第26話 女王篭城戦・破-壱
「78階、クリア」
「77階もクリアですわ」
「了解。76階に向かう」
高層ビルを降り始めて約15分、125階くらいまでは駆け下りて、その後は各階をクリアリングしながらアルと進んだ。今のところ敵の姿は一つもない。
そろそろ現れてもおかしくないんだが……。
「グレイ、75階に降りると下から階段を登る足音が聞こえた。おそらく73階あたり」
「了解。すぐ75階に向かう。アルはその場で待機」
「わかりましたわ」
やはりいたか。さてどう戦うか。
この階層は円形になっていて、○をY字にカットしたかのような通路になっている。それぞれ通路の端に階段がついており、下の階段に俺が、右上にアルがいる。2人しかいないため左上は諦めだ。仮にすれ違いで上に行かれても屋上の物資は空で、俺たちは地上まで降りられれば島の中央まで向かうので上で地の利を取られても問題はない。
「アル、75階ついたぞ。俺も足音を確認した、たぶん一個下の階だな。つまり左上の階段からは誰も来ないと予想する。敵も二手に分かれて俺らが降りている階段をドンピシャで登っているらしい」
「ええ、グレイの言う通りだと思いますわ。一旦2人合流して左上の階段から様子を見ましょ」
アルの指示に従い、俺は左上の階段に静かに向かう。なるべく足音を消して。
1つの通路に部屋は左右に10個、階段側から右に7501a、左に7501bと表記され、中央の分岐まで行くと7510aと7510bとなる。そこから左前にいくと7511a〜7520aと7511b〜7520bまで、右前にいくと7521a〜7530bと7521b〜7530bになっている。
つまり、俺は7501から7520に向かっている。
それぞれ扉を開いた形跡はなく、人がいる気配もない。どうやら俺の予想通り下の階にいるらしい。
しかし、目的の7520に着いた途端、この行動が失敗したと確信した。
「くそ、下から登ってくる足音が聞こえる……っ!! なんでだ、急に登る階を変えたのか?」
「考える暇はありませんわ、すぐ横の部屋に入って隠れますわよ」
「わかってるっ!」
急いで近くの7520a部屋に入り込む。幸い、鍵は空いているので問題なく隠れることに成功する。
部屋のタイプは、高めのビジネスホテルに一番近いだろう。ベット、テレビ、机、ソファーがそれぞれワンセット。扉を挟んで洗面所があり、その隣の部屋にトイレがある。
外観はタワー上部が破壊されていてボロボロだが、どうやら中は綺麗らしい。
どこに隠れるか考えていると、だんだん複数の足音が近づいてくる。
そして、俺らがいる75階の左上階段に敵プレイヤーが到達した。
扉を閉めているせいか、もしくは話してないだけか、声が聞こえない。
どちらにせよ、クリアリングのためにこの部屋を空けて確認することは間違いないだろう。今回の大会はランキング上位によるバトルロワイアルなので、細かく敵の確認を怠らないほどの実力を持ったプレイヤーなはずだ。
アルと、もし入ってきた場合の対処を話し合う。
「どうする?」
「そんなの倒すに決まってますわ」
「了解。なら先手は俺が打つ。残りは任せた」
まぁ想像通りの結果だが、確認することは大事だ。プレイヤーは最大でも2人だと考えられるので、1人を不意打ちで倒してしまえば、勝つのはそんなに難しい話ではない。
俺は迷った挙句、入り口から死角になっている部屋の角に立ち、アルは洗面所の扉の向こうで隠れる。
いつでも戦闘を開始できるよう、俺は雷を纏った斧を出して待機した。
ガチャ
「どこにいる、いるなら出てこい」
低い男の声がする。どうやら俺らが近い階にいることは想定済みらしい。
毎回思うことだが、いたとして返事をするプレイヤーはいるだろうか。いやいるわけないだろう。まぁ戦闘の緊迫感を味わっているだけかもしれないが。
そんな中、静かに、男は俺に向かって歩いてくる。
……よしこい、そのまま近づいたら斬り殺す。
あと3歩。
あと2歩。
すると――
――ガチャ
「そこか!?」
反対側にいるアルがわざと扉を半開きにした。
ナイスだアル!!!
「死ねや喰らえぇえ!!!」
俺は角から飛び出して、反対側を向いている男に向かって斧を振り下ろす。
「ぐっ、この野郎!」
男は策略にハマったことを理解しながらも、反射的に振り向いて反撃の魔法を打とうとする。しかし、俺の斧の雷魔法付与効果で痺れてまともに動くことが出来ず、魔法を発動するのが遅れた。
その隙を逃さずに、アルは魔法を唱える。
「眠りなさい、
「なッ!?」
男はなす術なくイグニスに直撃する。そのまま火の球と共に部屋の端まで弾き飛ばされて、壁に衝突した。
すると、そのまま壁を爆破しながら破壊して外に放出される。
「……眠るってか、落ちたな」
「まさか私も落ちるとは思わないですわよ」
まさかの事態にお互い動揺したが、すぐに仲間が来ることを察したので、急いで外に飛び出す。
「おい、どうした!?」
やはり仲間がこちらに向かってきた。仲間は反対側の7520bを確認していたので、即座に斧で斬りつける。
そして、壁側まで追いやったところでアルがアクアを発動。そのまま同じく外に逃してあげた。ダメージを考えず壁を壊すだけならイグニスよりアクアの方が適任だと考えたのだろう。
「この戦術、最強じゃね?」
「正直、負ける気がしませんわね」
あまりに簡単に戦闘を終えたので、俺は気を抜いていた。
斧をデバイス操作して装備から外し、再び階段を降りようと部屋を出た瞬間――
「
予想外の敵襲に対応できず、俺は通路中央から撃たれた魔法を避けれずに受けてしまった。
「――ッ!? グレイ!!!」
火球の勢いは止まらず、そのまま階段側の壁に衝突してしまう。しかし幸いなことに外に放り出されることはなく、その場で崩れ落ちた。どうやら階段の方は壁が頑丈らしい。
「くっ、
アルが通路中央に向かって魔法を放つ。倒すためではなく、盾として利用したのだろう。
その間に俺は持ち直し、下に降りようと階段を見ると……
なんと、別のプレイヤーが階段を登ってきていたのだ。
「は!?」
「いたぞ!! 女王組だ!」
慌てて方向転換をして、アルに上に登るようアイコンタクトで伝える。
アルは状況を理解し、急いで階段を登る。俺も後から続くように階段を登ろうとする手前、敵の確認をするため通路中央を一瞬だけ目視した。
そこで全てを理解する。
全ての階段から聞こえた不可解な足音、連続する戦闘、そして通路中央にいた3人のプレイヤー。
「あいつら……
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