第8話 女王と狂犬


 「さっそくカイナを見つけて殺しますわよ!!!」


 金髪美人の麗しきお嬢様が、ゲーム開始するや最初の言葉が殺害予告だった。あまりのギャップにMDO実況視聴者は驚きを隠せないでいたが、昔から彼女を知っている古参は「いつもどおりだな」と頷いているだろう。

 なぜなら彼女「アル」は現実の姿を一切変更しないのである。つまりどのゲームにおいても同じ姿で変わるのはゲームごとの衣装や特殊装備くらいだ。よって、様々なゲームで名を響かせているアルは強烈な性格も相まってVR界の有名人であり、だいたいの参加者や視聴者には顔が知られているのだ。


「うるせぇなアル!! このビルから突き落とすぞ!」


「うるさいわね、グレイ。もうちょっと静かにしてくれないかしら」


「それはこっちのセリフだっての……」


 隣にいる狂犬のような鋭い目つきの男がアルに文句を垂れた。髪の毛は赤のメッシュ入りのオールバックで身長はやや高め、誰がどこからどうみても不良と見てしまう姿だ。

 そして「グレイ」と呼ばれるこの男も同じような立ち位置にいる。つまり現実と姿を変えずにVR界のゲームを力で荒らしてきた有名人である。「女王」「狂犬」と言えばだいたいの人がアルとグレイのことを言うはずだ。



「てか何でなんだよ、わけわかんねぇ……」


 その通り、彼らがいるのは高層ビルの屋上だった。周囲のビルよりも一際目立つ建物で、そこら一帯の建物と比べると圧倒的に高い。

 そんなビルでお嬢様と狂犬が叫んでいるのだ、観てる人間は面白いに決まっている。


「でも考えてグレイ、幸い空は晴れてて見渡しは最高でしてよ。ここからだと、この戦場を一目瞭然できて地理も把握。そして敵も探索できて素晴らしいスタートを切れますわ!」


「……辺りは街しかないがな。街の端っこならまだしも、どうやら都市の中央にいるから他の地区があっても確認が無理。しかも高すぎて下が全然見えねえから敵の探索も難しいが何か他に最高のスタートの理由はあるか?」


「ま、私たちのハンデとしてはちょうどよくってよ」


 グレイから全否定されてもポジティブに捉えたので凹む姿勢が少しもなかった。



 しかしながら困ったこと状況は変わらず、しばし2人は考えてグレイが提案をする。


「まぁしかしながら利点は2つある。1つは敵から奇襲がないことだ。これのお陰で手元の謎デバイスからゲーム情報をゆっくり探せるかもしれない。さらに建物に隠れて敵が減るのを待ち続けることも出来るな。安全な方法だ」


「確かにそうね。二つ目は?」


 アルが腕を組み考えながら頷く。豊満な胸が組んだ腕に乗り、何とも絶妙な色気が漂うがグレイは気にせず会話を続ける。


「敵から奇襲はないが、上空から敵の奇襲はできる」


「決まりね、早く敵を探しますわよ」


 アルが少しも考えることなく即答で返事をした。


「だよなぁ〜。嬢様なら隠れるなんて面白くないこと絶対にしないよな〜」


「もしかして貴方、反対なの?」


「バカか、賛成に決まってるだろ」


 見た目が対の存在で意見が食い違うように見えるが、しっかり合致するあたり今までチームとして組めているのが理解できる。


 2人の意見が合い、戦いに行くためにビルを出ると言いながらも、しかしながらグレイは、アルの意見を聞いた上で至極落ち着いて戦況と今から成すことを分析する。


「だがやはり、この落ち着いて詮索できる状況を逃すのは勿体ない。戦いに行くのは決まってるが、今回は情報が余りに無さすぎる。ビル内の探索をしながら窓から周囲の敵を捜索し、15分後にまた屋上に集合しよう」


「それがいいわね。さすがグレイ、やるじゃない。さっそくビルの中に入って調査するわよ!」


「めっちゃ上から目線だけどアンタ何もしてないぞ」


 ため息をつきながらも、渋々とグレイはビルの調査を進めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る