第27話 女王篭城戦・破-弐


 時間は遡ること15分、アルが要請した支援物資を見事に打ち落とした男が、高層ビルの下で別チームを説得する場面から始まる。


「まてまて、俺らに敵意はない。その証拠にデバイスは取り外して地面に置いているだろう?」


「提案があるんだ、聞いてくれ」


 男2人が、デバイスを離れた場所に放置して手をあげている。1人は金髪、1人は銀髪の若い2人組だ。

 それに対峙して別の男が2人、いつでも魔法を打てるように手を向けて警戒しながら立っていた。

 その男らは仮面を被っている。アバター変更をせずにリアルバレしない方法だが、割と珍しいパターンだ。1人は黒いウサギ、1人は白いウサギの仮面。どちらのウサギも子供むけアニメに出てきそうな可愛らしい感じの顔なのだが、あまりにも戦場の雰囲気に合わない。


「なんだ、言ってみろ。聞くだけ聞いてやる」


 ウサギ側は警戒しつつも、少しだけ提案が気になるので聞くだけ聞いてみることにした。


「さっき、ここの上空を通過した戦闘機は確認したか?」


「ああ、なにか落としていったヤツだな」


 その戦闘機と赤い物資はウサギ組も確認していた。やはり都市全体から見える高層ビルかつ都市中央なので嫌でも目立つ。


「あれは推測するに、通告メールで伝えられた支援物資だろう。現に赤い箱が落とされていたかいらな。ここの屋上にいるチームは間違いなく支援物資を手に入れた」


「だろうな。それで? まさか手を組んで共闘しようってじゃないだろうな。そんなチーミングみたいな真似はゴメンだぜ、プライドが許さない。楽しくもないしな」


チーミングとは、ランダムマッチ制のゲームで本来は敵同士であるはずのプレイヤーがチームを組む行為を指す。ゲームによっては禁止されている行為だが、今回のMDOは禁止事項に入っていなかった。しかしチーミングはゲーマーとして恥じるべき行為だと世間では認知されているため、好んでいるプレイヤーは少ない。


「……屋上にいるチームがだと知ってもか?」


「……なに? あのクソチート野郎だと? それは本当か?」


 伝説のチーム。全員がブーストを使うイカれた連中。ゲームに命をかけていて、勝てば何してもいいと思っている野郎ども。『ブラッド・オーシャン』は様々な言い草をつけられているが、全てのプレイヤーが共通して認識していることは『恐ろしく強い奴ら』ということだ。


「狂犬がビルを登っていったのを確認した。さらに屋上から長遠距離狙撃も確認した。あんな芸当が出来るのは女王しか俺は知らない」


「それが本当だとしたら、奴らに最強魔法と最強武器は鬼に金棒だな……。だったら今の内に手を組んででも倒したい。しかし、その証拠は? 俺らに今さっき会った敵の言葉を信じろと?」


 ウサギ組は、本当にビルの中にチート野郎がいるということなら手を組んでも良いと言っていた。この男らの情報が本当という証拠はなく、嘘だとも言えるからだ。嘘をついて何のメリットがあるか分からないが、どこまでも警戒して損はないと考えていた。


「ああ、それは本当だぜ」


「俺らも確認した。そいつらの言っていることは間違いないだろう」


 すると、また別のチームが歩いて近づいてきた。その2人はスキンヘッドにサングラスをつけているイカついオッサン達だった。1人は黒いサングラス。1人は焦げ茶色をしたサングラスを掛けている。


「その話、俺らも混ぜてくれないか? ぜひ協力して倒そうじゃないか」


 黒サングラスの言葉に、金髪は喜んで提案を受ける。


「もちろん歓迎だ、多ければ多いほど助かる。あいつらに簡単に勝てるとは思ってないからな」


「……だそうだが、お前らはどうする?」


 銀髪がウサギ組に問いかける。いまさら断っても意味ないぞと言わんばかりに呆れた顔をしていた。


「……ふぅ。そうだな、さすがに二組も確認したなら、その情報に間違いはないだろう。俺らも参加しようか。ただし、条件がある」


「ああ、そのことについて話そうと思っていた」


 金髪が条件について話す。


 ・味方がやられても恨みっこなし

 ・倒した際、ドロップ品の振り分けはランダム、もしくはジャンケンなど公平に。

 ・共闘はビル内だけ。そこからは皆バラバラに散らばって再戦。


 など、様々な制約を設けて話し合いをした。

 その話し合いの間、もう1組チームが参加して、

 さらに、それぞれは覚えやすいコードネームで呼び合うことになった。


 ゴールド、シルバー

 白ウサギ、黒ウサギ

 ブラック、ブラウン

 マッチョ、ガール


 これにより、今宵


 チーム女王を倒すために集まった同志達


 合計8名の対女王合同チームが結成された。


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