第19話 閃光の実力

「おい、待ちやがれ女!!」


 バーニング兄弟に完全な不意を突いたと確信した直後、兄の獄炎寺が急に振り向いてイグニスを放ってきた。いつから私の存在に気付いていたのか……。

 辛うじて避けることができたが、アイツに安易な接近戦は危ないと知っている。なので一度距離を置くため走って後退した。

 しかし私とあのバカカイナを近づかせないようにするためか、弟の炎将寺がしつこく後ろを付き纏ってくる。


「しつこい男は嫌われるって知ってる?」


「はっ、だから何だってんだ! 兄貴に認められればそれで十分!!」


 くそ、ブラコンめ。どうやら先に弟を仕留めないとカイナと合流できそうにないようだ。


 ……仕方ない、手っ取り早く済ませるか。


「はぁ……。わかった、さっさと戦ってやるから武器なり魔法なり構えて」


 仕方なく炎将寺との対決に付き合ってやることにした。このままじゃ埒が明かないし、逃げ切るより倒したほうが早いと思ったからだ。


 けど――


「ふん、やっと戦う気になったか。さぁ、では勝負といこうか!! バーニング兄弟の弟、名は炎将寺!! いざ尋常にショおおおお!?」


「ちッ、外したか」


 ――正々堂々と勝負なんかしないけど。


「いきなりイグニスってヤバいだろお前。せめて最後まで言わせろや」


「スキを見せるほうが悪い」


 あわよくば当たって死ねと思って打ったが、ギリギリで躱された。


「短期決戦を望んでいるのか、なら好都合だ。俺も早くお前を倒して兄貴と合流したいからな」


 すると、炎将寺がデバイスを操作する。

 私も短期決戦を望んでいるのでありがたい。たぶん、カイナは獄炎寺に苦戦しているはず。早く支援しないと。


「もう最初から全力で行くぞ。さっき手に入れた最強武器で!!」


 炎将寺は、両手で火を纏った大剣を握っていた。鞘は既に抜いていて、いつでも私を切れる状態で待機している。

 私も対抗すべく、炎の鉤爪を両手に装着する。この武器であの剣を直に受けきれるのか怪しいな。受け流して躱すしかない。


 それに支援物資から入手した武器なら、ただの大剣じゃないはず……


「なら……いくよッ!!」


 地を強く蹴り、身体を前傾姿勢で炎将寺に突進する。まず先手を取って、こちらが有利になるよう展開を進めていきたい。さらにアイツは大剣という強力だが俊敏性に欠ける武器なので、上手く懐に入って素早く切ろう。



 一瞬で今後の展開を思考していると、


「まだ間合いに入ってないのに……!?」


「こいつに間合いなんぞ不要!!」


 炎将寺が思いっきり大剣を振り切りながら叫ぶ。


「ファイアースラッシュ!!!!」


 嫌な予感がしたが、いまさら急ブレーキは不可能なので大剣の軌道上から離れるよう可能な限りジャンプする。


 すると、あいつが大剣を振った軌跡がそのまま飛んできたのだ。

 その炎の斬撃は私の目の前を通過し、地を焼きながら遥か後方に飛んでいく。


「斬撃を飛ばした……ッ!!」


「オラオラオラオラ!!! どんどんいくぜ!!」


 なりふり構わず大剣を振り、次々と炎将寺が斬撃を飛ばす。どうやら技名がなくとも斬撃は飛ばせるらしい。


 しかし厄介なことは変わらず、近づこうにも斬撃が邪魔をして近寄れず、離れて魔法を打とうにも落ち着いて狙いが定められない。


「くそ、ちょこまかと鬱陶しいな!! さっさと当たってくたばりやがれ!」


 これじゃ避けることで精一杯だ。早くしないと、カイナが危ないかもしれないのに。


「……仕方ないか、ごめんカイナ」


「あぁ? とうとう諦めたか?」


 ここで死んだら元も子もない。


 覚悟を決めろ。



「それじゃお望み通り、ちょこまかするのはやめてあげるッ!!」



 避けることを諦め、まっすぐ、ただまっすぐに全速で走る。



 炎将寺が虚を突かれて一瞬だけ反応が遅れる。



「…ッ!!」



 横に一振り。


 

 しゃがんで躱す。




 残り4メートル。





「おらぁ!!」




 縦に一振り。


 アクアで対処する。



Aqua水よ!!」


 火の斬撃と水球がぶつかり、互いに相殺して消滅する。


 暑いフィールドだからって理由でAquaを一つだけカイナから貰って正解だった。





 残り3メートル



 

「燃えろ!!!」




 下から鋭角に切り上げ。




 一撃では死なないと予想して正面から突っ込む。




「っぁぁぁああああああ!!!!」





 HPが3割減。さすがにまだ耐える。



 残り2メートル




「これで終わりだぁぁぁぁ!!」






 炎将寺は大剣を前に突く構えをする。



 この間合いなら十分に刺せると考えての行動。


 事実、間違ってないし、普通なら避ける暇もなく刺されて終わるだろう。


 

 そう、普通なら、だ。




 大丈夫、私なら避けられる。





 大丈夫、




 信じろ、




 速くなれ、





 動け、後ろに回れるほど、


 速く、躱すほど速く、速く、速く、疾く、速く疾くなれ速く疾く速くなれ動け速く疾く疾く疾くはやくはやくはやくはやく――――






 そして私は――







「…なッ!? き、消え――」


「後ろだよ、どこ見てるの」





 ――人の速さを超えた。





「Ignis《火よ》!!!」


 切り裂くだけでは倒せないと考えた私は、炎将寺の背中に向けて火の魔法を放つ。


「ぐはぁッ!」


 イグニスに吹き飛ばされながらも、大剣を支えに辛うじて立ち直した炎将寺は振り向きざまに剣を振ろうとする、が。


「させない! Tonitrus雷よ!!」


 もはや何かをする時間を与えない。このまま勝負を決めるっ!!


「がっ、し、痺れて」


 そのまま炎将寺に接近して奴の手を狙って鉤爪を振る。

 手に衝撃を与えられた炎将寺は、大剣を握る力を失って柄を離してしまう。


「あ、俺の武器が!?」



 そして炎将寺が魔法で反撃をする前に、私は身体を数回ほど切り裂いた。



「くそ、ごめん、兄貴」





「さよなら」





 私の攻撃によって炎将寺はHPが0となり、悔しそうに顔を歪めながら、そのまま光の粒子へと還った。




「ふぅ……。疲れ――」




 ドガァァァァン!!!!




 戦闘の余韻に浸りながらドロップを回収していると、いきなり爆発音のようなものが辺りを震わせた。


「か、カイナ!? 早く助けにいかないと……。」

 


 どうやら、かなり激しい戦闘になっているらしい。



 私は急いでカイナの元へ向かった。



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