第10話 計算された戦闘①
「あー……これがあいつの言っていた家か」
ビルから降りて、アルが確認した赤い屋根の家に到着した。言っていた通りに一部の壁が不自然に破壊されていることから、敵が戦闘を行った後か下手くそが試し打ちした蹄跡だろう。もしくは……。まあとりあえず中に入って確認するとしよう。
「お邪魔しまーす。誰かいないですかー」
ゲームの中とはいえ礼儀は大事だと思ったので玄関から入る。一応、挨拶して聞いてみるも返事はない。まぁ当たり前か、いてもいなくても返事をするわけない
ズカズカとお構いなくリビングに入るが、中は荒れ果てていた。おそらくこれは初めからの設定だろう。戦争の途中って話だから多少は荒れているはずだ。
「さてと、どこに行きやがった……」
俺は細心の注意を払いながら奥へ進んでいった。
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「よしよし、そのままこっちへ来い」
1人のヤンキーが目の前の部屋まで迫ってきた。
さきほど別の奴と戦闘をした際にイグニスを壁にぶつけて破壊したことが良くなかった。かなり大きな音がしたので別のプレイヤーが近づいてくると予感したが……見事に当たったな。
ここで近づいてくるプレイヤーは自分の力に自信がある奴しかいない。わざわざ近づいて戦おうとするくらいだからな。相手が罠を仕掛けたり奇襲をしてきても勝てると思ってるわけだ。現に俺が隠れて奇襲をしようと思っているわけだし。
部屋の押入れで息を潜めて待っていると、詳しく顔がはっきり分かるくらい近づいてきたが……
「こいつは驚いた……ブラッドオーシャンの狂犬か」
赤のメッシュ、鋭い目つき、誰もが知っている、
いや、ここはチャンスと考えるべきだろう。ここで優勝候補を仕留めることが出来るのはラッキーだ。こちらは仲間が上の階で待機しているので2対1で数的優位だし、さっきの倒した奴らから奪った魔法もあるのでリソースも有利。いくら伝説のチームの一員だったとはいえ、もはや過去の産物。万が一戦力差があっても、それを上回るくらいこちらにはアドバンテージがあるはず。
「よし……こちらに背を向けた瞬間に魔法をぶち当ててやる」
息を整え、必ず当てられるタイミングを逃さないよう静かに待つ。
奴が身体を背けた……
顔も後ろを向く……
…………
いまだ!!!!
「くたばれ!!
詠唱と同時に、手のひらから燃え盛る火の球が勢いよく放たれる。
気配を消しつつ後方からの奇襲、いるはずのない場所からの魔法、これは必ず当てられる位置だった。
しかし……
「なッ!?」
奴は分かっていたかのように俺に対して後ろを向きながら左へステップを踏み、窓を突き破り家から脱出した。その反応は、初めから打たれると分かっていないと出来ない速度だった。やがて当て先のないイグニスが又もや家の壁に轟音を鳴らしながら衝突する。
「なんで反応してんだよ!! くそが!」
狂犬が逃げた先に慌てて向かう。こんな二度とないチャンスを逃すわけにはいかない。
「どこだ! どこに行きやがった!!」
外に出て辺りを見渡す。まだ近くに必ずいるはずだ。
「おい! 武蔵! 敵がいたがどこにいったか分かるか!?」
俺の声に反応して、2階にいる仲間がここからだと視えない位置の窓から顔を出す。
「すまん、見逃してしまった! そっちは窓がないから死角なんだよ、逃げられた。別の窓から急いで確認したんだが――」
「そこにいたか死ね!!
突然、敵が武蔵に向けて炎の魔法を放った。
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