第18話 外の力


「ハアアアアァァァ――覇ッッ!!」


「あッぶねぇ!!!」


 一直線に飛んできた突進を勘で躱す。あまりに疾すぎる動きに眼で追うことは不可能だった。通常ならここまで速いわけではないが、助走と岩山から降りてきた重力までも利用してのスピードだろう。


「くらえ! Ignis火よ!!」


 間を空けることなく火の魔法を放つ。この至近距離なら当たる――


「甘いぞカイナァ!!」


 獄炎寺は俺が魔法を放った時には

 よって、そのまま火の球は虚しく空を燃やし岩壁に衝突する。


 すると獄炎寺は、魔法を打つために伸ばしていた俺の腕を左手で掴み強烈な力で引いた。さらに身体を捻りながら右手で腹を勢いよく上方へ殴り飛ばす。


「がはッ!」


 この行為自体にダメージはほぼ発生しない。ここは拳で乱闘するゲームであるまいし、魔法でダメージを受けるようにしないとゲーム性が崩壊するからだ。しかし、俺の体勢を崩すことに十分な攻撃なのは変わりがなかった。


 つまり今、


 魔法を外してしまった俺は


 獄炎寺の体術を受け空中で無防備なわけで――


「吹き飛べ、Ignis火よ!!」


 避ける間もなく火の魔法をモロに受けてしまい、爆風で俺は吹き飛んで近くの岩に衝突した。


「ハァ……ハァ……っんだよ今の体術。外の力チートを使いやがって」


 HPが4割ほど削られていた。Ignisと岩に衝突した時のダメージが合わさってかなりの痛手となった。これ以上、まともに魔法をくらうとマズイな。

 しかし、結果的に距離を取ることに成功した。至近距離じゃ獄炎寺の得意なテリトリーだと理解したため、俺は遠距離からどうにか工夫して魔法を当てるしかない。


「ふむ……今のは空中ではなく地に叩き落とすべきだったか」


 たしかに、それだとマジでヤバかったかもしれない。


「残念だったな、俺を倒せなくて」


 さてどうする、どうやって魔法を当てる。変に見通しがいい場所を選んでしまったから隠れる場所が少ない。どうにかして煙でも立てたい……!? 


 そうか!


「ならば、今から実行するまで!! 次は逃さんぞ!!」


 獄炎寺が全速力でこちらに走ってくる。その顔は気迫に溢れており、確実に俺を処さんと殺気立てていた。それに対抗すべく、俺はイグニスを放つため腕を伸ばし獄炎寺に手のひらを向けた。


「なんどやっても同じことだぞ!! そんな分かりやすい軌道なんぞ容易に避けれるわぁ!!」


「ああ、別にお前に当てるつもりなんかねぇよ!! Ignis火よ!!!」


 俺はそのままイグニスを獄炎寺が走ってくるだろう地面へ向けて放った。


「なに!?」


 虚を突かれた獄炎寺はイグニスに衝突しないよう急停止する。そして俺が放ったイグニスは獄炎寺の目の前で地面に衝突して抉り、俺と獄炎寺の間に岩の破片が降り注ぎ土煙が互いを包む。


「なるほど、目眩ましか、考えたな」


 煙の向こうで獄炎寺が呟く。その間に俺は足音を消して気配を消した。


「何か企んでいるつもりだろうが、無駄だ。私は何も見えないが、カイナも私の姿が見えまい。煙が沈んだときが最後よ」


 ここで魔法を闇雲に打ったとして、もし外した場合、自分の位置だけが相手に伝わることになる。そうなれば奇襲は防ぎきれない。

 しかし、このままじっとしていると土煙が晴れてまた振り出しに戻るだけだ。


 ジリジリと時間が経過していく。土煙も徐々に落ち着いてきて、青い空が見えるほどまで沈んできた。


 ここで俺は危ない賭けにでる。予想が正しければ俺の魔法は当たる。ただひとつ、信じるものは――


 …………コツッ


「そこだぁぁ!!! そこらの石でも蹴ったか!!」


 ――こいつのバトルセンスだ。


「お前なら石音ひとつでも聞いて突っ込んで来ると思ったぜ!!!」


 獄炎寺は俺があえて蹴った小石の音を聞いて、まっすぐに突っ込んできたのだ。どこから獄炎寺が来るか見えないが、こいつはイグニスのあと、じっと動かず聞き耳を立てていたに違いない。そう考えた結果、俺は変わらず身体の向きは変えずに、腕をまっすぐ上げるだけでいい。


 つまり、予想が的中した今の状況は、獄炎寺が急に目の前に現れたが、俺はあいつの顔の前で手の平を向けている


 そして放つ魔法は――


Tonitrus雷よ!!!」


「ごばぁ!?」


 速く、確実に、さらに至近距離で頭を狙える魔法だ。

 さらに二度目の痺れた獄炎寺にさらなる追い打ちをするため、アクアを放った。


 叫び声を上げながら吹き飛んでいった獄炎寺は、向かい側の岩山まで止まることなく激突する。


 さすがアクア、めちゃくちゃ飛ばすじゃん。これであいつも俺と同じくらいHPが削れたはずだ。



 さて、次は何してやろうと考えていると





 いつのまにか隣にテルが立っていた。





「ふーん、やるじゃん。あいつに殺されなかったんだ」


「うん、まあ、痛み分けだけど。……あれ、炎将寺は?」


 たしか、『こいつは俺の獲物っす! グヘ、グへヘ』(カイナの偏見により多少キモさが上がっています)って言いながらテルを追っかけていたと思ったんだが。


「は? 私を誰だと思ってんの??」


「あ、はい、すみません。さすがっす」


 まじか、もう倒してんのかよ、はやっ!

 かなり苦戦している自分が恥ずかしくなる、と同時にテルの強さに惚れ惚れする、ぐへ、ぐへへおふッ!!


「なんかキモい、はやくあいつ倒すよ」


 横腹をドツかれてHPが減ってないか確認していると、岩山にめりこんでいた獄炎寺が起き上がって腕を組んで岩山に立っていた。



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