第15話 荒野地帯


「ここが、さっきと同じ島……?」


 テルが目の前の光景を見て唖然としていた。

 そう感じるのは無理もない。さっきまでいたフィールドは木々が生い茂る樹海のようだったが、の新たに踏み入れたフィールドは、完全に真逆だからだ。


「マジで何にもねえ」


 自然溢れる森を抜けると、まるで別世界のように命が消えたようだ。存在するのは砂か石だけ。遥か先まで見渡しても地平線が眺めることができるだけだった。


 しかも、かなり暑い。


 これはゲームの感覚だけで、実際に汗をかくこともなければ、喉が乾いて脱水状態になるわけでもない。しかし暑い。おそらく、そういう設定なのだろう。無駄に細部まで凝っていることは嫌いじゃないが今だけは運営を呪った。


「なんか……戦うのも走るのも嫌になってきた」


 テルの気分が最悪だ。気持ちは分かるがここは頑張ってもらいたい。


「まあそういうなよ。こんだけ戦いにくい環境なら敵プレイヤーも少ないってことじゃないか? 仮にここからスタートしても別のフィールドに退散するだろう」


 つまり、ここは絶好の支援物資ポイントであり、これを逃す手はないということだ。


「うん……頑張る」


 どうやら少しはやる気になってくれたらしい。助かった。


「よーし、えらいねテルちゃん、いいこいいこ」


「うざ、切るよ?」


 チラリと鉤爪の刃を俺に覗かせる。


 なんだか、うん、もし浮気したら包丁で容赦なく刺されるんだろうなって思った。絶対にしないでおこう。まだ付き合ってないけど。


「とりあえず中心部まで走るか。そこでいい感じの場所を見つけて支援物資を要請する」


「りょうかーい」


 こうして、しばらく砂漠の上を走ることにした。






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 走り初めて数分後、テルが周囲を警戒しながら呟く。


「こんなに見渡しがいいと、敵を見つけやすい代わりに見つけられやすいから遠距離狙撃が怖いね」


 たしかにそうだが、このゲームに至ってはそんなに心配いらないと俺は考えていた。


「でも仮に撃たれて当たったとしても大丈夫だろ。このゲームで狙撃が狙えるのは雷魔法だけだと思うけど、威力がそこまで高くない。スタンも距離があるなら相手が近づいてくるまでに味方が水魔法やらで援護してれば何とかなりそうだ。よくあるFPSなんかのヘッドショット(頭を射抜かれる)で一撃なんてこともないだろう……し……」


「気づいた?」


 テルがこっちを見て意味深な笑みをする。


「そうやって勝手に自分達で決めつけていただけだよ。別に貫かれるわけじゃなし、銃じゃないからって安心して勘違いしているだけかも」


 ……そうだ、思わぬところで死ぬところだった。まだ何も試してないのに決めつけることはよくない。だとしたら今の状況って危ないんじゃないか。


「いや、確かにそうだが……一撃ってことはないだろう。ただ、位置によってダメージは変わるかもしれないな。次に会った敵は頭を狙ってみるか」


 次の戦闘で新たな目標ができた。もし敵が俺らと同じように勘違いをしていたら、かなり有利に動けそうだ。なんなら、まだ勝手な決めつけがあって俺らが気づいていないシステムの抜け穴もありそうだ。


 そんな思考を走りながら続けていると、前を走っていたアルが突然足を止めた。


「どうした、テル。敵か?」


「いや……違う。まさかこんな場所があったなんて」


「ん? なにを言って――」


 テルと同じ位置まで歩みを進める。すると、まったく予想してなかった景色が目の前に広がっていた。


「これは……渓谷か」


 しかし、まったく緑のない渓谷だった。岩肌は剥き出し、谷は深く、川はとうの昔に枯れ果てた様子だ。まるでアメリカのグランドキャニオンのような場所だといえば分かりやすいだろう。その岩山の上に、俺たちは立っていた。


「たぶん、これがこのエリアの中心地だね。砂漠は周囲でこの渓谷を囲んでいて、どこまでも地平線が見えたのは中心地の標高が低いから」


 テルの解説は正しいだろう。そして理解する








 ここが次の俺達の――戦場だと。





「ははっ! 楽しくなってきた!!」


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