 計算された戦闘②

「おい! 武蔵、大丈夫か!?」


 正面の家からイグニスが爆音を鳴らして衝突した二階に向けて叫ぶ。


「大丈夫だ、ただ多少ダメージを負ったから回復してそちらに向かう」


 どうやら痛手は負ってないが、相手が相手なので慎重に回復していくのだろう。


 狂犬が向かい側の家から魔法を放ったことを確認したため、俺は再び魔法を打ち返すことにした。


「犬っころ出てこいや! Ignis火よ!!」


 例の家の1階にある窓ガラスに火球を打ち放つ。いくら初期からある魔法といえ家を焼き壊すくらいの威力はあるので、さすがに篭ってられないはずだ。


 すると予想通りに、イグニスが衝突する寸前、家から人影が出て裏路地に走っていく様子が見えた。


「チッ!」


 イグニスが家に衝突したことで煙と埃が舞う。それにより姿を見失ってしまうが、リソースはこちらが有利と考えたので追いかけることにする。そうでないと逃げる理由がない。


「待て! 逃げんのかおい!!」


 細い路地を走り抜ける。住宅街の中からビルとビルの間のような道に抜け、響く狂犬の足音を頼りに突き進む。


 突然、足音が止んだことに気づき、次の曲がり角を慎重に覗くと、その先は行き止まりで狂犬は立ち尽くしていた。


「はっ、運が尽きたな、犬。もう終わりだ」


「終わったのは……」


 驚いたことに、狂犬はこちらに向かって全速で走ってきた。


「テメェだよ!!」


「なっ!?」


 なぜこっちに走ってくる? 魔法の餌食になるだけだろ……何かあるのか。


「くそ! 訳が分からねえ! Ignis火よ!」


 考える暇が無いので1番有効打であろうイグニスを打つ。この距離と路地の細さなら避けることは不可能に近いはずだ。


「ははは! かかったな!! Aqua水よ!!!」


 奴は口角を上げ笑いながら、俺のイグニスに向けてアクアを走りながら放つ。あらかじめ打つ準備をしていたかのような口振りで反撃してきたのだ。

 当然、イグニスとアクアはお互いに引き合うかのように近づき……そして衝突した。


 火の魔法と水の魔法がぶつかり、辺りを水蒸気が満たす。そう、現実と同じ自然の摂理によって火は水によって掻き消されたのだ。

 しかし火は変えても水は残る。多少、小さくなったが、俄然速度は変わらずこちらに向かってきた。

 予想だにしない出来事に、俺は身動きができずにアクアに直撃する。

 

 そしてアクアの付与効果により、俺は後ろの路地壁にぶつかるまで弾きとばされた


「ガハッ!」


 勢いよく壁に衝突したことによりHPが3割ほど減る。

 このままでは一方的にやられる未来が見えたので、すぐさま起き上がり先ほどとは逆の道へ大通りに抜けるため走った。


「待てやコラァ!!」


 後ろからただのヤクザが追っ掛けてくる。まるで闇金業者に追われるドラマの主人公になった気分だ、べつにいい気分ではない。


 こちらの手札はイグニスとアクア。対して狂犬も同じ魔法だ。よってお互いに有効打がない。こちらがイグニスを打つと奴はアクアを放つ。アクアとアクアは相殺すると俺は予想しているので、今は逃げ続けて他に手がないか探すことが正解だろう。


「よしっ、もうすぐ大通りに抜ける」


 大通りに抜ければ他のチームと当たるかもしれない。そこから混戦を狙うもよし。もしくは家やビルを渡り隠れてやり過ごすもよし。とりあえず選択肢が増えることに変わりはないので、この状況を覆すことも出来るはずだ。


 思考をしながら大通りに抜ける直前、狂犬は今日1番の不気味な笑みを浮かべる。


「バカが。いったれ、アル」


 何か罠なのかと疑いながら大通りに抜けた途端、何もないはずの左側通路から雷の魔法が飛んできた。


「バカな!! いつのまに!?」


 しかし今日の俺は冴えていた。顔を向けるよりも気配で先に危機を感じ取れたことで、魔法が当たるまで思考できる余裕が生まれたのだ。予想よりも遠くから飛んできていた雷は、確か真っ直ぐにしか進まない魔法だったはず、と思い出せたことにより当たる数秒前で身体を捻り倒して交わすことに成功する。



 その瞬間、空中でおおきく円を描きながら軌道を変え再びこちらに向かってきた。


「なっ……に!?」


 一度目の雷を避けるため姿勢を崩しているので、そのままなす術なく雷の魔法の餌食となっていく。


「がッ……身体が」


 これは雷魔法の特性だろう。HPが1割ほど現象し、一時的に身体が痺れて上手く動かせない。その影響で狂犬に追いつかれてしまうが、仮に魔法を撃たれてもまだHPギリギリ残っているはずだ。その魔法を受けたことによる反動でどうにか逃げ延びようと考えていたのだが……その希望は狂犬を見た途端に諦めがついた。


「新武器、試させてもらうぜ!」


 奴は手にを握りしめ、動けない俺に向かって大きく振りかざす。


「くそ、負けか」


 その切っ先が腕にかかり、血の代わりに赤い光の粒子が腕の切り口から溢れる。

 さらに雷斧の効果か、腕が痺れて動けない。


「なるほど。威力は無いが切った部位が痺れるってことか。こいつは良いモノを貰った」


 狂犬が俺を実験台に様々な方法で切りつけ、やがてHPが残り少しになる。

 死に際に聞きたいことを話してみることにした。答えてくれるかは知らないが。


「おい、あの雷の魔法はなんだ」


「あー、もう死ぬなら教えてもいいか。あれはLyzer雷撃よ。おそらくTonitrus雷よの上位魔法だな。見た感じ速度が低下した分、追尾機能が追加されているんだろう」


「打ったのは女王だと予想できるが、どこからだ? まるで読めなかったが」


「あそこに一番でっかいビルが見えるだろ? あそこの屋上から。事あるごとに俺が合図を出して位置を確認させたりして微調整はしていたけどな」


 ば、バカな。ゆうに1kmは離れているんじゃないか。そんなところから狙撃をしたとしたら化け物だぞ……。いや、そうだった。こいつらは揃って化け物だった。


「……すべて計算のうちってか」


「あんたが奇襲を仕掛ける前からこの展開を想像してた。2階の仲間の位置をアルに把握させるために魔法をぶつけ、わざわざ路地に追い込み大通りに出させたり」


 初めから、俺らは狂犬の手の中だったらしい。


「……これ以上切ると、武器の耐久値が危ないか。あばよ、Ignis火よ


 最後は、豪快に魔法を解き放たれてHPを0にされた。




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