第9話 無言の信頼
「それで、何か良いものは見つかったか?」
「もちろんですわ、この私が何も戦果を持ってこないわけないでしょう」
自分たちがスタートに配置された高層ビルの内部探索をそれぞれ終え、約束通り15分後に再び屋上に集合した。
どうやらアルはレアなアイテムを拾ってきたらしい。この女、容姿も頭脳も家柄も全て完璧で運すら味方につける最強人間だったの忘れてた、逆に呆れる。性格だけ劣ったのは、むしろ才能なのでは?
「……なにかバカにしたわね?」
「なんもねぇよ。すげえって尊敬しただけ」
「あら、それはありがとう」
思考まで読んでくるのやめろや、ほんとに。心臓に悪すぎるだろ。
「んで、何を手に入れたんだ?」
「聞いて驚いていいですわ! この魔法ですわよ!」
デバイスから操作して俺に見せてくれた。この魔法は……ははっ、なかなか面白いじゃねぇか! こいつにピッタリだぜ!
「そしてこの武器も拾いましてよ。これはグレイに差し上げますわ。私は絶対に使わないから」
その武器は、まぁゲームでよく見る代物だが、まさか魔法以外に攻撃手段があるとは思わなかった。この武器は割と得意な部類なのでありがたく頂戴することにする。
「ありがとよ。魔法や武器の受渡しは可能らしいな。残念ながら俺は何も手に入らなかったからお礼はあげれない」
一通り探したが何も見つけることが出来なかった。ドロップ品はかなりレアモノだと見て間違いないだろう。
「ちなみに、どこで手に入れたんだ、これ」
「魔法の試し打ちをしたら壁に穴があいて隠し部屋があったからそこで拾っただけですわ」
「なにその運の良さ、もはや怖いわ!」
しかし今のアルの話を聞いて分かったこともある。
「おそらく魔法や武器のドロップ品は見つけるのが難しいとみて間違いない。そして、魔法や武器によって破壊して見つかる部屋や空間に何かドロップしてある可能性が高いな」
となると、さきほど探索中に開かなかった部屋に何かあるかもな……時間があれば調べたいが、先にすることがある。
「なぁ、2〜3分前にあった爆発音はお前じゃないだろ?」
「ええ、間違いなく敵ですわね」
屋上に集合する途中、微かだが爆発音が聞こえた。俺の予想だと誰かが魔法で戦闘したか破壊したかだ。どちらにせよ敵が見つかったのでやる事は1つだ。
「……やるか」
「殺しますわよ」
こういう時のアルは頼もしい。とりあえず意見が合致したので、まず屋上から敵の位置の把握を試みる。
しかし屋上を一通り一周し、人影を探すもまったく見つかる気配がしない。
「うーん、まじで何も見えねぇ。なぁ、お前の眼なら何か視えるだろ?」
頼られたアルが断ることは決してない。それは自分で自分の可能性を捨て諦めることに繋がり、そんなことは女王様のプライドが許さないからだ。よってアルは現代において禁忌の技に手を犯す。
「当たり前ですわ」
少し集中したアルは、左眼に手を当てる。
数秒後、指を開いた隙間から覗く眼が限界まで開く。
「……ここから2時の方向、割と近い。赤い屋根で二階建ての一軒家、一部の壁が崩壊してることから敵が潜んでいた、もしくは周囲の家に潜んでいる可能性があるわね」
まじかよ、やっぱ視えんのか。ほんとチート級にズルい眼で笑ってしまうぜ。
「ふぅ。それで、どう戦うの? 早く計算して」
「はいはい、ちょっと待ってくれ女王様」
アルが頑張ってくれたので、仕方なく俺もブーストして戦略を何十手か考えることにした。
「…………」
「…………」
「まだかしら?」
「おっしゃ、ならこういうのはどうだ?」
俺は考えた58手のうち最も可能性があり勝率が高そうな戦術をアルに説明して提案してみる。
「そうね、それでいきましょ」
「……なにも言わねえのかよ」
「貴方の考えたことに、もはや私が口を出すことはないわ」
高圧的な信頼を受け取り、少しだけ照れ隠しをしてしまう
「はっ、褒め言葉として受け取っとくか」
なんか恥ずかしくなったので、俺は無言でビルの階段を降りることにする。階段に繋がる部屋の扉を開ける寸前、少しだけ後ろを振り向いた。
アルは腕を組んで背を向けていたが……笑っていた気がした。
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